何で俺だけ「あり得ない侵攻作戦」
「我がエルフの森は魔王国の隷属国となる。その上での人質として私がこの国に留まる。了承願う。」
俺はコレに先ず驚き過ぎて沈黙してしまった。そんな状態の俺に訝し気な顔でベイルは視線を送って来る。
「ちょっと待って?え?隷属国・・・とか言った今?それって・・・国を奴隷の様な扱いをするっていう意味か?しかも魔王国?・・・ミャウちゃーん!せ、つ、め、い、して~?」
最後に俺は混乱の余りに変な声でミャウちゃんにこの「経緯」の説明を求めた。
ベイルはベイルで俺が部下を「ちゃん」付で、しかも威厳も何も無い様な話し方で喋るものだから、余計にその綺麗な顔、その眉間に皺を寄せさせてしまっていた。
「は!畏まりました。では、城から出た後からご説明いたします。」
ベイルがミャウちゃんのこの態度にも反応する。困惑だ。魔王と言う強大な存在と、この部下の関係性はどの様になっているのか?とか思っているに違いない。
で、コレに受けた説明を簡潔にすると。
城から出て真っすぐにエルフの治める森の入り口に到着。どれくらい兵を出したのかは具体的な数を俺が、この魔王の城の主である俺が把握できていないそもそも。
作戦としてミャウちゃんがどれくらい兵を投入したのかを余り聞きたくは無かったが、その数は「二千」近いと言う事だった。
コレに俺は「え?たったの二千でエルフの国を陥落させたの?!」とか心の中だけで秘かに思った。
話が逸れてしまったが、その後である。
単騎でミャウちゃんが森へと突入。コレはエルフへと「宣戦布告」をする為のモノである。使者を出したのだ。それをミャウちゃん自身が行くのが常識外れなのだが。
どうしてそう言った使者に「軍の最高責任者」が行くの?と盛大に突っ込みを入れる所である。危険極まりない。
また話が逸れた。それだけ俺の想定していた軌道から思いっきり逸れていると言う事だ。
で、ミャウちゃんはエルフの棲む土地に侵入する、無事に。何故ここで「無事に」などと付けたのかと言うと、その森にはエルフ以外の者が入ると道に迷わせると言う「結界」が張られていたからである。
ミャウちゃんがその森を抜けたと言う説明をしている最中、ベイルはずっと苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。どうやらミャウちゃんが森を抜けて来た事が未だに信じられないと言った感じである。
また話が逸れたが、ここでミャウちゃんはエルフに宣言したのだと言う。その中身はと言うと。
『これより、魔王軍はエルフ国に攻め入る。抵抗せよ。武器を持ち戦え。さもなくばお前たちはこれより魔王様が支配する。それが納得できぬなら我々を追い返す力を見せてみるがいい。』
この宣言を聞いて俺は「えー?何それー?」と不服で一杯だ。
で、そしてまあ当然、コレにエルフが従うはずも無く、一戦交えたと言う訳だ。で、結果は。
「我が軍には重傷者は無し。エルフの方にも同じくであります。」
ミャウちゃんが被害報告をしているのだが、コレに俺は「何で?」となる。幾ら何でも真正面からぶち当たってるんじゃないの?被害が拡大してもおかしくないんじゃないの?と。
最初に俺は確かに注文はした。相手にもこちらにも被害は出しちゃ駄目だと。それを無茶ぶりだと言って止めようと思ったけど、ミャウちゃんはそのまま実行するとか言ってきたのだ。「あ、はい」とコレに情けなくもそれだけしか言えなかった俺が悪いのだが。
で、その戦いの中身はと言うと。そのままだ。二千という塊でそのまま森を蹂躙するかの如くに真っすぐに正面突破したらしい。
軍を守るのは魔法障壁に長けた者たちで固める。そのまま目の前に立ちはだかる木々を切り払い、薙ぎ払い、燃やし払い、叩き折り払い、と。
滅茶苦茶なやり方で正面切って進軍をしたと。それを可能にしたのがドワーフのあの汎用剣だそうで。
そのほかにもミャウちゃんの「糸」も大活躍。マイちゃんもこの作戦に参加していて魔法で森を盛大に燃え上がらせたと言う。
ちなみに幹部用に作られたあの恐ろしい効果を持つ剣もこの作戦で少しだけ使用されている。ミャウちゃんとマイちゃんが魔力を込めて巨大な岩を切った所、たちまちのうちにその岩は消滅したそうな。改めて心胆寒からしめる「刀」である。
で、この侵攻をエルフは止める事ができなかったと。こんな力技を止めると言う良い手立てが思いつかなかったか、或いは実行できなかったのだろう。
こんな進軍の仕方は俺だって思いつかない。しかもその勢いも森を真っすぐに突っ切ってエルフの国の直前までを一日で踏破したのだと言うのだから狂気である。
道中でエルフの抵抗もあったそうだが、弓の攻撃も、魔法の攻撃も、魔力障壁隊のおかげで無事に全て防ぎ切ったと言う。
こうしてエルフの国を囲うその防壁の前で一旦魔王軍は野営となったそうで。その翌日。どうやらエルフたちはこの魔王軍の余りにも常軌を逸した強さに白旗を上げたそうな。
「異常だよ!?ウチの軍の強さ!何それ!?」
俺はこの時、申し訳なさ過ぎて両手で顔を覆ってしまった。