何で俺だけ「注意事項を連絡します」
アレから幾日か過ぎている間に俺は調べモノをしていた。プレイヤーたちの魔族への反応を見ようと掲示板を開いてその中身を覗いていたのだ。
「ほほう?時々魔族とかち合うってか?一人パーティメンバーがやられると魔族が撤退する?」
順調に俺の言いつけを守って活動している様子だった。しかしここでやはり反撃作戦を考えているプレイヤーもちらほら見つけられている。
「だけど魔族と出会う場所も時も何もかもが法則性が無いから打つ手が決められなくて手をこまねいている、と。じゃあアレだな、注意しておかないとな。」
俺は運営からこうして掲示板を調べる行為を禁止されていない。なのでこうしてプレイヤーの動向という情報をいくらでも取得できてしまうのだ。
この点はイージーモード、と言っても良いのかもしれない。だが、やはり重要なのはポイント稼ぎで、そちらはかなりのハードモードの数字である。
「今は幾らポイントを稼いでも部下の強化に注ぎ込んじゃうからなあ?全く俺の封印解除には入れてない状態だしな?」
塵も積もれば山となる。そんな事を思っていた時期は短い。ベルガーンが入ってきた時にしっかりと最大強化までしているが、それ以降に入ってきた者たち、ミャウちゃんが引き入れた者たちへと少しづつ平等に順番にポイントを入れて強化していっている。違う意味で塵も積もれば、と言った形に変化しているだけではあるのだが。
「俺の目標は何だった?ああ、俺が世界漫遊の旅に出られたらいいな?だったか?・・・はぁ、曲りなりにも俺は「魔王」だった。部下が増えちゃった以上は示しがつかないよなあ?」
当初の時とは大分懸け離れた状況に追い詰められているのは何故なのだろうかと考えてしまう。
そう、追い詰められている、という状況だ。自分で言っておいて何なのだが、スカウト何て案を出さなければもっと気楽に居られたのでは?などと今更考えてしまう。
「仕方が無い。もう過ぎた話だ。今日もログインしよう。」
こうして俺が玉座の間に現れると「お帰りなさいませ、魔王様」とキリアスが頭を下げて出迎えてくれる。
「ああ、只今。あーっと、今日は皆に、あ、外に出て活動している皆に注意事項を伝えるから。仕事はそれだけ。キリアスは俺がログアウトしたら自由時間ね。そうずっと四六時中気張っていないでいいよ。」
俺は魔王専用の通信を部下たちに一斉送信する。
「あー皆、聞こえてる?あー、てす、テステス。届いてるかー?戦闘中の人たちは無理しないで直ぐに撤退していいよー。注意事項があるから、みんなちゃんと傾聴~。」
俺はこの後にちょっと間を置いてから話し始める。
「プレイヤーがどうやら反攻作戦を立てようとしてる動きがみられる。まだ小さいものであるようだけど。もしかしたら近いうちに「囮」を使って皆をおびき寄せようとして来るかもしれないから、皆は全員、その時には冷静に対処するように。その遭遇時には自分たち「だけ」で何とかしようとは思わずに、一旦城に戻ってきて報告、連絡、相談をちゃんとしましょう。コレ大事。守りましょう。あ、それと、スカウトできそうな魔族が居たら積極的に誘ったりしてね。知り合いにそう言ったウチに入りたい、って言うのが居たら勧誘してきてくれるとありがたいです。」
伝える情報は以上です、と最後に言って俺は通信を切る。ここでキリアスが不安そうな顔で俺へと質問をしてきた。
「あの、魔王様。一つお聞きしても宜しいでしょうか?囮、とはどの様な形で?」
「ん?そうだなあ?」
俺はこの時に一応は思い付く限りのパターンをキリアスと話し合った。
ちなみに、今はミャウちゃんは俺の御側付きから外へと出て部下たちに指示を出すお偉い役職に立って貰っているのでここには居ない。
ミャウちゃんはこの俺の「部下たちを纏めてね」と言ったお願いにちょっと寂しそうな顔をしつつも「魔王様の御役に立って見せます」と気合十分に答えてくれていた。
まあ、その寂しそうな表情の中身はきっと「魔王様の側を離れるなんて」と言ったモノだろうと簡単に推察できる。今までのミャウちゃんの言動から考えて。
で、代わりの御側付きにはこのキリアスが担当してるのだが、ミャウちゃんからの引継ぎ?みたいな感じで事細かな部分まで何やら吹き込まれていた所を俺は一瞬だけ見ていた。
(全くこの先どうなるんだろうな、この俺の「魔王」は・・・なるようにしかならないかぁ)
こんな心のボヤキなど誰も気にしちゃくれないと言わんばかりに、その一週間後にその問題は起こされた。