何で俺だけ「限界を超えろ(笑)」
俺はこのドウゴンと飲み比べをしつつ、お付きで来ていた他のドワーフの一人に説明をして貰いつつ勝負を続けた。
「いきなりで申し訳ありません。彼は我が国でも一流の鍛冶師でありまして。我々は彼に逆らえるだけの権限が無いのです。ですので、横から口を挟む事もできず・・・」
どうにも鍛冶の腕前がドワーフの国では権力と同じ作用をするようである。まあ一種の貴族、ステータスと言った所なのかもしれない。
「この様な勝負をいきなり挑むのにも訳が御座いまして。とある日の事、王城にプレイヤーなる者たちが訪れたのです。その人数は二名。彼らは我らの国へと訪れるまでの洞窟内で仲間を失ったと言っておりました。」
どうやらドワーフの国に行くには相当な試練が立ちはだかっているようだ。六名パーティが二人しか残らなかったと言うのは相当な難易度ダンジョンである可能性が高い。
「その時に彼らは幻と言われて久しいアダマンタイトを所持していたのです。それを我々ドワーフに加工して貰いたいと願い出てきました。武器にして欲しいと。」
ようやっと繋がった。これは俺が撒いた種だった。それを持っていたと言う事は、ソレは武闘会本戦出場おめでとうお土産に上げたモノだろう。
あの勝ち残ったパーティの内の一つがドワーフに頼ったと言う事だ。そのアダマンタイト鉱石の加工の件で。
俺はてっきりプレイヤーの中にジョブで「鍛冶師」が居るだろうからそいつに加工を頼んだりするだろうと思ていた。
しかし蓋を開けてみればそう言ったプレイヤーは少なかったのかもしれない。もしくはその鉱石を加工できるだけのレベルか、或いは他の条件が揃っていなかったのかもしれない。
「我々は、いえ、国は彼らの依頼を受ける代わりにソレをどのように手に入れられたのかの情報を交換条件で得まして。まあ、そう言った次第でして。」
それで何で俺に飲み勝負などを仕掛けて来るの?といった疑問が湧いて来るのは普通の思考回路だと思う。まあ恐らくだがそのアダマンタイト関連での殴り込みだと言うのは予想できるが。
「・・・他の種族には考えられない事かもしれないのですが、ドワーフは喧嘩の腕っぷし、鍛冶の腕前、そして・・・酒の飲み比べで上下を決めるのです、困った事に。」
どうにもこの俺へと説明をしてくれているドワーフ、常識人である様だ。ドワーフなのに酒に珍しく弱いと言うのが影響をしているのか、どうなのか?
いかにも「私は全く違います」と言いたげな態度でそう説明をしている。
「あー、私たちはそう言った事で相手を見ません。異端です。この様な性格の私たちですので、国では私たちは下に見られておりまして。はい。こうして雑用は我々の仕事でして。」
俺の疑問がどうにも顔に出ているのか何なのか?そう言って俺が「どうなってるの?」と思った事を的確に教えてくれるその付き人ドワーフ。
苦労してるんだなあ、と思ったが、他国の事を心配している場合では無かった。俺の今の状況である。
そう、全く酔わない。頭がフワフワもしてこないし、怠くなったりする事も無い。しっかりと意識ははっきりしている。
しかしドウゴンはと言うと、ヤバい。酒は最初、樽に満タンに入っていたのだが、それももう半分まで来ている。
アレだけ小さい器で二人でこれだけ減らしているのだ。しかもどうにもアルコール度数も高いと言うのである。ドウゴンの体調が心配だ。
彼は今目が据わっていて、フラフラだ。酔っ払いのコントでもしているのかと言った感じで「うぃ~・・・ひっく!」としゃっくりまでし始めていた。
「安心してください。ドワーフの内臓は強いので、明日にはケロッとしております。まあ、しかし、これだけの火酒を飲んでしまっているので、流石に今回は明日は二日酔いになっているでしょうが。」
俺は心配の余りに「痛み分け」みたいな感じで今日の所は引き下がって貰ったらいいか?と考えていたのだが、それを無用だと付き人ドワーフに言われてしまった。
いつもなら多くても三分の一減ったくらいで勝負は決まっていたそうだ。普通は四分の一程度減った時点で大抵は勝負はついていたそうで。それもドウゴンの勝利で。だから今回の減り具合は想定外である様だ。
それでもまだまだ勝つ気でいるドウゴンは次の杯を飲み干す。
「ぶっへぁ~。ま、まだじゃぞ!ワシはまだまだ呑める!呑めるぞぉ~・・・」
酔っ払いの良くある発言その一が爆発している。もう限界も近いだろう。この酒がどれくらいの酒精を持つのかがこの「魔王」の身体では測れないのだが、ドウゴンの体調が酩酊している事は一目瞭然だ。
こうして次の杯だ!とドウゴンは掬った酒をまた飲むのでそれに合わせて俺もまた杯を重ねた。
しかし次の瞬間「ゴクリ」とドウゴンがその一杯を飲み干した音がした時に彼はぶっ倒れた。
やっとこの勝負はそれで終了となったのだった。