何で俺だけ「呆れるしかない」
反射的にそうやって直ぐに許可を出したのは失敗だったかもしれない。何せ玉座の間に入ってきたのは五名の。
「我が国はお前さんに勝負を挑む!負けた方が相手の求めを呑むんじゃ。勝負はこれじゃい!」
入ってきたかと思うと事情説明も自己紹介もせずにそう言って大きな樽を前面に出してきた。
「あの、先に色々と聞いておきたい事が一杯あるんだけど?」
「細かい事を言う奴じゃ!お前さんは魔王なのじゃろ?ならつべこべ言わずにワシと勝負せんか!こうしてここに招き入れたと言う事は勝負する気があるんじゃろうが?それともここで逃げるのか?ならばワシらの不戦勝かのう?」
ニヤリと笑ってそう言ってくる相手はどうやら俺を挑発している気らしい。別にこの様な安い言葉に乗せられたりはしないのだが、もうそうやっていると話が先に進まないようなので俺はこの勝負を正式に受ける事にした。
「分かったから、ちょっと待ってて。勝負というなら証人が必要でしょ?キリアス、それとベルガーン、お前たちが証人になってくれ。で、俺とやり合うのはアンタ一人で良いのか?」
「オウよ!この地下大公国一の大酒呑みと言われたこのドワーフのドウゴンが貴様を呑み潰してくれようぞ!」
どうにも残りの四人はドワーフの方の証人、そして荷物運びとして連れてこられていたようだ。
そう、ドワーフなのである。髪がモッサモサ、髭もモッサモサ、ズングリな体型で樽型と言って良いか。
そう、皆さんが思い浮かべるファンタジーの代表の一つのアレを思い浮辺てくれればぴったりである。
そんな存在が訳も分からずに俺へと飲み比べ勝負を仕掛けて来ているのだ。もうこうなればどうにでもなれである。
「こんな即行でフラグ回収とか?キャパオーバーだよとっくに・・・」
そう、この出された大きな樽はお酒であるらしい。勝負を挑むドワーフの方がお酒を用意するのは当然として、しかしまだ俺の中ではもやもやした気分が拭えない。
(そもそも一体どこでドワーフが俺の所に「殴り込み」を掛けてくるようなフラグが?)
彼らに勝負を挑まれるなんて事に思い当たる節は無い。何処でそうなった?と。
「こいつはどんな図体のデカい者でもすぐに潰せるドワーフ自慢の火酒じゃ!コイツを呑む勝負でワシは生涯で一度も負けた事は無い!コレは勝ったも同然じゃ!」
がははと豪快に笑うドウゴンはそう言って小さな柄杓をこちらに一つ渡してきた。掬う器の部分はテキーラショットを飲んだりする時の様な小さいグラスくらいである。
どうにもアルコールの強いお酒であるらしい。それをお互いに樽から掬って同時に飲み干すようだ。
「それにしてもそもそも、お酒で酔えるのか?あ、いや、バッドステータスで「酩酊」はあるか。・・・いや、違うな?俺は「魔王」だ。幾ら何でもそんなバッドステータスが発生しうるのか?アルコール度数が幾ら高いとは言え?」
やってみない事には分からない。俺のそんな疑問にドウゴンが怒鳴って早く勝負だとせかす。
「何をごちゃごちゃと抜かしておる!さあ!始めるぞ!」
俺は樽の前に胡坐をかいて直に床に座った。それでも樽はまだまだこの巨体からは小さく感じる程である。魔王の体はどれだけ大きいんだ?って感じだ。
逆にドウゴンには樽が相対的に大きい。なので足場を組んでそこにどかりと座っている。用意が良いものだ。
「なあ、そっちの四人は只の付き人だったのか?んお?美味いなこの酒!」
先ずは酒を一杯、お互いに飲んでから質問を俺はしてみた。すると返事が返ってくる。
「オウよ!コイツは酒精が強いだけじゃねえ!味も自慢だぜ!連れて来た奴らはドワーフの癖に珍しく酒に弱い奴らだ。今回の使者に打って付けって訳よ!」
ソレは勝負の後に酩酊したドウゴンを世話するという意味でだろうか?勝負をしたドウゴンも流石に勝ったとしても酔いはかなりのモノになっているだろう。その時ようの為だと言う事か。
俺はこの時にこの勝負に勝っても負けてもどちらでも構わないと考えていた。どの様な要求がされるのかは今の所全く分からないし、もう始まってしまったので野暮な事は言いっこ無しだ。
後は黙々と飲み続けるだけである。それとは別にベルガーンに後でキッチリと説教をしなきゃいかんな?と頭の隅に置いておく。
(もうちょっとしっかりと細かい所の報告をしてくれれば・・・過ぎた事は仕方が無いか)
こうして突然のこの飲み比べは長く続いた。