何で俺だけ「PK」
それは突然現れた。いや、本来であればこのゲームにおいて、その行動は許されている行為だ。
しかし被害に遭った者たちは皆全員どうやってキルされたのかすら分からないと言う。そしてその周囲に居たプレイヤーたちもそれがどの様に行われたのかは予想を付けていたのだが、どこを探してもその犯人の痕跡すら見つける事が叶わなかった。
PK、それはプレイヤーがプレイヤーを襲い、殺す行為。このゲームではそれをやったとしても何らメリットが無い行為なので目立った被害などは今までは起きていなかった。
やっても無駄、プレイヤーたちから恨みを、憎しみを、只々買う行為でしかないそれは、このゲーム内において深い事情が無ければ行われない事であった。
それが白昼堂々?とゲブガル戦争と呼ばれるプレイヤーズイベントの後に発生し始めた。それは確実に、着実に。
そしてそんな中で喧嘩が勃発した。とある街で。そこは生産職が多く店を出すいわゆる職人街だった。プレイヤーたちが集まって自分たちで作り上げた専門の街であった。
こう言った自分たちで「何でもできる」事がこのゲームの一つの人気を支えていたモノの一つである。
そんな街で二人のプレイヤーが言い争っていた。
「お前は俺の獲物を横取りして何が楽しいんだよゴラァ!?」
「ああ?!てめえがチンタラ俺たちの進行方向で魔物と戯れてるから邪魔だったからブッコロしたんじゃねーか!お前の方が先に迷惑をこっちにかけてんだよ!気付けや!馬鹿なのか!」
「アンだとコラ!勝手にコッチの戦闘に横入りしてきて止めを刺して経験値奪いやがって何言ってんだてめえ!マナーもモラルも守れねーならこのゲームで遊んでんじゃねーくそ虫が!この寄生虫野郎!」
このゲーム、パーティーと言う範囲があるが、別に他のパーティーの戦闘中に参加できないという訳では無い。
その場合は参加を表明し、助けに入る、または別の事情で理由があってその戦闘に参加する旨を先に戦っていたパーティーに申請をするのがプレイヤー間でのマナーだったのだが。
そうして「レイド」の形に受けた申請を受理して魔物に勝利して初めて経験値は分配となる。
けれどもこの喧嘩はクダラナイ理由で横から入ってきたパーティーが止めを刺したばかりに経験値はその「横入り」の方へと全て流れて行ってしまったのだ。
先に戦闘をしていた者たちのそれまでの努力は水の泡、どころでは無く、最後の最後、美味しい所を全て奪われた形になるのだ。
これを許せるはずは無い。自分たちが得るモノを横から全部掻っ攫われた、しかもなんの努力もせずに「横入り」してきた者たちに、だ。
「てめえらが弱いのを棚に上げてんじゃねーぞ!」
「ああ!?強けりゃ何でもしていい、って言いたいのか?だったらお前らも同じ目に遭ってみやがれ!人の気持ちも分からんサイコパス野郎!」
しかしそこでこの喧嘩は終了した。いや、無理矢理終了させられた、と言った方がこの場合は合っている。
「横入り」をしたパーティーの者たちがそこには全員居た。そして経験値を奪われた者たちの仲間もそこに居た。
しかし言い合っていた二人が気付いた時には「横入り」の方のメンバーが一人居ないのだ。先程直前までそこに居て、移動した様子も感じられなかったのに。
しかしこの喧嘩を周囲で見守っていた他のプレイヤーは目撃していた。その消えたプレイヤーがいきなり光の粒へと変換されるのを。
それはログアウト、では無いのだ。プレイヤーが殺された時に出るエフェクトである。
この時、誰もこのPKされた瞬間を確認する事ができていない。どのような方法でキルされたのか全く分からなかったのだ。
この時、この職人街に激震が走った。その後、この街は恐怖のどん底、まるでパニック・ホラー映画の様相を呈した。