援護射撃(ロニー視点)
俺はいつも肝心な所で失敗する。
前に新人冒険者を助けた時だって、賊を窓から突き落としたと思ったら自分も袖を捕まれて落下して足を挫いてしまった。
カーラがあんな事になった時だって、もっとうまくやれたハズだった。
今回もガストンやクリフが自発的に色々やっているのに、俺はただ見ている事しかできない。
それにしたって今回は相手が悪すぎだ。
あんなのどうやっても対抗策が見えてこない。
こりゃもう俺とガストンは犠牲になる他ねぇな。
腐れ縁だし、それくらい付き合ってやるかというのも束の間、礼拝堂から出てきたのはガストンの奥さんとその娘だった。
半狂乱になりながら二人の元に駆け出すガストン。
無防備だ。
恐らく奴の狙いは娘と見せかけてガストンだ。
少女など、逃げたとしても簡単に捕まえられる。
それより後々面倒になりそうなのを無力化してしまおうって腹だろう。
そんな予想は、第三者によって文字通り吹っ飛ばされた。
クリフだ。
目を疑うようなスピードで接近したかと思うと、ヴァンパイアを殴り飛ばした。
その体は真紅の鎧に包まれている。
「なんだありゃ?」
クリフの隠し玉か?
それにしたってすごい威力だ。
しかしそれだけではヴァンパイアも死ななかったと見える。
緩慢な動作で起き上がっているが、あれは…
「それにしても、俺ってやつは全く役に立たないな…。」
ガストンに続くでもなく、クリフのようにヴァンパイアを止めるでもなく、ギルドに走るのでもない。
全く、でくのぼうとはこの事だな。
『…そんな事はない。』
な、なんだ!?
奴の精神攻撃か!?
『落ち着け、むしろ味方だ。お前がこの場を動いていないという事が実は重要な事は、お前自身が分かっているはずだ。』
…でも、実際役に立ってねぇしよ。
『不貞腐れるな。地下から逃走する際に撒いたマキビシも、階段を上りながら設置した聖水のトラップも、さっき詠唱を止めさせようと投擲した痺れ薬を塗ったナイフも無駄ではない。』
どこがだよ。
『相手には利かないという事が分かっただろ。』
確かにな…利かないというのは重要な情報だ。
ヴァンパイアは日光が苦手なんてのも嘘っぱちだったし、やはり人伝に聞いた情報に頼っても良い事ないな。
…
俺は、前に自分が犯したミスが許せなかった。
自称ベテランのアドバイスなんかに浮かされてパーティを危険に晒した、カーラなんか死んでもおかしくなかった。
もう絶対に、油断はしない。
だが、こんなハイレベルな戦いじゃあ俺なんて役に立てない。
『いや、お前にもできる事はある。お前個人では大した力になれずとも、パーティ全体が十全に戦える状況を作り出すという事だ。いつもお前がやっている事だ。』
それにしたって限度があるぜ。
奴が立ち上がる時、明らかに動きがおかしかった。絶対に何かを仕掛けているだろうが…
あんな次元の違う存在相手じゃ、俺一人じゃどうにもならんだろ。
『その為に私がいるのだ。仲間を掩護する程度の力ならば、私が貸してやる。申し遅れたな、私の名は─────』
「えぇい!よく分からんが頼むぞ《ビャッコ》!」
一瞬、視界が光に包まれたかと思うと、白い鎧が体を覆っていた。
『まずは腰のリボルバーを使え。』
「りぼるばぁ?」
『小型のボウガンと思えば良い。狙いの微調整は私がやろう。』
腰に手を伸ばすと、確かにボウガンの引き金がついた筒がついている。
「時間がもう無い。とりあえずやってみるか。」
目の前ではヴァンパイアとクリフが激闘を繰り広げているが、クリフが優勢のようだ。
俺はクリフの足元に狙いを定めた。
「そこだ。」
迷いなく引き金を引く。
次の瞬間クリフの足元からグールが顔を出し、クリフの足を掴もうとした所で頭を撃ち抜かれた。
「ヒュウ、すごい威力だな。」
『油断するな。まだまだ来るぞ。』
「分かってるよ。」
次の目標に狙いを定めた。