何で俺だけ「発表」
その後は拠点だけでなく、その周囲の森まで出てくる魔物が強化される事態となる。
それらは運営への不満と化してプレイヤーたちは問い合わせをし続けた。
そんな訴えに運営は「仕様です」とだけ。そして追加して「利用規約をお読みください」と続けるのだ。
そんな対応で彼らプレイヤーは引き下がったりしない。現実の方面でも訴えを起こす者たちが現れたのだ。
電話で直接運営の方へと突撃をした者が現れた。その時の中身がネットで流れた事はゲーム界隈を大きく震撼せしめた。
「利用規約の方をご覧ください。は?こんな細かいモノを一々読んでいられない?そうですか、ではその件に関しましてこちらで情報整理をした後にゲーム内メールでお知らせをさせて頂きます。」
たったこれだけの言葉を答えにその通話はブツリと切られた。その後はいくら掛け直しても繋がらないという事態になる。
しかしゲーム内でされた重大な運営からの発表にプレイヤー全員が戦慄をした。
「なあ?見たか?あの運営メール。職業にはさ、前から言われてたシークレットがあるってよ。」
「あれな。しかも利用規約にもその旨の事が書いてあるってな。しかもその件に関する質問には一切答えないって。」
「ヤバくね?今回のゲブガルの件もそれこそ、ここに引っ掛かるんだろ?だったらあれはコレが関係してるって、じゃあそれって何?だもんな。」
「このゲームの人口で利用規約全部読んでそこら辺理解してたって奴、居るのか?」
「いや、どう言うゲームでもどれもこれも、大体そんなの読まないで始めねぇか?読んでる奴、おらんだろ?」
「あの、私は全部読みました。その点もちゃんと把握してました。シークレットって何だろって、凄く印象に残ってましたから。」
この最後の発言を聞いて他の五人は「え?」と思わず言葉を失った。このパーティーは「ランナーズ」と言う名前だ。
魔王となった、なってしまった「間島健斗」を裏切り、ゲーム初心者だという女性プレイヤーを仲間にした者たちである。
彼らは知らない。こうなってしまう全ての一因を作ったのがこのパーティーと言う訳ではないが、担っている部分はあるのだと言う事を。しかしそれは知らない方がいい事ではある。
「まさかここに全ての利用規約を読んで納得した上でこのゲームを遊んでいたプレイヤーが居たとは・・・」
この一言がこのゲームの全てのプレイヤーの揃えて口にする感想だろう。そう、誰にも分からない事だろうが、このゲームでこうして利用規約を全て読んで把握していたプレイヤーは彼女だけだった。
運営からのお知らせメールの中身は利用規約のその一部分を紹介した中身だったのだが、プレイヤーの誰もがこれに目を見開いて読んだ。
その誰もの感想が「こんなのあったんかい!」と言った何処にもぶつけられない怒りを伴ったモノである。
こうなればプレイヤーは運営へとこれ以上は文句を言えない。それが悔しいとばかりにこの事件の後に「ゲブガル討伐作戦」なる「戦争」が起きることになった。
これはプレイヤーたち自身が「負けっぱなしでは居られない」とばかりに始めた、プレイヤーたちが勝手に始めたお祭り、いわゆるプレイヤーズイベントだった。
ゲブガルを攻め滅ぼすべく、彼らはそれこそ千人以上のプレイヤーを集結させ挑んだのだ。あの森、あの拠点へと。
戦闘への参加だけで千人を超えた。そしてそれ以上にその戦闘職を支える生産職を百人以上も巻き込んで、そのプレイヤーと言う「群体」はゲブガルを倒すべく一丸となって拠点へと攻め込んだのだが。
その戦闘職の持つアイテムも、装備も、生産職が今できる最高峰を持たせているのに、結果は悲しい事になってしまう。
レイドは参加人数が多くなればなる程に難易度が爆上がりする仕様で、限界というモノが無かった。コレが新たな悲劇を生んだ。
その参加したプレイヤーの三割程が森で凶悪となった魔物に狩られ、拠点ではまた四割が削られた。
この事実だけでレイドによる敵側の強化がどれ程までに膨れ上がっていたかが分かる。それだけでは無く、魔王によって強化が為された後だ。森だけで損害三割に抑える事が出来たのは運かも知れない。まあその後の拠点内での罠でそれ以上の被害が出ているのはしょうがない事だろう。
こうした障害を乗り越えた残りの三割。それがゲブガルの居るボスの間へと攻め込むが、誰もが皆その時に「卑怯だ!」と叫んだ。
入って来て広間へと詰めるプレイヤーたち。しかし彼らは忘れていた。ゲブガルが「罠使い」である事を。
落とし穴の情報は広まっていたはずなのに、ここで彼らは前に出過ぎてしまった。
ここに来て残っていた半分が落とし穴に消えた。「しまった」と思った時にはもう遅い。彼らは見誤ったのだ。ゲブガルにもレイドの仕組みが適用される事を。
コレが1パーティーだけで攻め込んできた場合。落とし穴の大きさもそんな百人以上ものプレイヤーが落ちる様な大きさにはならない。
ここまで攻め込んできたプレイヤーたちは三百人を少し超えている。この拠点は強化され、そんな大人数が入れるだけの大広間が作り上げられていた事がこの地獄を作り上げてしまっていた。
その後の残りのプレイヤーたちはゲブガルへと攻撃をしても通じず、少しづつ罠の発動で人数が削られていった。
そして残り五十人となった所で彼らは無理だとやっと判断した。レベルを最大値にまで上げて、かつ、強力な攻撃をできる様にならなければゲブガルには勝てないと。
「って!撤退だ!レベルをカンストしなけりゃこんなの無理ゲーだ!祭りだと思って参加したのが間違いだった!」
残りの彼らはその後、ゲブガルの居る部屋を脱出して帰還をしようとしたのだが、全員が拠点内の残っていた罠にかかって全滅した。
この事件はプレイヤー全員がすぐに知る事になる。ゲブガル討伐失敗、と。そしてプレイヤーの誰もがこの結果に「クソゲー」と判定してこのゲームを辞めていくんだろうな、と思ったのだが。
しかしこの「戦争」をした者たちの誰もがゲームを辞めたりはしなかった。