何で俺だけ「着実に」
アレから一週間経ったのだが、別段変わった事は無い。ベルガーンたちが魔王勢力に加わった事は大きな変化だったが、別段それで大幅に一日で入るポイントが多くなった訳では無い。
ホンのちょっとだけ「あ、少しだけ稼ぎが上がった?」くらいのモノである。
そうして溜まっていくポイントは新人魔族たちの強化へとその内に注ぎ込む事になるのだ。多く入るか、そうで無いかなどを余り気にする意味は無い。
魔王の封印解除にポイントは使えなくなったのだ。部下を大事にしていく上で仕方が無い事である。
「得た物が大きければ、それに比例して失うモノの大きさもそれに見合ったものになるよなぁ。」
などとぼやく。ぼやくが、ここに俺のこの気持ちを真に理解してくれる存在は居ない。
「魔王様、如何なされましたか?」
そう言って声を掛けてくるのは執事服を着た子供の魔族だ。この子はベルガーンが守っていた子供の中で一番の年上の者だった。その見た目は「13」か「14」かと言った様子である。
この子が何故この玉座の間に居るのかと言うと。
ベルガーンが新入りスカウトをしてきた翌日に、マイちゃんが俺へと挨拶がしたいと言うこの子を連れて来たのだ。そしてその時に。
『何でもさせてください。ベル兄さんの命を救ってくださった方になら、この命を捧げても惜しくありません。』
などと言ったもの凄い重い、非常に重い忠誠を誓われてしまったのだ。こんな重たい気持ちをあんまりにも俺の軽い気分で突っぱねると言った事はこの子の精神教育にいい影響は与えないだろうと言う事で、こうして俺の側に仕えさせていた。
ちなみにこの執事服、何処からの出所なのかと言うと、ゲブガルの物だった。それをマイちゃんが器用にも仕立て直したのだという。全くおかしな事である。
「あー、別に何でもないよキリアス。勉強は捗ってる?遊びたい年頃だろうから、偶には他の子たちと一緒に遊んだりしてもいいよ?」
この魔王の城、図書館も存在するそうで、そこでゲブガルに因る授業が行われているのだ。
そしてその教育には時間が決められていて、それ以外の時は基本子供達には自由時間としている。
中にはマイちゃんに裁縫を教えて貰っていたり、或いは剣術の真似事などをして強くなりたいと言った姿勢を見せる子供もいるそうな。
城の掃除や炊事、洗濯など、各自が自主的にこの城で働いているという。そしてその中でも重要なのが食料だ。
これを聞いた時には俺は「そこまでリアルにしないでも?」などと思ったりもした。しかしこれにはちゃんとプレイヤーにも制限が置かれている。
空腹ゲージだ。それが空になると徐々に体力が減るリアル仕様である。それに合わせてあるのかもしれない魔族も。
それと、その空腹を満たす為に料理アイテムがあり、その料理アイテムには空腹を回復する効果だけでは無かったりする。
食べると一時的にステータスがアップしたり、耐性が上がったりするなど、サポート面での効果が期待できたりする。
「そうなんだよなあ。魔王の俺には空腹ゲージ無いんだけど。魔族の皆にはコレが適用されてるって言うのがなあ?」
詳しい所をゲブガルから聞いたら、この城には巨大農園があるらしい。俺はこの玉座の間から未だに一歩も、これっぽっちも、つま先1ミリも出る事は叶わない。
なのでこうして話を聞くくらいしか、この城の事を知る方法が無い。そしてこの農園で農作業に子供達は従事していたりもするという。
働かざる者、食うべからず、と言いたいのだろう。しかし時折この部屋の扉越しに聞こえてくる子供達の声は明るく元気だ。
どうやら早くもこの城での生活に馴染んだのだろう。俺はコレにホッとした気分になる。
「お心遣い、感謝します。今でも充分に満ち足りた生活をさせて頂いております。」
この子はキリアスと言う名なのだが、俺と面談した時には既にこの状態であった。どうやら教育は必要ないレベルなのだ。
言葉遣いも変だったりしないし、勉強もできる優秀な子なのである。そしてもう既に一人前と扱って差し支えないかな?と一瞬だけでも思ってしまうような落ち着きを持っている。
しかしやはりそこは俺の気持ち的に見て、この子にもちゃんと子供らしい事をさせてあげたいと思ってしまう。
(うーん?結婚して無いし、当然俺には子供も居ない。こんな気分になるのは偏にどう言った精神状態なのかねえ?)
自分が会社で働いている時の精神状態とは明らかに違う。俺はこの「魔王」で居る時にはどうにも「中身」の性格が変わってしまうらしい。
そんな風に思っていたら、ここで部屋へと入って来る者が居た。それはミャウちゃんだった。
「この度、魔王様の命により軍の発足を受け、人員を集めてまいりました。新たに魔王様の配下となる者たちですので、謁見させてやりたく思い、参上しました。」
ミャウちゃんはこの一週間、ずっと外へと出向いていた。そしてどうやら自分が納得できるだけのスカウトができたと言う事らしかった。