何で俺だけ「精霊のシルフさん」
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!何故私の魔力をありったけ込めた精霊の魔法が効かない!?どう言う事だ!一筋も傷が入らないなどと!」
怒りと困惑、と言っていいだろうか?ベイルはそう言ってその顔を顰める。
「いや、俺も驚いているんだけどね実際。だって精霊って言ったら強力な存在でしょ?ソレの攻撃が通じないって、この俺ってどれだけチート?」
俺が「精霊って強いじゃん?」とか言ったセリフにシルフが「イヤー、それほどでも~」みたいなジャスチャーをしている。というか、何だろうか?聞こえた?
「あー、シルフさん、シルフさん。君ってやっぱり専用に儀式とかやって契約をしないと力を貸してもらえたりしないのかな?精霊魔法ってちょっと憧れるんだよねぇ。」
俺はベイルに対して聞いた訳では無い。シルフに対して直接聞こうとした。コレを馬鹿にされたと思ったのか。
「貴様!何を言っている!エルフを侮辱するのも大概に・・・!」
と、ここでベイルが叫んだのだが、いきなりその言葉が止まる。コレはミャウちゃんがいい加減に堪忍袋の緒が切れたからである。糸で拘束していた。
この糸をシルフがその魔法で切り裂いてベイルを自由にさせる。ミャウちゃんがコレにちょっとだけ驚いて構えを取った。
どうやらシルフに自分の糸を切られた事が意外だったようだ。
シルフの方も「ベイルを傷つける事は許さない」と言っていて。
「んん?言ってる事がちゃんと聞こえる?あー、ベイル、精霊の声って、ちゃんと君には聞こえていたりするの?」
俺の質問の意図が呑み込めていないのか、ベイルはこれに訝し気な目を俺へと向ける。その表情には恐怖が浮かんでいた。どうやらミャウちゃんに一瞬でも拘束を受けた事で強さの差を実感したらしい。
「・・・一体、その質問は何なんだ・・・精霊の声?エルフの誰もその様な事は聞いた事が無い。どう言う事だ。」
俺にだけ精霊の声が聞こえている?ソレを確かめるために俺はシルフへと意識を集中した。すると。
「大丈夫、ベイル?糸は全部切ったけど、何処にも異常は無い?」
と心配げな表情でベイルの周囲を飛び回っていた。それは彼女に傷一つ無い事を確かめるように。
「あー、御免ねシルフさん。俺としては彼女を傷つける気は無かったんだ。ミャウちゃんがちょっとベイルの態度に御怒りでね。それで堪らず攻撃を仕掛けちゃったけど、怪我をさせる気でやった訳じゃ無く、抑え込むだけのつもりだったんだ。心配させてしまったね。御免ね。」
俺はシルフをしっかりと見つめつつそう真摯に謝罪をした。コレに驚いたのはシルフ、だけでは無い。ベイルも驚いたのだ。
シルフが俺の掛けた声に反応して俺へと向き直り「うん、分かった。受け入れるよ」と謝罪を受け入れると言ってくれた。
コレにどうにもベイルが驚愕の顔をしたのである。きっと俺が先程した質問の中身を今これで理解したのだ。
ベイルはきっとこのシルフの声を聴けていない。けれども俺の言葉に対してシルフが何かしらを受け答えたと言う事実に震えている。「そんなバカな・・・」と。
「ミャウちゃん、これからは安易にベイルに仕掛けちゃ駄目だよ?こうして俺は攻撃を受けてもぴんぴんしていたんだから。傷も怪我もなにも無かったんだから心配しないでも良いって事は証明されたでしょ?反抗的な態度を取ったくらいで怒っちゃ駄目じゃないか。別に俺は気にしていないんだから。良いんだよ。あ、でもミャウちゃんは部下としてそう言うのが見逃せない、って言うのも分かってるから。それでも、ベイルはこれからは身内って事になるからね。それ相応の対応をしてあげて。あ、ベイルに仕事を見繕わないといけないね。何か得意な分野とかはある?後で城の皆と相談して自分に合った仕事を見つけて早くここになれて行って欲しいな。あ、傷を癒やすポーションとか作れない?ウチもそう言った医療物資とか備蓄しておきたいんだよね、いざという時の為に。あ、もしかして錬金やら薬学とかは得意じゃ無かったりする?ああ、それは後でまた話し合えばいいか。」
俺はベイルが驚愕で混乱をしている所にかこつけてベラベラと言いたい事だけを言っておいてこの謁見を終わらせた。
「正直、あれもこれもあり過ぎて疲れた・・・」
ミャウちゃんとベイルが玉座の間を出て行った後に俺は肩の力を抜きながらそうぼやいた。