何で俺だけ「平和なうちに観光を」
アレから数日が経っている。プレイヤーたちの動きも最近は落ち着いているようで、運営からのイベントが割り込んでこなければこのまま静かに、しかし着実にプレイヤーたちは力を上げていくと言う見込みだ。
そんな中で俺は毎日の日課を欠かさずに行っている。地道な作業である。しかし塵も積もればなんとやら、と言えば聞こえが良いかもしれないが、結局は大きく動く事ができないだけである。
自分がこの玉座の間から一歩も出れない現状はどうしようも無いのである。
そんな中で精霊のシルフさんはこの魔王の城をあちこちと飛んで回って色々な場所を観察している模様だ。
どうにもベイルがソレをやらせているらしい。別段今は何らその事で被害も出ていないし、何かしらの暗躍などと言った事は無いみたいなので放って置いてはいるのだが。
「どうやらベイルはこの魔王城の構造、そして土地を完全に把握するために精霊を飛ばして道案内などをさせているようです。」
キリアスがベイルが精霊に何をさせているのかを言葉にする。どうにもまだまだこの城に、というか、この城に居る様々な種族とベイルは馴染めていないんだろう。
「そんなにウチの部下に案内を頼むのが嫌なのかね?全部自力でするつもりかな?もしかしたら間者を入れて工作でも仕掛けるつもりなのか?」
憶測はしてみるが、それでどうなると言う訳でも無いだろう。ベイルはそこまで馬鹿じゃ無いはずである。
その様な隠れてこそこそする作戦をこちらに仕掛けてきて、それが万が一にバレたら自らの故郷がどの様な目に合うかは理解しているはずだ。
精霊を飛ばしてこの魔王城を探らせる事は別に隠している様子が無い。自分の行動が監視されていると言うのは重々承知の上での行動であろう。
ベイルがどの様な考えでいるのかをちゃんと近いうちに話合わないとならないなと感じる。
と、ここでどうにも奇妙な報告が入る。それを持ってきたのは一人の魔族だった。
「おーい!魔王様よ!俺が城の外に出て武者修行の旅から帰って来た時に、プレイヤー共を城の近くで見かけたぞー?」
玉座の間にそんな事を言いながらボッズが入って来た。彼は自らの力をもっと上げる為と称して城からちょくちょく修行と言っては出て行き、こうして帰って来る。
「んー?別にここにプレイヤーが近付いて来るのはおかしい事じゃ無いけど。なんか変な様子でもあったか?」
俺はボッズに無理に喋り方を変えないでも良いと言ってあった。ミャウちゃんはコレに難色を示していたのだが押し通した。ミャウちゃんからしてみると、敬語を使わないボッズにイラつきがあるんだろう。
「あー、何か跳ね橋の前にたむろしていてな。邪魔だったからブッ飛ばしておいたんだが。ありゃ何だろうな?珍しいモノでも見に来た、何て言った感じで呑気にしてたぜ。緊張感なんてこれっぽっちも無かったな?」
「何か言葉にして無かったか?覚えてるだけでいいんだ。教えてくれるか?」
俺はそのプレイヤーたちが何を目的で城に近付いてきたのかが全く分からない。
まだまだ「魔王」へと彼らが挑んでくるには早過ぎる、と言うか、城に入る為の準備も不十分にも程がある状況だと感じるが。
プレイヤーはまだあのイベントで見た「光の力」を手に入れていない。掲示板を俺はちょくちょく確認をしていたりするが「ゲットだぜ!」と言った報告を見かけた事がまだないのだ。
もしかしたら切り札として手に入れた者は隠している可能性もあるのだが。
「あー、何だったかな?「前に見た時はこんなじゃ無かったんだが?」「観光目的で来てみたけど、城が進化してるなんてワロス」とかだったかな?」
どうやら観光巡りでもしているプレイヤーである様子だ。一度来た事がある者、初めて来た者が混じっていたのだろう。
ツアーガイド的な事をして小銭を稼いでいたりするプレイヤーも居るのかもしれない。ゲーム内の観光名所案内的な仕事をして。
「十二人だったな。全員で。一応はそいつらを問答無用でぶちのめしておいたんだが、駄目だったか?」
ボッズはどうやらプレイヤーを殺しては居ないみたいで、どうにも全員を「気絶」させて城の中へと入って来たらしい。
「ああ、別に構わないよ。ボッズがそうしたいと思ってやった事に俺から口は出さないから。好きな様にしてくれ。それぞれの自主性を大事にしてるから俺は。」
俺はこの件に「平和だな~」などと言った呑気な感想を持つのだった。