何で俺だけ「狙撃」
「おい!狙われてるぞ!物陰に隠れろ!PKだ!PKが出たぞ!」
この言葉で一斉に野次馬たちは散開した。自分たちが狙われると思って。しかしそれら野次馬たちでは無く、真っ先に狙われて次々に消えていくのは「横入り」をした奴らだった。
それを目の前にしている経験値を横取りされたと文句をそいつらにつけていたプレイヤーたちは「ザマア!」と叫んで喜びの醜い笑顔を全員が晒した。
でもコレは間違いだった。その様な事をしていないで直ぐに「横入り」していた奴らが消えて行っている間に逃げるべき、物陰に隠れるべきだった。
次に消えたのはそのプレイヤーたちだった。一人、また一人と確実に消されていくプレイヤーたち。
そして最後に残ったリーダーであるプレイヤーが叫んだ。
「ど!何処から狙われてるんだよぉ!?くそがあああ!絶対にこの屈辱は何倍にもして返してやるからなあ!」
最後までそう叫んだ瞬間、そのプレイヤーも光に変わった。
その後も次々にその街に存在するプレイヤーたちが、消えて、「消されて」いく。物陰に隠れて上手くやり過ごせていた者たちは被害を免れたが、逃げ遅れた者たちは次々と消滅させられていく。
この正体も、その攻撃方法も分からないPKの存在にこの街は「殺され」た。
物陰に隠れていた者が「もう大丈夫だろうか?」と言った感じで顔を少しでも出せば、一瞬でキルされる。
こうなっては誰も今隠れている場所から出る事は叶わない。一気に大人数で散開して逃げ出した勇気ある者たちは、その半数の犠牲を持って這う這うの体で逃げる事に、その街から脱出する事に成功する。
するが、それ以降はその街へと一切近付く事はしなかった。その職人街へと行こうものなら、またしてもその「悪夢」の中に入る事に他ならないからだ。
そんな悪夢の中へと積極的に入って行こうと思う者など皆無だろう。こうしてこの街はゴーストタウン化し始めていく。
この噂はこの事件で一気に広まった。そしてその街へと向かうものは激減。生産職も自分の広げた店舗から一歩でも外に出ればキルされる。
この街から出るには一度キルされた後に自分が再び復活する場所を別の土地の「教会」を選ばなくてはならなくなるのだ。
そうするともう自分の作り上げた「城」、大事な大事な自分の店に帰れなくなる事になる。帰れば街に入った時点でキルされる。コレは確実だった。
生産職の者たちは自分たちの命運がここで尽きた事を理解した。そしてゲーム内掲示板や、チャットでこの街を放棄する事を決定する。
各自が店に残したアイテムを全て回収し、そのまま街の外でキルされて教会へと戻り、ほかの土地での再起を図る。
アイテムさえ手元にあれば店なんてどうって事は無い。また建てればいいと。生産職のキルされたレベルはまた上げればいいと。
こうして大回収作戦が発動した。ガーディアンと呼ばれる防御に秀でるプレイヤーを雇い、職人街でアイテムを回収を出来ずにキルされた者たちの店を回って武器、防具、道具、素材などを回収する部隊を作り上げたのだ。
その数はゲブガル戦争で導入された数に近くなるほどに膨れ上がる。戦闘職には生産職の協力が必要不可欠だからだ。彼ら戦闘職は生産職の作り上げる諸々が無ければ魔物とは戦えない。
そしてこうしたこの作戦は成功を見せる。PKと見られる存在の攻撃を防ぐことが可能だと言う事が判明したからだ。
生産職しか店の中の物は回収できない。なのでその護衛に十人もの盾持ちプレイヤーが付くのだが、その内の一人の持つ盾、それに偶然何処からともなく攻撃がぶつかる音がしたのだ。
そしてその音は紛れも無い「弾いた」音。コレで見えない敵の攻撃を防ぐ事ができると判明したのだ。
その後の仕事は早かった。攻撃を狙われるのは大抵は頭だと言う事も盾が攻撃を弾いた角度から判明し、防御を固める部分は頭だけで大丈夫だと言った事も次々に分かって行ったのだ。
プレイヤーたちはその事実からドンドンとその職人街から必要なアイテム全てを回収する事ができたのだった。