何で俺だけ「部下のコントロールができていない私に全責任があります」
「いや、本当にごめん・・・俺もこんな事になるとは思ってもみなかったんだよ・・・」
実質で言うなれば一日半でエルフの国を陥落させたと言う事である。この様な常軌を逸した軍とバチバチにぶつかり合って退けても被害が甚大になり過ぎると判断したのかもしれない。コレはエルフ側の英断であろう。
戦争に対して、勝っても得られる利が赤、真っ赤っかである。得られるモノはゼロ処じゃ無い。寧ろ、ここで負けて降伏しておいた方が得られるモノがあると言うのは何たる皮肉だろうか?
「あのさー、俺はさー。鎖国状態のエルフの国にね?ウチの武力で以ってして、外交を開こうとただ考えてたんだよ。軍の強さによる圧迫外交っていうの?武力背景を使って半ば無理矢理な感じで国交を開いてね?でもそれだけじゃ無いよ?次第にお互いの立場を平等に徐々にしていく感じでね?お互いに利益が大きくできるやり取りをしていきたいな、何て思っていたのよ。・・・思って、いたのよ・・・いや、もう、ホント、ゴメンナサイ。」
俺がこの様に謝るものだからベイルはその美しい顔をポカンとさせた。しかも俺がどの様に考えてエルフの国と交流を持とうとしていたのかのビジョンも聞いた衝撃なのだろう。その衝撃は尾を引いた様で長めにその状態は続いていた。きっと呑み込めないんだろうこの事実を。
そんなベイルの顔を俺は「美人はどんな顔をしていても美人だなぁ」などと間抜けな事を考えてしまっていた。
「そんなバカな話があるかぁ!ぐっ・・・クソぅ!私たちがこれでは馬鹿みたいではないか!いや!実際に我らエルフを馬鹿にしている!しかも一番上に位置する立場の魔王ともあろうものが!部下の動きをちゃんと操れていないのか!ああもう!なんだと言うんだ!」
鬱憤やら不満やら怒りやら、様々な感情が爆発したベイルが叫ぶ。コレに直ぐにミャウちゃんが「糸」で拘束を仕掛けようとしたのか、微かに動いた所が見えたので俺はソレを「まあまあ」と抑える。
コレに行動を止めてくれたミャウちゃんはまたすました顔でベイルを見る。妙な動きをすればきっとミャウちゃんがベイルを止めるだろう。
「これほどまでにコケにされて黙っていられるか!精霊よ!我が声に応えよ!エルフを侮辱するは精霊を侮辱するも同然!出でよシルフ!風の刃で目の前の存在を切り刻め!」
まるで演劇でもするかのような動作で手を前に突き出し、俺を指さしてベイルは「精霊」を呼び出した。
そのベイルの肩に小さな小さな手のひらサイズの半透明の子供、その背中には虫の薄羽の様な物が生えていた。
「わぁ~、それが風の精霊?シルフなんだなぁ~。羽が虹色に光ってて綺麗だなぁ~。」
などと呑気な事を言っている場合では無い。ベイルは俺へと敵意を持って攻撃を仕掛けてきたのだ。
コレにミャウちゃんが動くか?と見せて俺が先んじて目で合図を送っている。手出しはしちゃ駄目だ、と。一応は魔王通信でも伝えて。
そしてそのシルフはと言うと、出てきた時にはベイルの言葉を聞いていたんだろう。目の前の俺、魔王を睨んでいたのだが。
俺が口に出した「羽が綺麗だね」の言葉に「えへへっ」みたいなジェスチャーを取っていた。でも駄目だ。
既にシルフは強烈な攻撃を仕掛けて来ていた後である。俺へと不可視の刃が迫ってきていた。
「・・・あれ?一応は怒らせちゃったし、それが落ち着くまではと思って無防備に魔法を受け続けようと思ったけど・・・なんも影響が無い?」
そんなはずは無いだろうと俺は思ったのだが。しかし何らダメージを負ったような感じがしない。
確実にベイルはシルフへと「風の刃」と言っていた。ならば俺の体にはその攻撃魔法で傷がつくはずだ。俺は何も防御態勢を取らずに本当に無防備なままで攻撃を受けている。
なのに何も変化が無い。途中でその魔法が解除された訳じゃ無い。シルフが魔法を放って直ぐにソレは俺へと到達している。確実に俺は「風」を感じていたのである。
「そ・・・そんな馬鹿な!私の攻撃が通じていない!?」
ベイルは驚いた顔をしてそう言う。その肩に乗るシルフもまるで「うっそ!?」と言った感じで両手をその口元に持って行って驚いた表情になっていた。
(精霊は感情表現が激しいな?というか、シルフだけがそんな感じなのかな?他の精霊は?どんな感じなのだろうか?)
と、やはりここでも俺は呑気な事を考える。そしてベイルの驚いた表情もまた「美人だなあ」と言った感想を持つ。この場で何処までも一番緊張感が無いのは俺だった。
ミャウちゃんが俺に傷一つ付いていない事を見て「流石魔王様」などと呟いているのが俺には聞こえた。