何で俺だけ「どちらが罠に嵌められたのか?」
釣りをする場合、魚に疑似餌を食いつかせるには独特の動きをさせると言った手法がある。
より餌が食いつきやすいと思わせる、魅力的な動きと言うモノがある。
「おい、居たぞ?しかも・・・周囲には他の奴らが見当たらねえ。」
「イケるか?・・・一体、だな。奇襲をかけるか?」
「いや、三体一組が基本なんだろ?止めとこうぜ。」
「そんなのはどうでもいいだろ。今がチャンスなんだから行くっきゃねえよ。」
「でもさ、どうする?他のパーティーの所に引っ張って行く?」
「いや、コレは俺たちでゲットしちまおうぜ。同盟組んでる奴らを出し抜いちまえ!」
そんな事を森の入り口の木々の陰で話し合うプレイヤーパーティ。
彼らは既にここで罠に片足突っ込んでいる事に気付けないでいた。
「なあ?あれ見ろよ。合流しやがったぞ?もしかしたらもう一体合流するかもしれないな。」
「よし、その前にやるか、やらないか、多数決を決めよう。」
彼らは魔族が掲示板での情報にある「3」になる前にケリをつけるか否かを議論し始める。
「2ならイケるだろ。」
「三体まで増えたらソレはソレ、当初の「誘導」に作戦変えればダイジョブだべ?」
「様子見をもう少しした方が良いと思うけど。」
「いやいや、みすみす逃す手は無いだろ・・・ほら見てみそ?俺たちには幸運がやって来てんだよ。」
合流したと思えば魔族はまた分かれて離れていく。
「もしかしたらプレイヤーを探す時にはこうしてバラで探すのかもな?じゃあ・・・今の内だな。」
「ああ、次の合流の時までには時間が多少はあるだろうし、一体の所を狙って集中砲火すれば・・・」
「俺たちが初の「魔族殺し」の称号を得られる!」
この意見に纏まったこのパーティは直ぐに行動に移った。空をそれまで飛んでいた魔族が彼らの潜む森の手前に着地した瞬間に攻撃が飛んでくる。
「しねぇぇ!」「一斉攻撃だぜ!」「開幕先制攻撃!先手必勝!」「ずっと溜めてた魔力解放した魔法だ!食らっとけぇ!」「オラオラオラァ!」「もし防げても反撃でき無いだろこれだけの攻撃密度ならよぉ!」
確かにこのプレイヤーたちの攻撃の激しさはなかなかのものだった。だが、既にこの時点でプレイヤーたちの負けであった。
コレはプレイヤーがやった「奇襲」では無い。逆だ。彼らは「誘き出された」のである。まんまと。
止むことが無いのかと思われるプレイヤーの攻撃。次々に魔族に着弾したかと思わしき爆発、煙が起こる。
それも終息してプレイヤーの一人が「やったか!?」と叫ぶ。しかしそれは余りにも甘い見通しだと、彼らは次の瞬間に思い知らされる事になる。
「げ!?魔力障壁出されてる!あのタイミングばっちりだった攻撃が全部無効かよ!?」
「撤退だ!同盟プレイヤーの所に全速力で逃げるぞ!」
このパーティの行動は浅はかと言わざるを得ない。彼らは逃げる際に一斉に魔族へと背を向けて森の中へと入り込んだのだが。
コレは一番の悪手だった。次には一人、また一人とキルされて光の粒へと変換され散って行く。
彼らも底なしの馬鹿では無かったので、森の中を逃げる際には四方八方に別れて逃げ出していた。
そうすれば敵は一人だけなのだ。生きて逃げる事の出来る可能性は上がる。そう、上がるはずだった。
だけれどもその結果は無残にも一人だけのプレイヤー残して五人はキルされた。一瞬の早業である。
コレにワザと「生かされた」と言った思考に行き届かないプレイヤー。
「絶対に行き延びる!そして・・・くっそ!コイツ追って来てやがるのかよ!でも!その方が都合が良いぜ!誘き寄せて約束の場所までひっぱれりゃ俺の勝ちだぁ!」
追撃、魔族はそのプレイヤーを追いかけていた。しかしあくまでも「追いつく」事はせずに絶妙な距離感でである。
プレイヤーを森の中で「倒す」と言った意思がある風に見せる演技も忘れない。ちゃんとプレイヤーを狙って魔法を放っているのである。
しかしそれはプレイヤーを殺さないギリギリを狙っての事だった。この作られた危機をプレイヤーがこの時点で違和感を感じられていたらまだ間に合ったかもしれない。
「もう少しだ!もう少しでこいつはハチの巣だぜ!仲間が俺以外残ってないのは癪だし!そのあたりの作戦は失敗かもしれねーけど!魔族が殺せりゃ何の問題も無いんだ!」
森の中のどうにも人工的に開かれた広場。プレイヤーはその中央に到着すると叫ぶ。
「今だ!出てこい!」