何で俺だけ「遭遇」
その子供は隠れ里の住人。今日も狩りをして生きる糧を得るために深い深い森を彷徨う。
彼の持つ狩猟道具は弓矢。姿を隠し、気配を消し、只々ひたすらに森を彷徨って獲物を探していた。
子供とは言え、ずっとこうした生活を続けていたので、狩りの腕前は高い。経験豊富で、危険を察知すればすぐに自分の命を大事にして無理をしない事を心掛けていた。
「今日は・・・どうにも森の動物の動きがおかしい・・・危ない傾向だな。戻って皆に警戒をして貰うように戻るか?」
木の枝に座ってそうこぼす少年は森の気配が未だかつてない程におかしな物へと変わっていっている事に気が付いた。
「一応は獲物を探しつつ、無理の無い範疇で原因を探っておくか・・・」
少年は深層の森の中をテリトリーにしていたが、この森の異常を受けて浅い所まで足を運ぶ決意をした。
浅い部分には人族の狩猟者が時折来ており、それらと遭遇したりしない様に、狩りをする領域が重ならない様にと、深層での狩りをしていた。
この少年は魔族であり、争いを好まぬ者たちが作りだした森の奥地の村出身であった。
少年の運命はこの時、悪い方へと転がってしまっていた。村の安全のためとは言え、自分一人で原因を探ろうとしてしまった。
いや、この時の判断は別に間違ってはいなかった。狩猟するにも獲物が見当たらない異変は確かに今までも一度らず二度三度とあった。
そういう時には浅い部分まで足を運んで危険だと承知で獲物を狩っていたのだ。人族に見つかれば自分の存在を知らせてしまい、村に危険が近づくかもしれない。
しかし、獲物が取れずに飢える事もまた、村の危機であるのだ。獲物一つ、されど、一つ、である。
「何だ?あいつらは・・・森で、狩猟するには余りにもおかしい格好だ・・・」
隠蔽を完全とは言えないとはいえ、準備してからこの少年は場違いな恰好をした人族たちを見つける。
その数は六人。狩りをするにしても数としては大捕り物には少なく、そして通常の狩りをするには多い。
そしてその持っている武器は狩猟には全く向かない物ばかり。大剣、杖、ナイフ、大楯、素手、槍。
(こいつらが異変の元凶?・・・それ以外には考えられないか・・・)
この少年は聡明だった。この六名がこの森の原因である事を直ぐに察する。
そして決断した。彼は自分の命は惜しいが、村の皆の命の方がもっと大事なのだ。
(こいつらはこのまま真っすぐに森を行く気か?ソレは・・・させない!)
村にこいつらが入り込めばたちまちのうちに戦闘になるだろう。それを少年は理解していた。
それは人族の持つ武器にあった。どれもこれも強力な魔力を感じる物ばかりであり、そして、それ以上に決定的だったのは。
「なあ?魔族がここらへんに本当に居るのかよ?狩るにしてもこんな森の中じゃ不利じゃね?」
「ああ?なに言ってんだよ?俺たちは依頼を受けたんだぞ?魔族を退治しろってよ。」
「そういや巷じゃいきなり魔族が襲って来るとか話を聞くけどよ、俺たちの所にも来ると思うか?あ、この件とは別件だけどよ?」
「はっ!あんなのは運が悪い方だぜ。俺たちの所に何か来やしねえって。」
「その話だけどさー?その魔族を何とか誘き寄せられないか?って話があるの、知ってるか?」
「あーそれな!にしたってよ?誘き寄せられる「ネタ」が無けりゃ何にも進展しないじゃんね?」
この六人がしていた会話で少年は覚悟を決める。このまま村に行かせてしまえば死人が出るのは必須だ。ならば。
ここで少年は矢を弓に番えて引き絞った。