女神の憂鬱(???視点)
「はぁぁ!?」
調査に行った天使の報告で私はひっくり返りそうになった。
念の為確認してくる、と言って出ていった最強の天使が死んだというものだ。
ミカエルがキャラロスト!?
何で!?
彼には反魂のピアスを渡していたはずだからキャラロストなんてありえないはずなんだけどな。
他人に無理矢理外されても効果はそのままのはずだし……
考えたくはないけど一番の可能性は、ピアスのデバフ効果を無しにして暴れたかった、とか。
で、俺TUEEE中にうっかり死んでロスト。
……ありうる。
こいつら頭はそんなに良くない癖に、自分達が最強だと信じて疑わないバカばっかりだから。
バカな事に関してはしょうがない。
この世界は《光と闇〜千年戦争〜》というゲームの舞台だ。
プレイヤーは神として光の勢力を率い、闇の勢力と戦って行く事になる。
元いた世界では一時ダウンロード数ナンバーワンにも輝いたタワーディフェンスゲームだったのだが……幸か不幸か私はそこの主人公ポジ、いわゆる神としてこの世界に転生した。
天使達はいわゆる要所に配置するキャラクター達な訳だけど、タワーディフェンスの常で敵が来たら攻撃→スキル、魔法使用くらいしか戦闘では行わないからか、思考回路まで単純構造の奴が多いのだ。
最初はこのバカさ加減に慣れなくて苦労した……
でも最近はまぁまぁ使い方が分かって来たと思っていたんだけどな。
ゲームとある程度の違いはあるものの、500年以上防衛に成功してきた。
といっても、ウェーブの間隔が数十年に一回だからそんなに数をこなした訳じゃない。
神として転生したから、時間の感覚も人間とは違ってて、500年位なら大した年数にも感じないから、実績としてはどうなんだろう?
いいトコウェーブ総数で30回に行かないくらいの数だし、ゲームだったらまだまだビギナークラスなんだろうな。
そんな中で、今回のターンはナイトメアデイズという日に入ってしまったんだろうと思う。
要するに、闇の勢力の襲撃前に悪い事が一杯起きるターンだ。
ゲームだと城壁が崩れて防衛力が落ちたり、いきなり忠誠度の低い仲間が寝返ったりする。
しかし、この波を乗り切ればしばらく波は来ないので、その間に戦力を立て直す事ができる。
「……で、どうしてこんな事になったのかな、ニコラ?」
私は謁見の間の隅で縮こまっている人間に声を掛けた。
こいつはこの国の現在の大聖堂を取り仕切っている人間だそうだ。
人間は寿命も短いからいちいち覚えていられない。
一応はその時になるべき能力の者が就任しているという事だが……果たしてどうだろうか?
「あ、あの……わ、私は不審な者を捕まえようといたしまして……」
「ふぅん……お前は不審者を捕まえるのにトールハンマーを2回使用して自分の防衛を任されている大聖堂を自ら破壊し、神具を1つぶち壊し、1つは盗まれていたのに気付かず、部下たる聖女を虐殺しようとした、と?しかもその不審者を捕まえるには至っていないようだね?」
「こ、この度の件は私の不徳の致す所であり……」
「……で、神具が盗まれている事に気付いたミカエルが単身で追い、死んでしまったと。」
「……犯人の詳細は分かっていませんが、恐らくそのまま海の向こうの島国に身を潜めたかと」
「何度も言っているけど、この世界にヒノデなんて国は無いの。良い?」
「は、はい!申し訳ありません!」
全く……そんな島ゲームには存在しなかったっての。
無いものを信じて、きっとそこで生きているに違いないと信じ込んでるってのが現実でしょうね。
それにしても、下手人が海に出て行ったというのなら好都合、今頃魚の餌にでもなってる事でしょう。
「ニコラ……何の役にも立たないのね。」
「し、しかし、魔族の斥候と見られる強力な魔物を撃破致しました!あれは、私が、トールハンマーを使う事を強行しなければここまで来ていたかもしれません!」
「私が、を強調しすぎ、見え透いた事を。ではニコラ、お前に確認したい事があるのだけれど、トールハンマーを一発起動するのに一体どれだけのリソースが必要だと思う?」
大聖堂及び教会の役割は、信者からエネルギーを徴収する為のものだ。
人間の生命力に影響を与えないように徴収しているので、殆どの人間は気づいていない。
魔法の使用の際にほんの2割くらい魔力を天引きしてるだけだ。
「そ、それは…」
「分からないだろうから教えてあげる、5年だよ。」
結構なエネルギーを使用するのだ、その分強い。
「そして、報告によると一発目はともかく2発目は完全に余分だったようね。だから罰として、トールハンマー一発分の魔力をお前個人から徴収する。」
「そ、そんな!?そんな事をしたら……」
「心配しなくて良いよ。一度にやろうとしたら流石に死んでしまうからね。『楽園』でゆっくりやってくれれば良い。お前は人間にしては優秀みたいだから、『楽園』でブーストすれば1年程で全信者の1日分は稼げるはず。」
「ら、楽園!?」
「知っているでしょう?何もしなくても貢献できる素晴らしい場所。ただ、魔力の出が良くなるように、死んだりしないようにちょっとお薬を投与したりはするけどね。」
「い、嫌だ……楽園だけは……」
「まぁ気に病む事もないわ、全信者の5年分だから2000年もかからないもの。」
「た、助けて下さい!どんな償いでもしますから!」
「……そうね、償いといえば、君は聖女を30人程駄目にしているらしいね。彼女らが捧げる筈だった人生分の魔力も稼いで貰おうか。あと40年程生きただろうと仮定して、30人分で1200年。さっきのと合計でざっくり3000年いってらっしゃい。言っておくけど、本当はこれでもかなーり緩い罰なんだからね。これ以上何か言ったら……倍になるよ?」
「ヒッ……」
ちょっと睨んでやったら黙って連れて行かれた。
「ハァ……また貴重な戦力が一人……この間の王都で行方知れずになった奴といい、今回の事といい……今年は厄年ね。」
西の教会に調査に出ていた天使が、王都に入ったのを最後に失踪してしまったのだ。
堕天か、殺害されたか……どちらにしろ只者ではない者が関わっているはず。
とりあえず、大聖堂を人間には任せておけない。
暫くの間は適当な天使に面倒を見させる事にしよう。
戦力は低下してしまったけど、まだ余裕はある。
これ以上変な事が起きないと良いのだけれど……
そんな私の思いとは裏腹に、新たな厄介事が起こるのだった。
本編で死亡してから外伝で名前が判明する神教国最強の天使()