何で俺だけ「力が欲しいか?なら、くれてやる!」
コレに俺はお約束のあの言葉を思い浮かべる。そしてそれをここで絶対に言わなければ!と妙な使命感を持ってベルガーンヘと言い放つ。
「ベルガーン、問おう。力が欲しいか?子供達を守り抜ける、そんな強大な力を。」
コレにベルガーンは訝し気な目で俺を見てきた。だけども正直にこの質問に答えてくる。
「欲しい。俺はあの時、奴らに殺される所だった。俺があの時死ねば、奴らはきっと子供達を殺していただろう。力が、欲しい。死んでたまるか。俺はもうあんな思いは御免だ。運良く助かった、それは良い。だが、今後もまた助かる保証は何処にも無い。俺は、俺は生きて子供達の所に戻る。守り抜きたい、だけど、死ぬ気は無くとも奴らに負ければ当然俺は殺されるだろう。だから・・・力が欲しい。強くなって、子供達の成長する姿を見届けたい。・・・得られるのならば、だが。」
「よっし!それじゃあ今あるポイント全部ぶっこみで!あ、ソレ!じゃんじゃんばりばりーっとな!」
俺はベルガーンの強化項目に指を添えて連打する。ピコンピコンと可愛らしい音がこの時鳴っているのだが、どうやらこの効果音は俺にしか聞こえていないらしかった。
どうにも俺の動きが妙だとゲブガルもマイちゃんもこちらを注視してくるが、それは短い時間だ。
そう、ベルガーンの強化が終わったのだ。運が良いのかどうなのか、今までに稼いだポイントで最大強化まできっちりと済ませる事ができた。
「はい!終わったよ!コレで君はプレイヤーたちに簡単に負ける事は無くなった。あ、そうだ。プレイヤーたちが光の粒を纏ったのを確認したら即座に逃げて来る事。その状態になると負ける要素が爆上がりするからね。死にたくなかったらこの事をしっかりと頭の中に刻んでおくように。それじゃあ今日はもう子供達の所に戻っていいよ。事情説明をちゃんとしてあげてね。子供だからって知らないままなのは駄目だからね。ちゃんと説得するんだよ?あ、それじゃあマイちゃん一緒に行ってあげて。」
ベルガーンの強化で俺の次の封印解除は遠くなったかもしれないが、後悔は無い。こうして新たな配下が死なないようにするのは後々にしっかりと響いて来るだろうとの判断からだ。
このゲームを長い目で見れば、封印を解くのも遠い。ならば他の部分で楽しめる所を見つけた方が建設的だ。
「プレイヤーを狩るのは自分の判断で行動していいよ。そうだなあ。三日分働いたら、一日休む的な?あんまり気張り過ぎないように、それでいてちゃんと自分が無事だって言うのを子供達に見せるために城に帰ってくるんだよ?」
雇うからには福利厚生はしっかりと、休息をしっかり取らせる事もまた責任である。
余りにも根を詰め過ぎるのも効率が悪い。いつもモチベーションを高く保っているようにする為には定期的な休息は必要である。
これにはベルガーンだけでは無く、ゲブガルもマイちゃんもポカーンとなっていた。
俺はこれを気にしない。だって俺の中の常識とこのゲーム内の世界観とは掛け離れているのだから。
それに俺は曲りなりにも「魔王」であるから、部下の顔色は一々気にしないでいくつもりである。
そうで無ければやっていられない。今の俺の現状はシミュレーションゲームをしているのと変わらない。
自分がこうしたい、と思った事をやっていないと楽しくもなんともないのだ。ならば、ここで俺の事を「珍獣」でも見るかのような目をするベルガーンも無視するのだ。
こうして新たな配下が加わった効果は翌日に現れた。俺が予想していた形と違う形で。