何で俺だけ「残された傷跡」
掲示板には武闘会の話題で持ちきりだった。
「もの凄いレア鉱石を貰った件」
「俺も欲しかったあああああああああ!」
「裏山、と言って良い物かどうか迷う。話を聞けば聞くほど魔王凄まじ過ぎ」
「俺も忍者を見たかった」
「優勝賞品が何だったのかの情報が一切流れない件について」
「プレイヤー同士でボコり合うの楽しかったワロス」
「途中で真っ先に抜けて行った奴らの後の話がオモロ過ぎる。全滅美味しいです」
「人の不幸は蜜の味。だけど俺がその場に居たらと思うと背筋が凍る。ミノタウロスとか定番なのに」
「街を出ようとしたらいつの間にか誰も居なくなっていて突然仮面の魔族に消されたの納得いかない」
「予選が終わったって言う声が聞こえなかった奴はいないはず。出て行ったお前が悪い」
「牛に轢き殺されて蹂躙されたと聞いて」
「俺はいつの間にか姿の見えない存在に攻撃されて消えてたんだが?」
「仮面さんが居なくなってから集団が出て行ってたけど、あれ何?」
「俺も忍者になりたい。どんなクエストクリアすればなれるんだ?」
「四天王のおじいちゃんが城に居ると聞いたけど。そう言えば殺せなかったんだっけ?それで魔王の城に逃げ込んでた?」
「大乱闘スマッ◯ュブラ●ーズな予選がワチャワチャ過ぎてテンション上がった。たのしかったですマル」
「多分この先、アレだけスキル連発する戦場は暫くは無いんだろうな。ブッパするの楽しかった」
「隕石で問答無用に消滅させられた件について。あの一撃で生き残った奴おる?」
「仮面の奴は許さん!絶対にぶっ殺すマン参上!」
「お前には無理」
「四天王のバランスがどうにもおかしいと思える。同じ様に思った人いない?」
「魔王がやべえ。何がって?魔王がやべえんだよ!」
「今回出場できた奴らは見合った品をゲットできたらしいけど、それ以上に俺は魔王の情報がもっと欲しい。」
「正体が未だにイマイチ掴めない魔王と、どうやら側近であろう仮面の魔族。情報をもっとプリーズ!」
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「マイウエル、どうしてこの様な魔法を選んで放ったのかしら?一応は言い訳を聞いてあげるわ。せめてもの情けよ。」
ミャウエルがそう言って一歩一歩、ゆっくりとカウントダウンでもするかのようにマイウエルへと近づく。
「だ、だって!魔王様が殲滅をしろって言うモノだから。一人も逃がさない様にするにはあの魔法じゃ無いと無理だったから・・・」
「そう、一応理由はあるのね。でも、私もゲブガルもあの場に居たのに、何故その事を思いつかないの?・・・駄目ね。お仕置きが必要だわ。あなたのドジで今後この様な事を起こさないように・・・ね?」
この言葉にマイウエルが「ひいぃ!?」と非常に怯えた表情になって後ずさる。これをゲブガルが止めた。
「ミャウエルよ、そこら辺で止めておけ。脅すのは構わんが、度が過ぎればまたマイウエルの嬢ちゃんが部屋に引きこもってしまう。最近はようやっと落ち着いてきていた所なんだからな。しかしまあ、派手にやってくれたものだ。少し肝を冷やしたぞ?」
魔王の城は無事だ。当然門だって無傷である。コレはゲブガルの魔力障壁のおかげであった。
しかしマイウエルの放った魔法、その衝撃の威力は凄まじく、城の、門の前、プレイヤーたちが居た場所には巨大なクレーターができていた。
そしてそれで生まれた衝撃波が当然周囲にも広がる訳で。
「どうしてくれるの?城の前が更地になったわ。周囲の木々も吹き飛んでしまっている。奴らを殲滅するにも私たちも居たのだから、連携して他の別の魔法を使っても殲滅は可能だったでしょう。マイウエル、あなたが全部元に戻しておきなさい?良いわね?・・・そうで無ければ、分かる?」
ミャウエルのこの脅しにマイウエルは首をぶんぶんと連続で縦に振る。
城の前は200m半径に被害が出ている。木々は吹き飛んで大地が剥き出しだ。凄まじい、想像を絶する威力である。
これはマイウエルがこのたび「本気」を出したからである。コレが本格的な、命を狙い、狙われるような戦闘中だったらこれほどの被害にはならなかった。
というか、寧ろ、超破壊魔法の「メテオ」などと言った魔法は使えなかっただろう。今回この魔法を使う事になったのは時間の余裕、プレイヤーと直接対峙していない状況、魔王からの「殲滅」の命令が下されていたという条件が重なった事に因るものである。
そうしているとこの三名の脳内で響く声が。
『おーい、話は聞いてたよー。マイちゃんに罪は無いから、ミャウちゃんもそんなに怒らないで。城の前はそのままで良いよ。プレイヤーたちをビビらせるのに打って付けだから。コレがそのままになってれば今後迂闊に手を出そうとは思わないだろうしプレイヤーは。一旦皆戻ってきて。今後の話をしよう。』
こうして大きな傷跡を刻んで武闘会の本当の幕は下りた。