何で俺だけ「魔王?」
そいつは突然、レイドを組んでフィールドボスを倒そうとしていた十八名のプレイヤーの前に現れた。そして唐突に宣言する。
「我はラーギッド!魔王である。これから貴様らには我が贄となる栄誉をやる。嬉しだろう?さあ、その頭をたれろ。この世を支配するこの我の役に立つのだ。光栄であろう?」
この言葉を聞いたプレイヤーたちは全員が「イタイ奴が要る・・・」とドン引きしていた。しかし次の瞬間にはその思考も吹き飛ぶ。
「ふむ、お前たちはどうやら素直に我が言葉に従う気は無いらしい。ならばその足りない脳味噌に我が直々に教え込んでやるとしようか。恐怖というモノをな。次に我に会えばすぐさま自らの命を差し出すくらいに、な。」
ラーギッドと名乗った魔族は宙に浮いていた。魔族は特殊な魔力の波動を種族特性として使い熟す事ができ、それを利用して宙に浮く事ができるのだが、それは今この時にプレイヤーが知る事などできはしないし、それどころでは無かった。
ラーギッドが右掌をプレイヤーたちへと向けると、そこから白く輝く球を飛ばしてきたのだ。
直ぐに反応したプレイヤーはコレが敵の攻撃だと言う事を直ぐに察知して防衛体勢に切り替える。
しかし、直ぐにそう言った行動を取れなかった鈍いプレイヤーが即座にコレの餌食になってしまう。
その白い球が地面にぶつかると、そこから光が溢れた。この光はその場に居たプレイヤーの内、1パーティ六名を呑みこんだ。
彼らはラーギッドの言葉に「テラワロス」と言ってこれを攻撃とすら思っていなかった者たち。
そして自分たちが狙われていたにも関わらず、それが直撃するモノでは無く、地面へとぶつかるモノだったので余計に自分たちの身を守る事を怠った。
その結果はと言えば、即死だった。
「おい!嘘だろ!一撃でだぞ!何だよ今の攻撃は!?」
「おい!そんな事よりもあいつをブッコロさねーと俺たちも直ぐに消されるぞ!」
「迎撃態勢用意!撃て!撃て!撃てぇ!」
プレイヤーたちは魔法、矢、投げナイフなどをラーギッドへと向けて一斉に放ったのだが、それは透明な壁に阻まれてしまう。
「げ!?今のってあれじゃん!四天王の魔力障壁と同じ物だろ!?」
「ちょ!待て待て!こっちの攻撃が通用しないって無理ゲーだろーが!」
「撤退すんぞお前ら!こんなクソに付き合ってられねーよ!」
残ったプレイヤーの判断は早かった。即時に倒せない相手だと悟り撤退を決断する。
相当頭の切り替えの早いプレイヤーたちだったのだが、逃走を容易く許すラーギッドでは無かった。
「この我に背を向けて無様にも逃げるか。ならば遊興として貴様らは我の狩り、獲物として処理してやろう。」
ラーギッドは一目散に逃げ行くプレイヤーたちへと魔法を次々に放つ。それらは先程とは違う魔法だった。
地面に着弾すると爆発を起こすものだ。
「はーっはっはっはっはっは!さあ!贄となる気が無いのなら、その代わりに存分に我を楽しませろ!さあ逃げろ虫けら共よ!この中から何名が生き延びれるかな?あーっはっはっはっは!」
爆撃の雨の中必死に走り続けるプレイヤーたち。この時に光魔法を持つ魔法使いがおり、反撃を試みる。
その魔法は今の状況で一番現状の打破をするに打って付けの魔法だった。
その魔法使いはその魔法の効果がばれない様にと、ラーギッドに「無駄」だと思わせるようにと、攻撃魔法に見せかける偽装をした一手を放っていた。
一見炎の球に見えるソレはラーギッドの魔法障壁にぶつかり凄まじい光を発した。目潰し、それは強烈な光を放ってラーギッドの視界を塞ぐ。
「プレイヤーめ!だから嫌なのだ小賢しいマネをする貴様らは!矜持も勇気も高貴さも無い!汚い真似を何処までも厚顔無恥に行動する!ええい!もういい!死ね!」
嫌悪をむき出しにしたその叫びを聞きながら少しでも遠くへとプレイヤーたちは逃げようとする。
しかしラーギッドは目を瞑りながらも走り去る足音を頼りにその方向へと巨大な炎球を放っていた。