何で俺だけ「比べ合うまでのお楽しみ」
二週間という期間はドウゴンにしたら長すぎると言う。そこは作品が出来上がったら残りの余った期間は自由にしていても良いと言ってある。
酒を飲んでグダグダしても良し、この城の中を散策しても良し、鍛冶場で他に手慰みにでも別の物を製作しても良し。
しかし相手の鍛冶場を覗くといった行為は禁止にしておいた。出来上がって互いの作品を比べるその時までのお楽しみである。コレにドウゴンは。
「はっ!ワシの作った物に匹敵する剣がそう易々と作れるはずが無い。何を作っているかを覗く?そんな事はせんわい。ワシが勝つと分かっているからな!」
そう自信満々に言い放ったドウゴンは二日で下準備を終えて、三日目には炉に火を入れて温度を高めたらしい。
四日目には炉の感覚を掴むための練習用の作品を一品作り終えている。
早いものだ。アレだけ酒を浴びるように飲み続けてベロンベロンだったのに、製作対決の前日には既にドウゴンは素面だった。
そして五日目には本番用の作品を作りだし始めた。六日目にはどうやら細かい調整をし、七日目にして完成をさせたと言う。
「あの炉は最高だな!何が何でもあの炉を俺の工房に入れるぞ。」
今回の炉はドウゴンも気に入ったらしい。そして今までで作ってきた作品の中で上位五指に入る作品を作り上げたと今俺へと自慢しに来ている。
そう、作り上げた後はドウゴンは自分の作品を自画自賛しつつ酒を飲み、そして俺へとこうして自慢をしに来ていた。
練習用に作ったと言う物は見せて貰ったが、ファルシオンだったか?刃の部分、幅の広い側面に何やら綺麗な紋様が刻まれていて芸術品と言っても良さそうな代物だった。
しかしこれ、重量がかなりある。重さで相手を断ち斬ると言った要素の武器であるそうだ。切れ味も相当いいらしい。
練習用で作った作品がこれなのだから本番の剣はどの様な形なのかが楽しみだった。ドウゴンの作品は実用性と美しさを両立する。
(あ、そう言えば波紋の綺麗さとかは考慮していないなあ。説明今から追加でした方が良いかなぁ?)
俺はうちのプロジェクトメンバーに製作に関してのミーティングはかなり深くやったが、刀の「美しさ」の説明をしていなかった事を思い出す。
「あー、結構重大なポイント何だけどなあ、俺の中では波紋も。ま、良いか。そこはおいおい、成功してからだな、製作が。」
物が出来上がって量産でもできるようになったとあれば、その後に美しさ何て追求すればいいだろう。今は実用性の方を比重多めにするのが重要だ。
何せ俺がかなりの無茶を要求して作り上げて貰う「刀」である。それが無理でした、妥協しなきゃ出来上がりません、となったら美への追及などは二の次、三の次となる。
ドウゴンが俺への作品自慢が終わって玉座の間を出て行った後に、銀狐族の一人が入ってきた。
「つい今しがた、実験用に制作した物が出来上がりまして、お持ちしました。こちら、御検分ください。」
そう言って一振りの刀が俺へと献上された。
「凄いじゃんコレ!これだけでも満足いくんだけど俺の中で!これを超える本番を今から製作するの?俄然期待が高まる!やっべぇな!めちゃクソ応援しちゃうぜ!」
俺は鞘から抜き放った刃を見てそう叫んだ。