傍観者
「…これであなたの狙い通りになった?」
『うん、上々の結果になったよ。』
私の視界の隅では、ボコボコにされたお父さんがお母さんを横抱きにしながら、ロニーさんやクリフと楽しそうに歩いて行くのが見えた。
「それにしてもセイリュウ。お母さんがあんなに危ない事になるなんて聞いてないよ!?」
『あれくらいピンチにならないとあいつらも起きて来なかったのよ。文句は鈍過ぎるあいつらに言って。』
「うぬぬ…ま、結果全員無事だし別に良いわ。」
『ありがとね、我慢してくれて。』
何度も割って入ろうかと思ったけど、その度にセイリュウに窘められて我慢した。
「でも合流しなくていいの?昔の友達なんでしょ?」
『だからこそ、よ。前の私達はいつも一緒にいたから、いつも一緒のものしか目に入らなかった。あの時も、裏で私達を嵌めようとしてる奴がいたはずなのに気づかなかった。彼らが表の敵を蹴散らして、私達はその裏にいる奴を叩く。』
「うーん、難しい事言われてもよく分かんないよ。せっかく強くなったクリフと一緒に戦えると思ったのに!」
『その大切なクリフを守る為にやるのよ。』
「な、何よ!誰もクリフが好きなんて言ってないでしょ!?」
『私は大切な、としか言ってないわ。』
「ぅ〜。そ、それより、これからどうするの?」
『まずは一仕事しましょうか。』
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深夜の某所
ガストン達の住む街よりもはるか北西。
魔族領内のある屋敷に一匹のコウモリが舞い降りた。
少しだけ開いた窓から中に入ると、中に居た男の肩にとまった。
「報告を聞こう。」
「単刀直入に申し上げます。あの街には手を出すべきではありません。」
「ほう…貴様、爵位を持っていながらその軟弱な発言、覚悟をできているのだろうな?」
「勿論できております。何故なら、私はもう死んでますからね。」
「何ぃ!?貴様この期に及んで冗談を申すか!!」
グシャリ
鈍い音が辺りに響いた。
コウモリは男の手で握り潰されてしまった。
「む、それ見たことか。勢い余って握り潰してしまったか。まぁ良いもう少しマシな者に引き継がせるか。」
手をハンカチで念入りに拭くと、部屋を出て行こうとした。
そこに、またコウモリが窓から侵入してきた。
「単刀直入に申し上げます。あの街には手を出すべきではありません。」
さっき潰したコウモリと同じ声で話しだした。
グシャリ
もう一度あの鈍い音が響く。
「おかしい、先程奴は弱っていたとは言え全命で居た。コウモリ化していれば分かるはずだ。」
またコウモリが一羽部屋に侵入してきた。
「単刀直入に申し上げます。あの街には手を出すべきではありません。」
「…貴様、何者だ?」
「かつて魔王ザムディンと結ばれた相互不可侵の密約は破られた。まだあの街に手を出すつもりならば、覚悟して来い。」
「魔王ザムディンだと、そんな名など聞いた事も無い!大方、我ら上級魔族が怖いからそんな妄言を吐くのだろう。貴様らこそ首を洗って待っていろ!」
グシャリ
3度目の音が響く、もう、開いた窓からコウモリが入ってくる様子は無い。
「雑魚が役に立たない事など魔王様に報告するまでも無い。次はより多くの者で一気に攻め落としてやることにしよう。」
暗闇の中で、男は静かに嗤った。
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「流石はセイリュウ、見ただけでヴァンパイアのコピーが作れるのね。」
『そりゃあね、私の能力は分析と創造だからね。という訳で、あっちは喧嘩を買ったみたいだからこの街もそのうち熱くなるよ。』
「大丈夫なの?」
『大丈夫大丈夫。あの三人に勝てる魔族なんてそうそういないよ。』
「私達は?」
『こっちは相手の出方を三人とは違う視点から眺める事にする。全員が同じ方向を向いていても、思わぬ敵が潜んでいた時に対応が遅れてしまう。』
「まぁセイリュウがそうしたいならお任せするわ…それにしても、貴女達って4人で全員なの?」
『そうだけど、どうかしたの?』
「うん、この街に伝わってるおとぎ話で、五英雄ってのがあるんだけど、ちょっと似てるなって思って。」
『どんなお話?』
「うん、この街をいろんな危機から救い出した5人の英雄の話でね、剣、拳、盾、弓、杖の5つの武器をそれぞれ持っている英雄なんだよ。貴女達の武器も結構近いと思うのよねー。まぁ一番重要な剣を持ってる人がいないなら別人なんでしょうけど。それでね、この剣の英雄がとってもカッコいいの!圧倒的な強さで、魔王を倒して、2度と悪さが出来ないように封印しちゃうんだよ!」
『なるほどねぇ……剣の英雄か……そういやあの時はあの司祭、剣を持ってた……』
「どうかしたの?」
『ううん、こっちの話。ところで、そのおとぎ話って教会で聞いたお話?』
「そうだよ、よく分かったね!」
『私の特技は分析だからね!それじゃ帰りを急ごうか、そろそろお母さんが心配してるよ。』
「うんっ!」
少女はどこからともなく箒をとりだし、それに跨ると宙に浮かんだ。
『…私達が本当に警戒すべきだった存在は…やはり奴らだった…もう二度と雁首揃えて封印なんて真似はさせない。』
魔族領の空を猛スピードで進む少女には、最後の呟きは聞き取れなかった。