お節介なおっさんのその後
「…ロニー、クリフ、無事か?」
「俺ならもう死んだぞ、もう声をかけないでくれ。」
「ガストンさん…僕はまだ大丈夫です。」
俺達は今、町外れの教会だった所で地面を這いつくばっていた。
「おやおや、まだ死んでいなかったんですか?」
静かな、それでいて不思議と辺りに響く声だ。
「さっきので死んでいれば楽に逝けたものを…よろしい、貴方達には特別に地獄への鈍行切符をプレゼントしましょう。」
声の主の赤い目が爛々として俺達を見つめている。
せっかく生き残れたかと思ったのに、どうやら逃しては貰えんらしい。
全く、どうしてこんな事になっちまうんだ。
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「クリフ、そっち行ったぞ!」
「はいっ!」
レッドボアの突進をクリフが大盾で受け止める。
簡単にやってるように見えるが、そこらの熟練冒険者でもレッドボアを真っ向から止められる奴なんて殆どいない。
レッドボア自身もこれまでそんな体験をした事は無かったのだろう、脳震盪でも起こしたか足がふらついている。
「ほいっ。」
隙だらけのレッドボアの横あいからロニーがすれ違いざまに短剣を振るった。
狙いは寸分違わずレッドボアの足の腱を切り裂いた。
機動力さえ奪ってしまえば、レッドボアなど問題にもならない。
程なく狩りは終了となった。
「…にしても凄いよなぁ。」
「何がです?」
「お前のそのパワーだよ、クリフ。」
「そうだな、ガストンも中々と思っていたけど、クリフのはもはや規格外だね。」
「いえいえ、僕なんて力が強いだけですから。」
そう言うクリフは、肩にレッドボアを担いでいた。
しかも顔色一つ変えていない。
レッドボアなんて、狩りをしたらその場で解体、持てるぶんだけ持って帰るってのが常識だ。
欲張って全部持って帰ろうとしても持ち上がらない。ロープで引き摺ったら皮の価値が落ちる。
しかもそんな所を別の魔物に襲われたら抵抗のしようがない。
しかしクリフはレッドボアを持ち上げたままでゴブリン程度の魔物の攻撃ならヒョイヒョイ避ける。
このクリフってのはおよそ一月前、色々なゴタゴタがあった時に偶然面倒を見る事になった少年だ。
年齢は俺と10は離れているはずなのだが、体格に恵まれていて、とんでもなく頼りになる。
唯一の欠点は自分に自信が無いって事だ。
今回の狩りでも、クリフはずっとサポートに徹していた。
「まだ、自分からは手が出せないか?」
「すいません…」
「いや、無理にやってほしいとは思わない。現状お前がいるだけでめちゃめちゃ楽に魔物狩りができるしな。」
こいつの面倒を見る事になった当初、精神的に安定していなかったからな、ゆっくり様子を見ていくしかないだろう。
そのまま世話話をしながらギルドへと戻ってきた。
道すがらすれ違う人間が皆、レッドボアとそれを持ち上げるクリフを凝視していく。
どうだ、クリフはすげぇだろ?
俺は胸を張って歩くものの、当の本人はあまり目立ちたくはないようだ。
帰ってきた俺達を待っていたのは、やたらとしかめっ面をした受付の兄ちゃんだ。
敏腕のエミリーが行方不明になって、ただでさえ深かった眉間の皺が更に酷い事になっちまった。
最近やっと落ち着いてきたはずだったんだが、またそのしかめっ面が戻ってきてやがる。
「よう、レッドボア狩ってきたぞ。」
「見りゃぁ分かる。お前らなら仕損じることも無いと思ってたから、報酬も満額用意してある。」
「おいおい、そりゃあ信頼されてるのは嬉しいけどよ、それで良いのか?」
「良くない…が、手が足りん。」
だよな。
受付のエミリーが失踪したのと同じ頃、この街では問題が次々と出現した。
教会のシスターエルザの失踪。
消えた王国騎士団長と一部の騎士達。
半壊状態の教会に突如として現れたオーガの一団の死体。
ギルド救護室の人間ピラミッド。
どれもこれも報告を受けて、はいそうですかでは済まされない問題ばかり。
必ず一つ一つ綿密な調査が必要になる。
できれば周辺には内密にした上で、だ。
しかし、冒険者ギルドも国の騎士団も人手が足らない。
「そんな訳で、次の依頼だ。」
「おい、こりゃあ昨日までBランク以上の高難度依頼だった奴じゃねぇか?」
「お前らは元々Bランク以上の実力はあるんだよ!謙虚なのも良いが、こっちの事情も理解してくれ。それに…」
「それに?」
「どうせ何も起こらねぇよ。」
『教会地下から街の外の探索、並びに失踪したシスターの捜索』
確かに、今まで結構な数の上級冒険者が依頼を受けたが、何の成果もなく帰ってくる事がほとんど。
「今までの奴らだって特に何もせずに高額の依頼金だけ受け取ってるんだからな。お前らは頑張ってるし、暇な依頼でも与えねぇと休まねぇからな。」
そう言う事なら、休暇を貰ったと思って行ってみるか。
「よし、明日はこの依頼やるぞ!」
「よし、久々に楽して金儲けできるな。」
「ロニーさん、本音が出すぎですよ。」
次の日
「教会にこんな地下牢があったなんてなぁ。」
俺達は教会の秘密の地下牢にいた。
真新しい素材の牢がいくつか並んでいるだけの空間だ。
この奥に、街の外へと繋がる隠し通路がある事までは分かっている。
「何に使ってたんだか…シスターの秘事ってやつか?」
「…」
「クリフ、どうした?顔が青いぞ?」
「い、いえ。…あの、実は、言ってなかった事があるんです。」
「お前が自分の事を語るなんて珍しいな。」
「僕はここにいた事があるんです。しかもその日は、シスターエルザが失踪した日です。」
「なっ!?」
「本当かよ!?それなら真相も突き止められて成功報酬にボーナスまでつきそうだな!」
「ロニー、茶化すのはやめろ。どうやら深刻そうな雰囲気だ。」
クリフは一旦大きく深呼吸をすると、ゆっくり口を開いた。