何で俺だけ「強くなる為に」
迅速に動いた事で銀狐族の件は三日という超速での期間で収束した。今では銀狐族には城の適当な広い一室を丸々を与えて研究室にさせ、魔道具製作に当たって貰っている。
それとは別でこの三日、俺の日課に変化が起きた。それは俺がしていた組手の相手である。
俺を試すと言って殴り合ったあの筋肉魔族である。その名前はボッズ。
「うおりゃあ!」
という掛け声と共に鋭いストレートパンチを繰り出してくるボッズは三日前にやり合った時よりも遥かに拳のキレが増していた。
「また一歩強くなれたと思ったんだが!まだ魔王様には掠りもしねぇな!がははは!」
そう言いながら丁寧に一撃一撃を楽しそうに放ってくるボッズ。
「あー、確かに強くなってるよな。この間よりも遥かにコンパクトに動けてるよ。大振りじゃ無くなった。しかも大振りしていた時よりも威力上がってるね。」
シャールとボッズとの面会の後、翌日にボッズが早速俺へと稽古を付けてくれと言って玉座の間にやって来ていた。
その時にミャウちゃんが久しぶりに来ていたのだ。当然ながらミャウちゃんはボッズにブチ切れである。
ボッズの態度は初めて会った時と何ら変わらず、その言葉遣いもガサツな感じだ。
その時は久しぶりにミャウちゃんに俺は稽古を付けて貰っていたので、その流れでミャウちゃんが俺の代わりに稽古を付けてやると言ってボッズを「教育」という名目でボッコボコにした。
その時にボッズはどうやらミャウちゃんの動きから何か学ぶモノがあったらしく、こうしてソレを取り入れたボッズは二日目にはその強さは一皮剥けていた。そして今日という三日目である。動きはより洗練されてハッキリと強くなっている事が体感できていた。
それにしてもミャウちゃんにボコボコにされたのに翌日には元気にまた再び玉座の間に訪れてきたボッズには「タフだなあ」と驚かされた。
「はーい、そろそろ休憩ね。うーん?俺がポイントを注ぎ込まないでも強くなれるんだな。しっかりと違いが分かるし。もしかして今集まってる者たちもこうして訓練をしていけばそれなりにパワーアップはするのか?」
俺はここを検証してみなければならないと感じた。今までは魔族のパワーアップと言えば、ポイントを注ぎ込んでしかできないと思っていたが、どうにもボッズのこの強さの上がり具合を感じてそうでは無いと理解した。
「ポイントを封印解除に注ぎ込みたいし、そうなればこの城に訓練場もあるって事だからそこで戦闘訓練でもして貰おうかな。ローテーションを組んでそれぞれツーマンセルか、スリーマンセル同士で連携を確かめるような訓練とかもさせても良いのかもしれないな。」
いつかは魔族はその種族特性の強さだけでは限界が来るかもしれない。レベルが最上限のMAXに上がったプレイヤーに負けて殺されてしまう可能性もある。
ならばここで彼らに場数を踏ませて修羅場を乗り越えられる、もしくは危機に陥った場合に逃げられるだけの経験値を積ませると言った事をさせてもいいだろう。
自身の強さに胡坐をかいて座っているだけで鍛えないで居れば、遠い未来に真っ暗な結末を迎えさせる事になりかねない。
俺は集まった部下に誰一人死んで欲しくは無い。幾ら未だに顔も名前も憶えられていない者たちが居たとしても、この「魔王軍」の一員ならば、それは死なれては困るのである。
「よし、それじゃあ早速皆には順次戦闘訓練をして貰って強さを上げて行って貰おうかな?あーテステス。魔王から連絡事項があるよー。皆きいてねー。」
俺は魔王通信で「魔王軍強化計画」を一斉に発信した。