何で俺だけ「予選は嵐のように」
武術大会イベント当日。大勢のプレイヤーが会場に集まる。目指すは優勝。
「なあ、優勝すると目の飛び出る位の金額が賞金として貰えるって言ってるけど、幾らなんだろうな?」
「あーそれな。運営はどうやら金額を知られるとそのプレイヤーに「たかる」奴らが殺到してくるだろうから発表はしないとか?」
「中途半端過ぎだろ運営の対応って。宝くじかよ、って思うわ。」
「あー、何処からともなく当選した事実が漏れて、寄付しませんかとか、宗教団体がーとか?挙句に知らない親戚が増えるとか?」
「でもさ、賞金がどれだけになるかは知らんけど、金で敵を殴る的なプレイもできちゃいそうじゃね?」
「そしたらもう、チート級の効果がある最高級装備を全身分揃えちゃうだろ。」
「でもコレ、個人参加だろ?戦闘職寄りが有利に決まってるじゃん?参加賞を貰うためにエントリーしただけだしな、俺。」
「いやいや、運がどう転ぶか分からんじゃん?本戦出場すればもっと良い物貰えるって話だし?俺は勝ち残るつもりだけどね。」
「って言うかさ?この間の武闘会と今回は別もの?もしかしてあっちの方は今回のイベントの調整用に先に先行して開催されたのかな?」
「あー、あれな。俺さ、あの後に魔王の城の門の前まで行ってみたのよ。なんか聞く話によるといつの間にか始まりの街に戻されてたとか言う話が気になってさ。」
「あれだろ?なんか文句ある奴が最後に行った奴だろ?俺もその話聞いたことある。」
「あ、俺も見に行った!スゲーよアレ!クレーターが滅茶クソでけぇのができてた!その威力を想像してブルッたし。コレは無い、って心の底から思った。」
「・・・なあ?その話が本当だったらさ?今この会場にプレイヤーが大勢集まってるじゃん?その一撃食らったら皆一網打尽にされるんじゃね?」
と言った会話が一部で為されていたりもしたのだが、ここで予選会の開始の説明が入る。
「お集まりの皆さん、ようこそいらっしゃいました。これより、武術大会の予選を始めます。ルールは至ってシンプルです。最後にこの場で一人、生き残って立っていた方が本戦出場となります。用意されたバトルフィールドは専用の広大な草原です。最外の境界線は時間と共に狭まって行く仕組みです。皆さん頑張ってください。では、Aグループ予選、スタートです。」
この始まりの合図とともにプレイヤーたちは今回専用に用意された草原のフィールドに一瞬で飛ばされる。
こうなるとプレイヤーたちは一斉に動き出す。自分の居る場所に近い人物を見つけては速攻で襲い掛かるという。
そこかしこで乱闘、乱戦が始まった。しかしこの状況を冷静に観察、考察して戦闘を回避する者も現れる。
この様な初っ端に戦闘をして即座に疲弊する行為は愚か者のする事だと判断した者たちだ。
ここで選ばれるのは最後に生き残り立っていた者だけ。ならば最初は温存、そして最後の方に余力を充分に残しておくことが肝心だと。
そう言った者たちは大抵は「隠密」などと言ったスキルを使えるジョブを持つプレイヤーだ。
彼らは早々に自身をスキルで隠蔽し、他のプレイヤーから襲い掛かられない様にと静かに身を隠す。
だが、そう言った者たちを狩る者も必然と現れる。隠れる奴は大体弱い、と。そうしたプレイヤーを見つけては襲い、地道に潰していく。こうしたモノたちは「同じ穴のムジナ」である。
隠れる事だけに意識を割いたプレイヤーは「見えていないから大丈夫」と油断した者から消されていく。「看破」という見破るスキルの存在を頭から外してしまっているからだ。
「隠密」も「看破」も、斥候を中心とするジョブが大抵は覚える。だからこそ、同類が同類を狩ると言った形が生まれていた。
こうした中で協力体制を作って「生き残る事」と「敵を屠る事」を両立させる者たちも出始める。
お互いに同じメリットとデメリットを抱えて互いに最後まで生き残る事を目指すのだ。
当然こうした連携を直ぐに取れるようなプレイヤーは最初からこのゲームでパーティを組んでいた仲間同士が多い。
戦場ではそうした幾つもの「塊」が、時間が経過してくと共に出来上がっていった。
だがこうした連携プレイにも亀裂が生じる所もあった。裏切りだ。自分にとっての強敵となるであろうプレイヤーに協力し合う事を持ち掛け、そしてそれが受け入れられたらある程度の所までは信頼を得るために積極的に相手をフォローする。
そして決定的な場面だと判断した所で、一気に裏切って倒してしまうのだ。
流石にそう何度もできる事では無いので一度やったら二度と通じる方法では無いが、ちらほらとそうしたダーティプレイを嬉々としてやるプレイヤーも存在した。
しかしそれを予想されて返り討ちにされるプレイヤーもいるにはいた。それは裏切りを敢行するプレイヤーよりも腕前が、もしくは、機を見るのが「上」だと言う事の証明。
こうして予選は何処までも混沌を作り出し、阿鼻叫喚の嵐を生み出して進む。