何で俺だけ「一斉に放たれる魔法は」
「既に魔王様の開催した武闘会は終了した。この城に入る事は叶わない。立ち去るがよい。」
門の上に立つ仮面を被った魔族、始まりの街で彼らに「失格」と伝えた存在がプレイヤーたちへとそう声を掛けた。だがこの言葉に耳を貸す者が皆無であった。
「てめえよくも俺たちの前に顔を出せたな!えぇ!コラ!?おい!皆!コイツを灰にしてやろう!」
誰かが恨みを籠めてそんな言葉を吐き捨てた。コレは一度ならず二度三度と「消された」プレイヤーだろう。この魔族を見て相当に苛立っている事が窺えた声音だった。
この言葉に呼応して大魔法の為の魔力を練り始める魔法使いが一人現れたとたんに、つられて魔法詠唱をする魔法使いがどんどんと増え始める。
そして魔力を練り上げ終わった者からドンドンと魔法の名前が叫ばれていく。先ずは初級から中級の威力の魔法が一斉に放たれた。
「ファイアあああああ!」「ウォーターバレットおぉぉォ!」「アイスソォォォォーッド!」「アース・・・スピアァァァ!」「サンダーぁァぁ!ランスぅゥぅゥ!」「トルネードぉぉぉカッタぁァぁァ!」「ホーリーボーぉぉぉ!・・・ルゥぅゥぅ!」「ブラックレイン!」
それらの魔法は完璧に仮面の魔族へ直撃した。爆発したり、光ったり、赤く青く白くと、仮面の魔物の姿がそれで隠されていてどうなっているのかが判明しない。やられたのか、そうで無いのかの確認もこれではできそうにない。
そんな中にその後に追撃が走る。大魔法の詠唱をしていた者たちの攻撃だった。
「我が魔力に応え、その限界を超えろ!フレイムぅゥぅゥ!バスターぁぁァ!」
「裁きを不浄なる者に!浄化の光をここへ!ホーオオオオオオ!リイイイーーーーー!レエエエエエーイ!」
「極限の低温の前に動く者無し!全ては氷に閉ざされるぅゥぅゥう!ブブリザアぁァぁード!アックスううぅう!」
「天よ!俺の魔力を目標にその怒りの鉄槌を下せ!サンダーぁァぁァ!ハンマーあああああ!」
「大地の拳は何者をも砕く!アーアアアアア!スウウウウウウウ!ナぁァぁああああ!クルうウウ!」
門の前にはこれらの魔法の炸裂した音が大音響で鼓膜がイカレそうな程であった。
だけどもプレイヤーたちはこの派手な光景に快哉を上げる。コレで俺たちの恨みは少しは晴れた、と。
だが、少しづつ静かになって魔法が起こした大爆発で上がった煙が少しづつ晴れて行くと、どうにもおかしいと気付く者が現れた。
「おい、何で門の上に脚が見えるんだよ?いや、まさかな?」
「上半身が吹っ飛んで下半身だけ残ったんだよな?いや、それはそれでグロいけど。」
「そうだよなあ。アレだけの魔法食らって無傷は無いだろ?寧ろ死ぬよな?」
「・・・おい、何だよ・・・?どうしてなんだよコレは?」
「おいおいおい!ありえねーだろ?片腕の一本くらいは吹き飛んでいてもおかしくないだろうが!」
「無傷?マジで?勝て無くね?って言うか、運営、バランス考えてるのコレ?」
「何事も無かったように立ってるじゃん、さっきので魔力空っぽに近いんだけど?」
そこには無傷の仮面の魔族が。しかもうんざりだ、とでも言いたげに首を軽く項垂れさせた。そして再度の警告が為される。
「もう一度告げる。武闘会は終了した。これ以上のお前たちが攻撃を仕掛けてきた場合、消させて貰う。コレは魔王様の慈悲と知れ。解散しろ。素直に言う事を聞けば見逃す。この場から去れ。」