何で俺だけ「作戦内容は単純」
その作戦は俺が考えたものだ。プレイヤーの動きは掲示板を見れば一目瞭然。
集まったプレイヤーの中に俺は「仕込み」を入れていた。紛れ込ませていた。
「今頃はバイゲルが上手くやってくれている頃かなあ?特別に救援要請を入れたけど、快く引き受けてくれて良かったよ。」
この人質奪還作戦をする上で適任と呼べる人材がバイゲルしかいなかったという点が大きかった。
守っている屋敷は今の所で攻め込もうとしているプレイヤーの影は無く、こうして奴らが集合をする日を細かく調べ上げて予定を合わせて貰う事になったのだ。
一応は守護する領域を一時でも離れるのは不安だろうと言う事で、ゲブガルをこの時に派遣している。
バイゲルが居ない間にその屋敷丸々を結界で包んで誰にも入れなくさせておくようにと。
作戦内容は簡単だ。魔族がプレイヤー達の下へと行って気を引き、紛れ込んでいたバイゲルがそれに気を取られるている間に人質を救出。
その人質は一旦城へと匿い、その後にバイゲルは自身の屋敷へと戻ってゲブガルと交代だ。
そう、ゲブガルにもその後に仕事がある。直ちに始まりの街へと急行して貰うためだ。
「幾らゲーム内とは言え、外道を働く奴らには徹底的に痛い目を見て貰っておこう。それが怒りとなって余計にこのゲームにのめり込むエネルギーになるか。あるいは心が折れてログインしてこなくなるかはそいつ次第だな。」
自分から率先してロールプレイとして悪人をするのはまだ分かる。それが徹底されていればされている程に、俺はソレを納得する。
その場合、魔族には被害は出ないだろうと思われるからだ。そう「悪人」などと言うのであればその悪意はどこに向かうかと言えば、一般的に考えて同じプレイヤーへと向けられるモノだと思うから。
しかしこのゲームはそう言ったプレイには都合が宜しくない内容となっている。利益が殆んど無いのだ。
旨味の少ない遊び方を率先してする者は少ない、いや、皆無だろう。ここはゲーム、遊ぶのがメインだ。何ら面白さを感じない遊び方を率先して選ぶ奇人はおそらくは居ない、と信じたい。
ならばと、その悪意が魔族には向けられるのはここでは自然な流れかもしれない。では、その悪意を素直に受け入れるか?と言われれば、それは「ノー」だろう。
コレは小さい子供を無用にボコボコにするほどに暴力を振るい、しかもそれを人質にして魔族へと優位に立とうという考えは、あからさまに行き過ぎだ。
ゲームとして遊ぶにしたって、その行為は人の持つ「道徳心」を遥かに外している。
「しかしなあ?コレはしょうがないのかもしれないな。高々ゲーム、って思ってるんだよな、そう言う奴は。」
所詮は「データ」と断じて全く心が痛まないのだ、そう言った奴は。そう、冷血と言っていいんだろう。
「そう言った奴は本当に「現実」でもそういう心根の持ち主だったりする可能性が高いんだよなあ。」
相手の事を慮れない、そう言った相手にこちらが引かないといけない、考慮しないといけないなんて馬鹿らしい。
「幾らゲームの中とはいえ、幾ら魔族だったとは言え、子供相手にそんな非道な真似が簡単にできる奴を放ってはおけないんだよ、俺は。」
こうなれば根本的に見て「相容れない」という部分なのだろう。人として、個人としての根っこの部分で、こう言った奴らを許し難し、と。
「さて、後はミャウちゃんがどう言った始末を「その場」で執行するかだな。ポイントが一番多く入るやり方でお仕置きしてくれると良いんだけど。」
やはりここでプレイヤーたちを殲滅するなら、より多めにポイント稼ぎができれば尚良しだろう。
「だけどなあ?ミャウちゃんが怒りでどんな風にプレイヤーたちを蹂躙するかは分からんし。」
俺はミャウちゃんに自身の判断でその場での「お仕置き」はやっていいと言ってある。今回のプレイヤーの行動にミャウちゃんもかなりの怒りを抱えていたから全て現場の事は任せたのだ。
その感情は顔には出ていなかったのだが、それでもそう言った事が俺の様な鈍い奴でも感じ取れるくらいには、その身の内に貯めこんでいたのは分かっていた。
「もうそろそろ時間的に見てもバイゲルが城に帰還するかな?・・・お?噂をすればって感じだ。お帰りバイゲル。首尾はどう?」