何で俺だけ「今更、今になって?」
だからと言ってそれからまた過行く三日の間ににこれだけの数が集まるとは思ってもみなかった。
「千人を超えたよ・・・どうなってるの?今日もまた三百くらい増えるって・・・その集落の代表が挨拶、面会に来るって・・・」
どうやら隠れ棲んでいた魔族はかなりの数に上るらしい。そして「人質事件」があった事に因り、今では把握できない位に増えた部下たちは危機感からか、もの凄く必死に、虱潰しにこうした魔族たちの保護をしていた。
増えた魔族たちから情報収集をしてソレを元に人海戦術で徹底的に捜索をしている。
「で、城を守るための堀も作るって言うし、橋も掛けて防衛力を上げるとか・・・なに?この城を要塞化する気なの?」
マイちゃんがプレイヤーを屠るのにメテオを使ってできたあのクレーターは瞬時に埋められた。魔法で。
そしてその代わりに作られたのは門から左右に広がる防壁に沿った堀である。
魔法ですぐさまソレは完成し、これまた魔法で水を作り出してその堀が満たされる。
メテオで吹き飛んでいた木々は回収されて城の中で再利用された。薪にしたり、城内部の空き地に家を建てる材料にしたり、門の前に追加で出城まで作ってしまうあたりやり過ぎだ。
「住み慣れた場所を捨てさせちゃった感じがしてちょっと罪悪感があるなあ。だけどさ、そこにあった家も解体して回収して再び家建てちゃうんだもん。逞しいよなあ。」
隠れ棲んでいた魔族の者たちは皆働き者で、それでいてしっかり者ばかりだった。城に移住する際に自分たちの棲んでいた土地の何もかもを全て移し替える気満々であったのだ。
それらの代表者と俺は顔合わせをしたのだが、その時にその誰もが。
『我らは何もかもを棄てるのではなく、新たに前へ一歩踏み出すのです。ならば、置いていく物など、一つたりとてありませぬ。』
と宣言をしているのだ。本当に図太く生きている。しかも何処までも前向きだ。俺も彼らを見習うべきなのかもしれない。
「各地で育てていた収穫物とかもそっくり全部こっちに持ちこんできたからなぁ。食料とかは多分飢える心配無さそう。新しく畑も作ってるらしいし?・・・俺の城、何だよな?勝手に好き放題やられてるけど、まあ、悪い気はしないか。」
俺は今「プレイヤー」としての自分が一切残っていない事を自覚する。
最初の内は「魔王」などというモノになっていても、まだまだどこかに「プレイヤー」が残っていた。
自棄になってはいても、その内に運営が何かしらのアクションを起こして俺を「プレイヤー」へと、切り替えてくれるんじゃないかと。
このゲームの中で俺だけが「魔王」だなんて、余りにも理不尽、不条理であると。だから、運営はきっと俺に再びやり直す機会を与えるだろうと。漠然とそんな事をずっと考えていた、頭の隅で。
「もうそれもここまで来たらそんな提案を今更されても受け入れられないけどな。愛着湧いちゃったからなぁ、魔族に。」
未だにその様な運営からの連絡は無い、一切無い。しかしそれがもしあったとしても「今更もう遅い」である。俺はもうこの「魔王」を何処までもやり切る事に決めていた。
そんな時にその報は再び入ってきた。その報を持ってきたのはミャウちゃんだ。
「魔王様、どうやら以前に泳がせていた魔族がプレイヤーへと宣言をしたようです。」
俺はコレに「んん?」としか返せなかった。だけども泳がせていた、という点に引っ掛かる部分があって思い出す。
「それって、あれ?もしかして、自称しちゃってるイタイ奴の事?」