何で俺だけ「勝負は一瞬で終わる」
またしても爆発と熱波。だがゲブガルは先程と同じ、傷一つ負わずに平然と立っている。
「お前たちのその諦めの悪さに敬意をもって私から一手、仕掛けさせて貰おう。」
「もしかしてその壁を解かなければ攻撃がこちらに届かないとか?」
「ならカウンターを狙うって事かよ?最初からそう分かってたら面倒な事もしなくて良かったのに。」
「焦ったよな。てっきりレイドボスだと思ったし。俺のデッドエンドが通じない位だもんな。」
「正直に言って私たちは手が出せないわよ?回復しかやる事無さそうだし?」
「補助魔法は掛けるけど、カウンター狙いで魔法撃つって難しくて私にはできないから期待しないで。」
「私はそう言うタイミング狙うの得意。でも今はアイツの攻撃がどんなモノか見た方がいい。様子見大事。」
剣士、盾使い、魔法使い男、僧侶女、魔法使い女、斥候女の順で言葉が続く。その言葉に突然「答え」が返る。
「お前たち、何か勘違いをしてはいないか?ここを何処だと思っている。それと勝手な思い込みは自分の死を容易に招くと知れ。まあその様な言葉が出ると言う事はまだまだ未熟者と言う証拠だ。では、死ぬと良い。」
このパーティはゲブガルの攻撃を見極めるために盾使いの後ろへと固まっていた。彼の後ろならばどんな攻撃が来たとしても防ぐことが可能だと思っていたからだ。
この盾もサブクエストの報酬のレア装備である。かなり高い能力を秘めた盾なのだが、それは今回意味をなさなかった。
彼らの立つ場所の床が突然消えたからだ。そう、それは落とし穴。大分下には針の山。落ちれば命は無い。
このゲームには死者蘇生の魔法もある。プレイヤーのみに。この情報は既に出回っている。だが、まだソレを習得した者は一人もいない。
これもレアサブクエストで得られるというのもあるのだが、相当僧侶のレベルを上げないと習得が不可能で、しかもどうやら隠しステータスが関係しているとプレイヤー間で睨まれている。
この情報は僧侶の職を選んだプレイヤーが教会に通い続けて得た情報で信憑性も高いと判断されている。
魔法効果のほどは死んで二分以内にその魔法を唱えれば死亡したプレイヤーを一人だけ復活させられるというモノだ。
同じ効果のポーションアイテムも存在すると噂されるのだが、真偽のほどは確かではない。なのでこの時点で彼らプレイヤーに蘇生と言う手段は存在しない。
だからこそ彼らは生き延びて自身のレベルを上げ続けるために必死で、滅多に「死に戻り」と言った手段を取るような者は少ない。経験値が大幅に差し引かれるからだ。容赦無くレベルが一つも、二つも、下げられる勢いで、である。そんな中で幾度も死ねる訳が無い。この仕様でゲームを遊ぶプレイヤーは緊張感をもってレベル上げをするようになった。
で、ここで六名中五名が死亡した。光の粒が落とし穴の中に満ちる。死んでいない一名と言うのは盾持ちだった。
咄嗟に盾を針山へと向けて体制を整え、自分へのダメージを来ない様にとしたのだ。そしてソレは成功した。したのだが、盾は針がいくらか貫通し、ボロボロの状態へと変わっていた。
「ほほう?なかなか骨のある者も居たものだ。・・・ふむ、そのように睨むでない。お主が死ぬ前に褒美として答えを教えてやろうというのだ。さて、お前たちが私の拠点内でどのように進んできたのかを思い出せば答えとなろう。・・・その顔、すぐに気付いたな?そうだ。この部屋にも罠は仕掛けてある。私の意思一つで発動するそれらがな。」
彼らはここに来るまでの間、森の中、そして拠点内を歩き回る上で最大の敵はこの「罠」だったのだ。
出てくる魔物たちは別段敵として見なすだけの価値の無い雑魚ばかり。それよりも酷いダメージを受けさせられたのは罠の方だった。
解除の時間、うっかり罠を発動させてしまった対処の手間、そしてそのせいで受けた傷の回復での浪費、より一層に慎重に進むために費やされ使う事になる精神の疲労。
その他もろもろ、魔物を排除しようとして、逆に罠のある場所へと誘導された事もある。悪辣で残忍、そんな罠をかいくぐって彼らのパーティーはやっとこの領域のボス、ゲブガルの元へと辿り着いたのだ。
しかし、それは遅かった。こうしてゲブガルが強化される前であれば倒す事も可能だったかもしれないが、今のプレイヤーのレベルでは絶対に勝てない存在へと変わってしまっていたのだから。
「では、お前への一撃は私がしよう。さようなら、だ。」
穴の中で必死に盾で針を凌いでいたプレイヤーへとゲブガルから魔法の一撃が放たれた。その圧を受けて盾は壊れ、そのままそのプレイヤーは針へと突っ込み、光へと変わった。