何で俺だけ「テンプレな流れに」
早いものでアレから一ヵ月経つ。今この魔王の城には既に「五千」の魔族が暮らしていた。
「いや、本当にびっくりだけどね。毎日毎日次々に「こんなに何処に居たの?」ってくらいに魔族が続々集まるから俺も参っちゃったね。」
これだけの魔族が集まってもかなり余裕が有る魔王の城の敷地。どう考えても俺の手に余る。
「どうやら城に来る魔族たちに徹底調査を行って交流がある者たちに交渉や説得に当たらせたみたいだけどさ。マジで集まり過ぎじゃないか?コレが普通なの?」
魔族が住んでいた場所は様々。海山湖、洞窟に大森林。その他もろもろだ。それらを城へと受け入れる人数が増える毎に、捜索に出せる数が増えると言った形で捜索が掛かる。
捜索人数が増えれば発見する確率も断然上がって行く。見つける、勧誘する、OKが出る、早速城に来る。
そこからまた他に魔族が住んでいる場所の情報を聞いてそこへと調査に行って、見つけて増えて、と「鼠算かよ!」と言った具合に増えて行っていた。
「そんでもって、今では兵士が「二千」だぞ?本当に軍団になっちまった・・・」
俺はこの玉座の間でぼやく。俺のこのボヤキを「え?それを魔王様が言うんですか?」みたいな顔でキリアスが見てくる。
キリアスも大分俺のラフな喋りに慣れて来ていて今では大分リラックスして控えてくれている。
最初の頃はミャウちゃんにかなりビビりつつも緊張感バリバリにこの玉座の間に控えていたのだが。それもこれも、こうして時間が大分経ってみれば上手い事自身の中で折り合いをつける事もできるだろう。
「本日も二つの新たに加わる集落の長が挨拶をと謁見を希望しております。こちらに通しても?」
「ああ、良いよー。通して、通して。コレが何だか日課になって来ちゃったなぁ?」
俺の魔王の毎日が大分変ってきた。こうして日に日に増えていく魔族。各住処において魔族たちは長をちゃんと決めて慎ましやかに生きて来ていたらしく、どうにもこの城に移住してきたりすると、その長との謁見となっていた。
早めに打ち止めになって欲しいなとも思いつつも、まだまだ数が増え続ける気配は消えない。
そしてここで今日の謁見は少々違った。いつもだったら長という立場の魔族たちは「これからもよろしく」と言った感じの言葉を俺と交わしたらそれで終わりだったのだが。
「俺たちに住みよい場所を提供してくれるのは有り難いが、そもそもだ。魔王というのはどれくらい強いんだ?俺たちを庇護するというのなら、それを出来るだけの強さを当然に持っているだろ?では、それだけの強い力があって何故今すぐに人を根絶やしにしない?」
そう言葉をぶつけてきたのは筋骨隆々、まるでボディービルダーの様な身体の魔族だ。両こめかみ部分より立派な角が生えている。
堂々と胸を張り、腕組をして「魔王」を見定めるかのようにガンを飛ばしてくる。
(ミャウちゃんがこの場に居なくて良かったよ・・・居たらきっと空気がメチャンコ冷えてたぜ)
ミャウちゃんは「魔王」に対しての無礼な言葉を聞き逃さない。一応は俺の前だと感情を比較的抑えようと頑張ってくれるので良いのだが。
もしコレが俺の目の届かない所で行われていたら、きっとミャウちゃんは全力で無礼な態度を取った相手を八つ裂きにするだろう。
今ミャウちゃんは軍団長だ。そう、軍部の最高位として働いて貰っていた。
「あー、えーっと?複雑な事情があってな。人への攻撃を控えてるんだ。すまないな全部を今ここで説明できない。」
俺はこのゴツイ魔族の質問に答えた。しかしここで「展開がこうなるとメンドイ」という流れに入って行ってしまう。
「ならその点はいい。アンタが俺に今この場で納得のいく強さを、力を見せてくれればな。俺はアンタを知らん。だから、教えてくれ。」
こういった展開になるのかぁ、とやはり思ってしまった。この魔族が最初に俺へとぶつけてきたセリフは脳筋の「それ」であったからだ内容が。
どうやら「強さ」をこの魔族は自分の判断基準に置いている。単純で分かりやすいのでソレは俺も別段あれこれ言うつもりは無いのだが。
「俺がソレを求められる立場になるとは思っていなかったんだよねぇ。こう言う展開ってフィクションの中だけだと思ってたからね?」
こういう場合は毎度の事、どのようにその強さの証明をするのかという話になるのだが。その時は大抵。
「さあ、掛かって来てくれ。」
その魔族は徒手空拳で戦うスタイルなのか何なのか?構えを取って真剣な眼差しを俺へと向けて来た。