何で俺だけ「気を付けろ!落ちて来るぞぉ!」
当然ながらアレだけの魔法を防いだのはゲブガルの力である。しかし、その姿をゲブガルはこの場に出さない。
あくまでも裏方に徹しようとしていた。それは魔王からの言葉通り。門を守る事、ただそれだけを徹底するためだ。
ミャウエルはついでで守られていたようなモノだ。門の全面に張られたゲブガルの魔法障壁は門の左右上下を大幅に覆うように展開されていた事でプレイヤーからの攻撃を防いでいただけである。
別にゲブガルの障壁が無かったとしても、全てミャウエルなら防ぐ、避けるは簡単にしていただろうが。
そう、強化を最大値にまで上げられている現状、ミャウエルもゲブガルも今のプレイヤーの力で倒すには至難、困難であるのだ。
ゲブガルは一度は撤退させられていたが、あれは事前の準備が完璧に整っていたからこそだった。
しかし今はその状況とは全く別だ。この門の前に集まったプレイヤーたちの攻撃如きでは全くこの障壁を破る事などできない代物である。
「うおりゃあああああ!」「コナクソがぁ!」「ぶっ潰してやる!」「くっそかてぇ!」「何だよこの頑丈さは!?」「細い筋一つ付かない?無理げじゃね?」「流石にイベントアイテム揃えないと駄目かぁ。」「つか!武器叩き付けてんのにそもそも扉に届いてなくね?」「あ、マジで?・・・この現象どっかで?」「魔法が効かねえから門だけでもぶっ壊そうと思ったのに!」「終わったって言ってたけど納得できねぇ!」「オラオラオラオラオラ!」
仮面の魔族、ミャウエルに魔法が通用しなかった事で今度はプレイヤーたちは門を破壊してやろうと殺到する。
そして誰もが自分の必殺スキルを自慢げにしつつも門へとぶつけていくのだが、やはりここでもゲブガルの障壁が全てを弾き返す。
コレに段々とプレイヤーたちの中で気付いた者が現れた。
「もしかして、あの罠使ってきた、障壁でこっちの攻撃が通じない爺さん魔族?」
名前は知らなかったんだろう。しかしこの呟きがプレイヤーたちに広まる頃にはもう遅かった。
何が遅かったのかと言うと、彼らが逃げるにはもうタイミングを逃していたという意味で、遅かった、である。
もうすでに門の中ではマイウエルの魔力集中、練磨は終わっていた。後は詠唱をするのみだったのだ。
「遥か宇宙の星々よ、我が魔力で引き寄せん。赤き絶望の一矢となりて、愚かなる者どもに消滅の救いを。・・・メテオ。」
この詠唱は門の、城の外に居る騒いでいるプレイヤーたちの耳には一切入らない。だから、逃げられない。
彼らがこの場で消えるのを逃れるには、マイウエルが詠唱を始めた「は」の発声時点で今出せる全力を出し続けてこの場から遠ざかるのみだ。
それでも生き残れる可能性は10パーセントもあれば良い方だっただろう。
未だに彼らは頭上からごうごうと音を立てて落ちてくる隕石の存在を気付く事はななった。
そう、自分の事で精いっぱいで、騒いで、喚いて、不満をぶちまける事に夢中で、それこそ音に何て気を向けていなかった。だから。
「なあ、?なんか変な音しねぇ?」
「そんな事より、俺はもう諦めたけど。」
「こんなのお祭りじゃん?思いっきり技連発してもっとスカッとしようぜ?」
「つか、マジでこれってあの四天王?の壁だよな?クソだろマジで運営。割れるそぶりすらねーじゃん。」
「いやいや、つか、撃退されたって掲示板にあったじゃんね?何でここに?」
「一斉に攻撃しても割れないってどういう事だよ?いや、まあ、力不足何だろうけど単純に。」
「なんか流されて一緒に来ちゃったけど、どうしよっかな?もうこれ以上は何も起きそうも無いし、あわよくば何かアイテムとかゲットできればなー?とか思ってたんだけど。」
「この壁にまだ俺たちの攻撃じゃ通用しないって分かってたけど、それでも小さい罅くらいは入れてやりてえ。」
「死ね死ね死ねぇ!ぶっ壊れろよ!このこのこのぉぉ!」
単純に怒りをぶつける者、冷静になった者、イベントだから楽しめばいいと言う者、只々この集団に打算で付いてきた者、などなど、次の瞬間には全員が平等に、そして一斉に消え去る事になった。