何で俺だけ「これだけでは終わらない」
ベルガーンにその後は説教をした。もうちょっと報告をする際には詳細をちゃんと纏めて要点をキッチリと分かりやすく言って欲しいと。
コレに素直に「分かった」と頷いてから部屋を出て行くベルガーン。その横でキリアスが「はぁ~」と溜息と共にベルガーンを微妙な顔つきで見送っていた。
きっと心配なんだろうな、などと適当な事を勝手に思ってからドワーフたちをこの城の客間へとキリアスに案内させた。
このままドワーフの使者?を外へ放り出すなんてできないだろう。なので一応は客人の扱いとして今日の所は泊って行って貰う事にする。泥酔してぶっ倒れたドウゴンをそのまま床に転がしておくのも気が引ける。
その後の俺はと言うと、ログアウトした。この勝負もなかなかに時間を掛けての決着であったので良い時間なのである。
ログアウトの前に適当に動かせる魔物をプレイヤーへとけし掛ける日課も忘れずに熟して、その日は俺も就寝する事にする。
明日から会社は三日の連休になっている。その三日の間に今回の問題が収まれば良いな?などと考えながらベッドに潜り込んだ。
翌朝は目覚めはかなり良い方だった。しかしどうしても昨日のドワーフの件でまた一悶着ありそうだと考えたら少し憂鬱になる。
「あのドウゴンって奴がアレだけで大人しくなるとは・・・思えないんだよなぁ?」
付き人のドワーフも言っていた。喧嘩の腕っぷし、鍛冶の腕前、それと酒に強いか。それでドワーフの価値が決まると。
その価値観で言うと俺は三つの内の一つをクリアしただけだ。鍛冶の腕前はきっと俺がドワーフじゃないから流石に免除になるだろうが、それでも一つ残る。
「まさか喧嘩で殴り合いを申し込まれる、何て事は・・・無いよな?あ、コレ、フラグじゃね?」
ドウゴンの昨日のあのテキトウで豪快なモノの言い方からしてそう言ってくる可能性も無くはない。
飲み比べに負けた事に悔しがって「まだワシは負けた訳では無いぞ!」と言ってくる光景がありありと脳裏に浮かんでくる。
「うわぁ・・・マジかよ。付き人のドワーフ、その時には止めてくれないかな?あ、駄目だ。手出しできないとか言ってたじゃん・・・」
そんな事を思い出しながら朝食を食べ終えて水分補給をし、トイレにも行ってから万全体勢でログインをする。
そしてそこで真っ先にこの目に入ってきた光景とは。
「まだワシは負けた訳では無いぞ!」
俺へと指さしてそう叫ぶドウゴンの姿だった。それはログイン前に俺が思い浮かべた光景のそのまま。悔しそうに俺を睨むドウゴンに、それを止められずにちょっとオロオロしている四名の付き人ドワーフ。
そこに追加でキリアスがソレを何故か冷めた目で見ていた。俺の思い浮かべた光景と一つ違った点は、この場についでにミャウちゃんも居た事である。
ミャウちゃんは事情をもうキリアスから聞いていたのか、ドウゴンのそのセリフに反応している様子は無い。
しかしどうにも哀れな者でも見るかの様な視線を送っている事にドウゴンは気付いていない。
「えーっと・・・先ずはミャウちゃん?報告がありそうだね?先に聞かせて貰える?」
ミャウちゃんは定期的にプレイヤーの動向や今の軍の状況などを今は報告しに来ていた。
規模が膨れ上がって来ていてソレの運用に俺はほぼほぼ関わっていない。ミャウちゃんに丸投げをしてしまっていた。実質この魔王軍の最高位はミャウちゃんである。俺など飾りでしかない。
「はい、申し上げます。一部のプレイヤーがどうやら・・・地下帝国へと赴きドワーフとの交渉をしようとしていると言う事です。強力な武具を得ようと必死に地下大迷宮を攻略しようと大規模に動いております。」
ここでミャウちゃんの報告に割り込む声が。
「ふん!ワシらドワーフは職人じゃ!中立じゃい!ワシらは受けた依頼の品は完璧に作って見せるし、客の満足いく物を提供する。だがワシらを意のままに操ろうとする奴らはぶん殴ってやるわい。気に食わん輩にワシらの技術は売らんぞ?」
何処までも頑固で、そしてプライドがあるんだろう。ドワーフ独特のそう言った矜持に従って誰にも支配はされないと、ここでドウゴンは宣言した。