何で俺だけ「叫び」
「プレイヤー共が勝った時には疲弊しているはずだ。その時にはマイウエル、お前の一撃で奴らを一息で殲滅して貰うぞ?大丈夫か?」
「はい!暴走はしません。それに、今も一応は詠唱の準備はしてあります。」
二人は戦闘音が少なく、小さくなったタイミングで部屋の方へと近づく。そして中を覗き見た。すると。
「くっそ強いぞ!でも、倒せない訳じゃ無い!あの何だか分からない光のスキルを得られなくても戦える事は証明できた!ここが踏ん張りどころだぞ!」
プレイヤーたちのリーダーだろう男がそう叫ぶ。仲間を鼓舞するかのように。
「あれは追い詰められとるの。魔族の方が、な。」
ゲブガルは一瞬で状況を把握した。ちらりと見ただけでも魔族も、プレイヤーもどちらもボロボロ。しかし動きに対しては精彩を欠いていたのはどう見ても魔族の方だった。
「あの、コレは助けに入った方がいいんじゃ・・・」
マイウエルはそう言ってゲブガルに提案するのだが。
「あ奴の底力を見てからだな。ここから一矢報いる事ができるだけの力が無ければ、所詮は戦力にはならん。全く、何処までもお前さんは心底優しいのぅ。自分の心配を先ずする所じゃろ。」
こう指摘されたマイウエルは黙る。いや、少々表情を顰めた。これはゲブガルの言葉に機嫌を悪くした訳では無い。
ゲブガルが言いたかったのは、ここに居るプレイヤーがマイウエルの所に攻め入ってきていた者たちと似た性質の者たちだった場合を考えての事である。
それを察したマイウエルは嫌な事を思い出してその表情を崩したのである。
「今なら大丈夫です・・・先に覚悟を決めておけば少しくらいは耐えられます・・・」
「心配じゃのう・・・克服は完全にとはいかんな、コレは。」
こうした会話が終わったタイミングで戦闘が再開された。またしても金属音、魔法の詠唱、連携の為の声掛けが響く。
近い場所まで来ている事でその臨場感は増す。二人の耳にはここで行われている戦闘の流れが、壁から顔を出して様子を見ようとしなくとも手に取るように分かった。
そしてその時間がある程度過ぎた時、一つ大きな咆哮が響いた。コレはプレイヤーの誰の声でも無かった。
プレイヤーは六人、1パーティーのみ。ならばコレはここで初めて言葉を発した魔族の声だ。
いや、これは言葉では無く「叫び」と言ってもいいかもしれない。それは最後の力を振り絞る者の声。
「うがああああああああああ!」
最後の力を一滴でも漏らさぬようにと全身に意識を向ける、必死の叫びだった。
そこには何故か悲しみが含まれている事をマイウエルは感じ取る。
(何だろう?何でそんなに・・・?)
コレにマイウエルは困惑した。コレはマイウエルだけが感じ取ったもので、ゲブガルは冷静に戦闘の行く先を見極めようと神妙な顔をしている。
そしてその叫びが途切れた後に大魔法を放ったのであろう大爆発が部屋の中で起こる。
その爆発の後に部屋の中を覗き込んだ二人はプレイヤーが三人、生き残っているのを目にした。
しかし魔法を放った方の魔族はと言えば、もう戦闘など続行できない状態、仰向けに倒れてしまっていた。
文字通り立つ力さえ残っていない、そんな無防備な姿を晒していた。