何で俺だけ「そしてその時が」
「先ずはワシから出させて貰おうか。これを見よ!ワシこそがドワーフを代表する鍛冶職人よ!」
ドウゴンはきっとこの勝負を酒飲み対決の負けの面目躍如に使いたかったんだと思う。
ドワーフは酒の強さに価値を見出している。そこで負けてしまって面目が立たないんだろう。それを補うためにもう一つの「強さ」を見せつけたいのだ。
そして台の上に乗せられた剣が露わになる。布を被って隠されていたソレがドウゴンの手によって取り除かれてその全貌が明らかとなった。
ソレは美しい装飾と細やか、かつ、大胆な彫り込み柄の入った光り輝く剣だった。鞘にもきらきらと黄金と銀の輝く、ソレはそれは豪華な物である。
「美しさだけでは無いわい!切れ味もとくと御覧じろ!」
その剣を持ってドウゴンは付き人四名が用意しておいた鉄の棒に振りかぶる。そして一閃。
音も無く鉄の棒には切れ目が入り、するりと真っ二つになって床に落ち、綺麗な金属音を立てた。
「どうじゃい!ワシの作った剣は!これを上回る物がおいそれとワシ以外に作れる者が居るものか!」
そう言ってドウゴンはふんぞり返って胸を張る。いやはや、俺もこれには同意した。
「すげーなやっぱりドワーフって。流石鍛冶の名工ドウゴン!よっ!世界一!」
俺はそう言って太鼓を鳴らす。ドウゴンをおだてる。いや、心の底からの賛辞だコレは。こんなに美しくて煌びやかで頼りなさそうな只の美術剣にしか見えないコレが、こんなにも切れ味鋭いとは思わなかったのだ。
実用性が充分以上にあり、そしてこれほどに見た目も良いのだ。確かにドウゴンはドワーフの国で五指の中に入ると言うのは納得できた。
俺のこの賛辞を受けてドウゴンは「あたりまえじゃい!」と声を張る。ちょっと照れていたのか顔はほんのりと赤いように見えた。
まあ顔が毛むくじゃらと言える程に髭がヤバいのでわずかに見える肌の色からの判断だから、ドウゴンが内心どう言う風に思っているのかは良くは分からないが。
「これほどに切れ味が高いのはやっぱり「エンチャント」をしているのか?」
俺はやっぱり切れ味に此処で着目した。俺が「刀」を作りたいと考えたモノにもやはり「付与」を魔法でして切れ味を上げたいと考えていたからだ。
ソレは銀狐族にも可能だと言った報告を受けていたので、俺はコレに計画通りに行けばもの凄い武器ができるなあ、なんてちょっと期待していたんだが。
「おうよ!ワシが掛けられる魔力を最大限に出して切れ味上昇の付与を掛けてある。なかなかに目の付け所が良い。それと、頑強さもそこに混ぜてある。刀身が歪むのは剣として致命傷だ。折れるなんて言うのも持ってのほかじゃからな。」
どうやら俺と同じ考えをドウゴンは持っていたようだ。しかし日本刀のパーツ数は「西洋剣」よりも多い。
掛けられる付与の数も俺の考えが成功していればかなりの多さにできるはずだ。
そしてソレができたのか、そうで無いのかはこれから判明する。
「では、次はこちらの刀剣を御披露させて頂きます。」
そう言って前に出てきたのは鍛冶を任せたチームメンバーの一人だった。まだまだ若い青年魔族だった。
彼はその手に今回の勝負に出す作品を持っていたんだろう。布が巻かれた棒の様な物を持っている。
ソレがするりと取り除かれた。そこには黒く光る鞘、それは確かに俺のデザインした「刀」であった。
鍔は何ら装飾の無い無骨な楕円で、握り手部分は紫色の紐を使用している。
鞘に入っている全体像はドウゴンの作った剣と比べたら何処もかしこも見劣りする所ばかりだ。いわゆる地味である。
しかしここで重要なのはこの勝負に勝つか、負けるかでは無い。俺の思い描いた武器ができたのかどうかである。
ワクワクした気持ちでいる俺。今回の結果が別に失敗であったりしても構わないと思っている。
献上された試作品の「刀」だけでも俺は存分にもう満足していたから。この勝負に出される本番用の物が試作品よりも劣ると言う事は無いはずだ。
なので早く速くと逸る気持ちを抑えつつもその刀身が露わになる時を待った。