何で俺だけ「設定」
シャールとのやり取りを終えた後、俺は一人でウンウンと唸った。
(そもそもさ、これ、ゲームなんだよ。ならさ、この銀狐族の「設定」を作ったシナリオライターが居る訳だ。そいつはロリコンなの?)
そう、こう言ったキャラの「背景」というのは当然運営が作っている訳だ。そしてメインシナリオとは違う部分の作り込みなんかも、そりゃされてる訳で。
(おい、そう言った裏設定は分かる。だけどな?これをゴーサイン出して組み込んだ奴は何も考えてねぇチャランポランか?それとも分かっててこれを組み込んだのか?OK出した担当責任者もロリ●ンか?)
現実では解放できない欲望をゲームの中で発散する、そんな遊び方もあるだろう。しかしそこにはモラルとマナーが無ければこの世界は無法地帯と化す。
ソレをさせない様にブレーキなども組み込んでゲームは運営されなければならない。しかし、そのブレーキをぶっ壊してしまいかねない要素は容易に入れてしまってはいけないだろうに、ここの運営はソレを銀狐族にしてしまっている。
プレイヤーがブレーキ何て無いかのように暴走する要因だ、ロリババア何てのは。いわばこうなるとその手の趣味の奴らには「合法」とばかりにこの件に飛びついて来るだろう。そこにはモラルもマナーも無くなるだろうそうなれば。
(早めにこうして動く事ができてホッとした。ゲームを逸脱した行動を起こすプレイヤーが出る前に)
俺が銀狐族の保護に全力を出す事で、出たとしても被害は恐らくだが最小限に抑える事ができると思う。事案回避はできたのではないかと思う。
運営がどの様な意図をもってこの様なキャラクター、それと設定にしたのかは分からないが。それでも俺は自分の危機感を信じて行動した事に後悔は無い。
「でも、こうなるとまた「魔王軍」が膨れ上がるよな?もう、中身一般人の許容量はとっくに超えてんだけどなぁ・・・」
後悔は無くとも流石に今以上にこの城の敷地に住人がこれ以上増えるのはキャパオーバーである、俺の精神の。
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「おい!これどうなってるんだよ!?銀狐族がどんどんと移動してってるぞ?!」
ゲーム内の監視を務めている担当者の一人がそう言って声をあげる。それに何だ何だと、同じ部署の他の社員が寄ってくる。
「さっきから魔族が一斉に動いたと思ったら次々にピンポイントで銀狐族の集落に・・・その後は直ぐに集落の全員が大移動してるんだよ!」
「おいおい、コレは大問題じゃないのか?上司に連絡は?」
「あ、今さっき俺が代わりにしておいた。直ぐに返答が来るんじゃね?」
「何だよコレ・・・隠し集落もいくつかあるはずなのに、全部一つ残らず魔族が訪れてんじゃん・・・」
「そもそもさ?この魔族たちって最近爆発的に増えた魔王の所の奴らじゃないの?そうなったら・・・」
ここで内線での連絡音が鳴る。それに反応してすぐさま通話を開始する担当者。
「上からの判断はどうなっていますか?これじゃあプレイヤーが銀狐族に接触するイベントが・・・あ、とうとう最後の一つも全員が大移動ですよ!どうなってるんだコレは!」
「あー、すまんな。答えが出た。だが、もう分かっていると思うが、魔王関連だ。こちらも確認をして直ぐにもっと「上」に掛け合ったが・・・駄目だ。」
「魔王」のする事、為す事に一切の手出し、横やり無用の命令が出ているのである。コレはこの運営会社の一番「上」が出している決断で、誰もがコレに逆らえない。
「しかし、だからと言って!じゃあどうするんです?魔道具をプレイヤーへと提供するイベントは!?特定のダンジョン攻略に銀狐族が付いて来てくれて手助けをされるというイベントも無しですか?!それらが無いと!」
「分かっているよ、その仕様はな。魔道具やら、その協力が得られないと特定ダンジョンのクリアは・・・プレイヤーの独力では相当に難しいって事はな。それでも、手出しは無しだ。今回も「魔王」のやった事をそのままで今後の仕事を続けてくれ。」
「限界ですよもう!いくら何でもこれ以上ひっかき回されたらどうにもできないですよ!?調整に今後どれだけ掛かるか!」
このやり取りを聞いていた他の社員は誰もが一人残らず同時に大きな溜息を吐いた。まるで事前に練習してきたんじゃないかというくらいにタイミングが揃っている。
「とにかく、そのまま業務を続けてくれ。私にもどうにもできないんだ。頼んだ。」
この一言を残して通話を切られる。その言葉に担当者が。
「ありえねぇよ・・・幾ら「魔王」の中身が入ったからって、こんな展開になるか?普通・・・」
「魔王」というジョブに「中の人」が入っているというのはもう開発社員全員が承知の事実だ。
そして何故か「上」がこの事に関して「手を出すな」という命令以降の動きが無いのも。
「この件はダンジョン調整をした部署に連絡・・・あ、魔物関連の調整をした部署にも?それとプレイヤースキルにジョブの調整部署にも・・・あー!その他全部にも関連してるよ!もう一回大会議だよ!くっそぉぉぉぉ!」
担当者がこの叫びを伝えたい相手、肝心の「魔王」に届ける事は叶わないのだった。