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悪役令嬢のままで3

転生に気付いてから3日目、私は言いしれぬ不安を抱いていました。


「ローラ、今日も君はこの世の誰よりも美しい!」

「そんな、私など褒められるほどの顔ではありませんわ。」

「ローラは謙虚だよね、そこがまた良いんだけどさ!」

「ええ、その清らかな心があるからこそ、お守りする者としてやり甲斐を感じるのです。」

「……」

「そーゆーこと。」


視界の隅ではいつもの光景が繰り広げられています。

ここ3日間で見慣れた光景な訳なのですが、正直違和感がすごい。

というのも、普通ならローラ達はダンジョンに潜ったり城下町のチンピラと戦ったりしながらレベルを上げ、装備を整えていくはずなのですが……

一日中キャッキャウフフしてるだけで、何処かに出かけている雰囲気が全くありません。


今思えば、今日に至るまで彼らがダンジョンに潜ったとか、暴漢を退けたとか、そういった噂は全くありませんでした。

これで彼らは私を退けた後、魔族と戦うなんてできるのでしょうか?

現状、私の見立てでは全員で力を合わせてオーク一匹が精々といった雰囲気。

実家の領だったら一般人以下の戦闘力しかなさそうですわ。

というか、その程度の戦力では私すら倒せないのでは?

と、心配になってきました。


……


その日は課外活動として、魔物狩りの体験をする日となっていました。

複数人で班を組み、ゴブリンを数匹狩るだけの簡単な授業です。

メンバーは図ったかのように私とローラとローラの取り巻き5名。

この好機に彼らのレベルアップを促してやろうと思います。


通常、ゴブリンは洞窟や森の中に集落を作って暮らしています。

もしそんな所に攻撃を仕掛けると、数十匹のゴブリンに取り囲まれてタコ殴りにされます。

駆け出しの冒険者くらいなら死んでしまうかもしれませんね。

今回生徒が狙うのは、狩りのために外を回っているゴブリンか、そもそも集落に所属していないはぐれゴブリンという事になっています。

とはいえその程度では経験になりませんから、私は魔物を誘い出す時に使う餌をこっそり持って来ました。

これでウルフ系の魔物を呼んでしまう事にしましょう。


……


皆で揃って森の近くまでやってきました。

と、ここでヨハンがさっさと終わらせる為に二手に別れようと提案してきました。

そうして、私と貴族、豪商の息子の三人、ヨハンとローラ、その他の四人に別れてゴブリンを探す事になりました。


「あーあ、俺もローラの傍にいたかったなぁ。」

「まぁまぁ、さっさとゴブリンを処理してあちらと合流しましょう。」


私の前を二人が先導しながら歩いています。

二人は雑談をしながらゴブリンを探して歩いているように見せかけていますが、実際には何処か目的地に向かっているような足取りです。

さて、何処に連れて行くつもりなのでしょうか?

それは、程なく判明する事となりました。


「いたぞ、ゴブリンだ!(棒)」

「え、どこどこ?(棒)」

「分からないか?しょうがない、俺が火の魔法で先制攻撃を仕掛けるから、それを目印に攻撃を仕掛けてくれ!(棒)」

「分かった!レイアさん、僕らに敏捷上昇の補助をかけてくれる?(棒)」

「はい、“スピードアップ”」


言われた通り、二人の体に風属性の補助魔法をかけてあげた。


「よし、行くぞ。“ファイアーボール”」


火の魔法は真っ直ぐに飛んでいき、目標の物にぶつかって小さく爆ぜた。

ゴブリン……の集落にど真ん中に。

集落のあちこちからゴブリン達が飛び出してくるのを確認し、二人は敏捷上昇の補助を活かし、私を置いて全速力で逃げて行きました。

最初からゴブリンの集落に私を取り残して行くつもりだったのでしょう。


「……舐められたものね。」


学園内では、私が補助魔法が得意というのは周知の事実。

複数のゴブリン相手ではどうにもならないだろうと思ってこんな事をしたのでしょう。

目の前には50匹を超えるゴブリンの群れ。


さてさて、どうしてくれましょうか。


─────────────────────────────


「撒いたか!?」

「ああ!ざまあみろ、ローラを虐めたりするからこんな事になるんだ!」


森近くの草原を2つの影が疾風のように通り過ぎていく。


「皆と合流したら助けに行ってやるとするか……それまでにどうなっていることか。」

「ゴブリンは若い女は殺さねぇらしいからな、命だけは大丈夫さ、ヒヒ。」

「よくもまぁこんな酷い事を思い付くもんだ。お、見えたぞ。」


二人の視界の隅にヨハン達の背中が映る。

ヨハン達は立ち止まって何かと対峙しているようだ。


「ゴブリンを見つけたか?」

「いや、それにしちゃおかしい。本気で戦っているように見えるぞ。」


ゴブリンなど、1匹2匹程度では問題にもならない。

問題になるとしたら、単独で20匹に囲まれたりした場合だ。

そんな疑問も、近づきつつ目を凝らせば直ちに氷解した。

大型犬のサイズの白い狼が3匹、歯を剥き出しにしてヨハン達に襲いかかっている。

ローラを背中に庇いながら一人が一匹ずつを相手にしている。


「ホワイトファング!?」

「討伐難度Cの魔物がどうして!?」

「すぐに加勢するぞ!」

「そうだな、ローラが危ない!」


2人は全速力で駈け、ローラの隣を固めた。


「大丈夫か!?」

「ええ、それよりも早く皆を援護して!」

「仲間思いなのは君の長所でもあるが、今一番大事なのはローラだ。それは皆も分かっている。」

「でも!」


2人はローラを安全な場所まで連れて行こうとしたが、ローラがそれを固辞した。

ローラを守る為に必死に戦っていた3人であったが、そもそも実戦経験が少なすぎた。

ローラ達が逃げる逃げないで揉めているまさにその時、中でも非力な神官が大きく体勢を崩した。

ローラは必死に駆け寄ろうとするが、引き止められてしまう。

そんなローラ達の目の前で、倒れこんだ神官の喉笛目がけ、ホワイトファングが牙を光らせ飛び掛かっていく。


誰もがもう駄目だと思ったその時、ホワイトファングがまるで真横から大砲でも喰らったかのように吹っ飛んでいった。

飛んだ先から一向に起き上がる気配がない、何故かは分からないが死んでいるようだ。

と、そのホワイトファングの傍らに何か黒っぽいものが落ちている。

それが何か気付いてローラが小さく悲鳴を上げた。

ゴブリンの生首だ、それが2つか3つ紐で括られている。

慌てて周囲を見渡しても自分達以外の気配はない。

一体誰が、と考えようとした所でローラが皆を一喝した。


「皆、協力すればこんな魔物なんて大した事無いはずよ、皆で力を合わせましょう!」

「ローラ、なんと優しく、そして勇敢なんだ!よし、皆で魔物をやっつけるぞ!」

「「おぅ!」」


そこからの戦いは一方的だった。

一人ひとりの力は小さくても、力を合わせれば強敵相手でも負ける事はない。

彼らはこれを機に、大きく成長していくのだった。

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