何で俺だけ「勝敗が決した後は」
ドウゴンがここで負けを認めてしまったらどうなると言うのか?ドワーフの国の威信が掛かっていたのではなかったか?
「このワシが作った物が、他種族が作り上げた物に負ける?考えた事も無かった。ワシは・・・わしは一体何に囚われていたと言うんじゃ・・・」
思いっきり自分を見つめ直しているドウゴン。彼に掛ける言葉は無い。何を言おうともこの場合は何ら慰めにもならないだろう。こちらがこの勝負に勝ってしまっているのだから。
「勝負はついたようです。そこでこの場をお借りして私たちの作った物も見て頂けませんか?」
この時突然そう言いだしたのはドワーフ付き人の四名だった。彼らが一週間で作っていただろうその剣が運ばれてくる。
ソレは至ってシンプルなデザイン。無骨な刀身、鞘にも何ら飾り気は無い。しかし、そこに込められている技術はドウゴンのそれとどうにも近いようだ。
「刃の部分には切れ味を上げるエンチャント。剣内部の芯には折れず、曲がらずの為に「固定」のエンチャントが入っています。鞘に剣を入れておくと錆を防止する魔法が発動するようにしてあります。」
実に実用性重視。出来も素晴らしく、一種の「単純さ」と言った観点からして見て美しさすら感じさせるその剣。
これを今回ドウゴンの付き人として来ていた四人のドワーフが製作したのだと言う。
「こちらには今回切れ味をエンチャントしましたが、別の物に変える事もできます。斬撃が対象に食い込んだ時に炎熱を追加で与えて傷を焼き焦がす、傷口を氷結させるなども。他にも複雑な付与魔法にも耐えられる様な素材の配合をして汎用性を追求いたしております。」
いわゆる属性剣も作れるよ、と言い出したドワーフたち四名が説明をしてくれる。
「剣先から暴風を出して相手の体勢を崩す、高水圧の水を放射、コレで相手を水浸しにして電撃魔法を撃ち込むなども戦略としては可能となります。強力な闇属性の魔力弾を剣先から出す事も可能。無属性の魔力を刃にして刀身を伸ばすなどと言った奇策もできるように。」
まるでどこかの通販番組でも見ているかのようだ。
「それは素晴らしい!欲しい!・・・でも、お高いんでしょう?」
俺はノリで聞いてしまった。いや、ここは言わねばならない場面だった。
「いえいえ、この度は魔王様とのお近づきのしるしにこちら、製作数は十本と言った少ない数ではありますが。何と、只でお譲り致します。炉も、材料もこちらが出した物では無く、最初から提供された物で作り上げた剣です。我々が所有権を主張するのはいくら何でも顔の皮が厚過ぎます。」
安くても、多少は高くても、買おうと思っていたのにタダでくれると言う。しかしこれに俺はこう返す。
「でも、製作のための技術料があるでしょう?幾ら払えば良いかな?相場が分からないんだよねえー。」
「ソレは今回の使わせて頂いた炉の使用料と相殺と言う事で一つ、宜しくお願い致します。あの炉で作ると言う経験は何物にも代え難いものでした。・・・しかし、しいて言わせて貰えるのであれば。」
どうやら要求があるらしい。しかしドワーフが続きを言う前に俺の方から申し入れてしまった。
「何でも言ってよ気軽にね。君たちドワーフの技術力は正直言って欲しい所なんだ。友好関係が結べたらと思っているんだけど、どうかな?」
この発言は流石に思わず先走ってしまった感が強い。ちょっとぶっ飛び過ぎたかと一瞬だけ思ったのだが、これの返事はと言うとだ。
「友好・・・はい、我々もそう思っておりました。私たちの技術をこちらに提供する代わりに、鉱山から採掘された珍しい鉱石を優先的に買い取らせて頂きたく。」
こうしてドウゴン置いてけ堀で「魔王」と「地下大帝国」との友好が結ばれる事となった。