何で俺だけ「滑り出しは順調、そしてその褒美は」
「はい、魔王様。この通り救出は無事成功。このバイゲル、帰還いたしました。人質であった子供は他の者たちに任せてあります。城に入った直後は心の方がまだ落ち着いてはいない様子ではありましたが、説明を聞いて冷静さを取り戻したようで今は大人しくしております。」
「有難うバイゲル。お疲れ様。じゃあこの後は戻って普段通りに屋敷の防衛に入ってくれ。ゲブガルには早い所向かうようにと伝言もお願いするよ。」
今俺の目の前に跪いているのはどこからどう見ても「プレイヤー」だった。その姿に何処にも不自然さは見当たらない。
しかし時折俺の目にはまるでその「プレイヤー」に灰色の砂嵐が時折一瞬走ったりして違和感がもの凄かった。
そう、この姿はバイゲルが化けているのだ。こうしてバイゲルが集団の中に紛れ込んで一瞬の隙をついて人質を奪還したのである。
「あ、そうだ!褒美を上げないといけないけど、何が良いかな?何か望むものがあれば俺ができる範囲でならあたえられるよ。」
ここで少し沈黙が訪れた。バイゲルがどうやら悩んでいる。俺はこれを待つ。褒美を出すと言ったからだ。
慌てずによく考えたうえで欲しい物を一生懸命に悩んでいるんだろう。そしてどうやら決まったようだ。
「魔王様の魔力の籠った特別な人形を作っては頂けないでしょうか?ソレを頂きたく思います。」
俺はコレに「何で?」と突然の斜め上の事にぽかんとした顔になってしまった。コレはできるのか、できないのかは今はまだハッキリと分からない案件だ。
生産?錬金術?人形と言う事でファンシーな可愛らしい動物のぬいぐるみなんかを連想して俺は首を捻ってしまった。
「分かった。できるかできないかは別として、やってみるよ。出来上がったら送り届けるから、ちょっと待っててくれる?」
この返答に満足してくれたのかバイゲルは「は!有難き幸せ」と言ってこの部屋を出て行った。
「何だろうか?もしかしてバイゲルの守る屋敷がそれでパワーアップしそうな予感が・・・お?お?お?背筋がもの凄く冷えたぞ?」
俺はその光景を何故かイメージはできないのに、背中が何故か冷たくなってブルリと震えた。
「さてと、俺は後はここで報告を待つだけか。いつ頃終わるかね?結構な時間が掛かりそうだ。」
この人質事件の首謀者の六名のプレイヤーの復活場所は始まりの街である。それは調べが既に付いていた。
その六名だけは「強制ログアウト」にしない様に注意をしてある。
その他のこの件に関わろうとしてその場に残ったプレイヤーたちの処分はミャウちゃんに全て任せてある。
俺がこの後にやる事なんて何も無いのだ。途中経過などを通信で聞く事はできるかもしれないが、こう言った事はドンと腰を据えて待っているのが「魔王」の役目だろう。
そこまで複雑な作戦では無いのだ。俺が一々途中経過を確認して、事細かに指示を出さなければならないという場面では無い。
それは部下に全部丸投げとも言うが。それくらいはミャウちゃんに任せられるくらいの信頼は置いている。
「さて、待っているだけだと暇なだけだし、キリアス、いっちょ手合わせしようか?」
俺はこの玉座の間で俺の側仕えで居るキリアスにそう声を掛ける。暇を潰すの時間も有意義に鍛錬である。
しかし俺から突然そんな事を振られ心底驚いた顔をしたキリアスは首をぶんぶんと横に振るのだが。
「ちゃんと鍛えて、自分の身は自分で守れるようにしないと駄目だろ。ほら、相手は俺が受け持つから。思いっきりぶつかって来て良いよ。ミャウちゃんからは鍛えられてるし、軽く教える位はできるからな。」
俺は椅子から立ち上がってキリアスに「どんとこい」と胸を軽く叩いて見せた。