依頼はゴミ掃除の後で
--セニア--
学園でネルさんと話をして入学試験を受けるための受付と説明を聞いて、おいしく食堂でご飯を食べ、適当に何か依頼を受けようかとギルドにやってきた私たちですが、ブライズとか名乗る成金野郎(20代の青年っぽい)が絡んできた。
で、角っこでその場にいた人に話を聞いて依頼主の違反だから10倍で金をよこせとセコいことを言ってたんだけど私からすると嘘の匂いがぷんぷんする。
「で、そのブライズって、なんなの?」
「なんだと!この俺様のことを知らないのか!?」
3人「しらん」
即答してやった。
だって、どうでも良いんだもん。
母様は言いました。
誇りとナルシーでお腹はふくれません。
うん、まさしくその通りです。
それに、魔物からすれば人間の身分差なんて動物の毛色の違い程度でたいした違いはないし。
「俺様はブライズ侯爵家次期当主だぞ!それに、俺はAランク冒険者だ!」
「だから何?」
「偉いからギルドのルールを無視して金よこせって?」
「貴族のくせにルールを無視して金にがめついとか、ないわー。」
身分とかどうでも良いから言いたい放題な私たちにさすがにギルドのお姉さんたちも顔真っ青。
「貴様ぁ!」
「怒鳴ることしか出来ないわね?」
「っていうか、そんなどうでも良いことは置いといて、なんで10倍にしろとか言ってんの?」
「そんなことだと!?」
「良いからさっさと話せよ。」
イラッとして威圧を強めにはなって黙らせる。
「っ!・・良いだろう。」
顔を青ざめてとりあえず話を聞いた。
聞いてると、依頼主は村長さんで、虫型の魔物が大量発生していたから、どうにかして欲しいという依頼だったらしい。
で、村に入ってこないように大きな柵を作り、魔物もある程度減らしたんだそうな。
まぁ、やることはそれで正しいでしょうね。
で、村長からの報酬金が実際にかかった手間賃よりもずっと安かったのに加え、その魔物は空を飛ぶからその柵は役に立たないと文句を言われたんだとか。
「だから、俺様は悪くない!あんなことを言う輩が悪いのだから実際にかかった手間賃分は最低でももらうのは当然だろう!」
「依頼書には虫型って書いてあったんですよね?魔物の詳細はなくとも。」
「あ、あぁ。」
「なら村長は悪くないでしょ。」
「なんだと!?」
「だって、虫は飛ぶって子供でも知ってることを忘れてただ柵を作っただけとか役に立つはずないじゃん。普通は虫が嫌がる類いのトラップを仕掛けるか、とことん魔物を殲滅するかのどっちかでしょ。」
村を覆い尽くすドーム状の結界を張るとかはそうそう出来るモノじゃないからその辺りが無難でしょう。
「それに、高ランク冒険者向けの依頼だったんでしょ?なのに、飛べば通り越せる柵作って、魔物を多少減らしただけとか職務怠慢でしょ。」
「それに報酬金は、要相談って書いてあるのに加えて、あっちだって生活かかって苦しんだからそんな金貨何枚も出せるほど報酬金が出せるはずないじゃん。そんなに渡す余裕があれば、自分たちでどうにかするための装備とか魔道具を買うでしょ。」
「うぐ・・・うるさいうるさいうるさい!!!平民ごときがこの俺様に指図するな!」
「なら私とリンちゃんは良いよね?」
全員「は?」
おや?
ギルドの人たちも一緒に首をかしげてる。
「ふん!たかが下級貴族が偉そうにするんじゃないぞ!」
「まぁいいけど・・。僕は、レリンス。レリンス・セイクリッド。セイクリッド侯爵家の者だ。」
全員「!?!?」
全員の顔が青くなった。
リンちゃん家は、身分だけで言えばそいつと同じ侯爵だけど、過去と現在の実績を含むと天と地ほどの差があるため、比べものにならない。
むしろ、比べたら不敬罪だとも貴族間では言われてるとかセイさんから聞いたことがある。
なにせ、セイクリッド侯爵家は、全世界にある教会をバックで支える治癒と回復魔法に長けた家系だから、言ってしまえば世界中の協会側の中でも上から数えた方が早いくらいの上位者だから。
後、極々一部しか知られていない極秘情報だけど、セイクリッド侯爵家は、元々初代聖女様がこの地で身を固めたときに出来た一族だから、リンちゃんを含むその家系は聖女の血を受け継ぐ者。
ただ、治癒と回復魔法が得意という言葉では足りないほどすごい家系なんです。
おまけにセイさんは正真正銘聖女の正当後継者だから、リンちゃんはセイクリッド侯爵家の中でもガチの聖女の娘と言うこともあり先祖代々の人たちを並べてもトップクラス。
更に言うと、ユウさんは聖剣の勇者の正当後継者だから潜在能力的なモノで言うと計り知れない。
順番で言うとトップは、初代聖女の聖様
次に正当後継者であるセイさん
そして、次にセイさんの娘であるリンちゃんって感じである。
まぁ、理由の部分である聖女がらみは内緒でも、協会側からセイクリッド侯爵家内のランキングだけは知られているため、影響力もそこらの侯爵家なんてへでもないのである。
「っていうか、僕で驚いてたら死ぬよ?」
「は!?」
「じゃあ、私だねー。元気の良い調子に乗ったご挨拶をありがとうございます♪私は、セニア・クラリティ・エトワールと申します♪」
ニヤリと笑いながら言ってやる。
だって、母様ってば単独で伝説も功績も作りまくってるから名前出すだけでどんな王族でも貴族でも土下座するほどの影響力あるし、おじいさまでもあるイリス様なんてクラリティ王国の元第一王子で、天才王子と名高い人物だからこの人だけでも影響力は計り知れない。
しかも、父様は正義の死神と呼ばれる冒険者の中でも超有名な超火力保持者な人物だ。
一部では、父様を守護神だと崇める地域があるとか小耳に挟んだことがあるほどである。
ついでに言うと、母様の獣魔たちなんて神獣とか幻獣とかがわんさかだし、翠なんて妖精王だから上位精霊並みの存在感だし、”緑の災厄”という、母様並みか下手すれば母様以上に恐怖伝説を作り上げているし。
まぁ、それ以外でもビルドアーティストという絵師の中でも伝説級の人とか、守護メイドとか言われたりしてる人たちが母様専属の侍従だし。
更におまけで言うと、ティーちゃんのお父さんであるラウさんは、第一王子の懐刀とか暗紅騎士とか呼ばれるし、母親であるアリスさんなんて数年間とはいえ、クラリティ王国のギルドマスターを務めたこともある猛者だ。
しかも、噂によると受付嬢となるための試験は、最高得点を取り、彼女が対応した冒険者はほぼ確実に上位ランクに上がることが決定するという都市伝説が生まれるほどの超優秀な人物である。
今は、うちの都の簡易ギルドの管理者になってるけど、これは母様が納める土地というかなり特殊で重要な土地だからこそアリスさんがそこを管理することは彼女の希望も含めて、非常に都合が良かったからのため、クラリティ王国のギルドマスターになることとは違うベクトルで優秀でなければ許されないポジションである。
で、話を戻して。
全員「・・・・」
おぉ、今度は青から白になっていく。
「あ、証拠見る?ほらほら。本物だよ?」
我が家系の儀礼剣を鞘から抜いてしっかりと見えるように上に掲げる。
で、そいつの顔は白からだんだん灰そのものになっていく。
「じゃ・・・じゃあ・・あなた様は・・」
「うん。クテン様と名高いフリージアの娘ですよ。おまけで言うと、母様の父様はこの国の元第一王子イリス様だから。身分は私の勝ちだね?で?どこぞの国の侯爵様が何のようだって?誰が偉いんだって?誰が正しいんだって?ねえねえ?」
「・・・」
「減らず口をいつまでもたたくんなら、二度と戦えないようにしてやっても良いんだぞ?」
いい加減イラッとしたので、嵐の属性によって、風で音を消し、体を軽くし、雷で速度を上げ、体術で相手の死角をついてそいつの背中側に周り、私愛用のバングルを双剣に変えて、首筋と両目を切り落とすように動く。
威圧はもちろん込めてます。
「っ~~~!!」
「お、おい!!たとえ身分がそっちが上だからってやり過ぎだ・・z!!」
「うるせぇんだよ。全員ぐだぐだ言ってねぇで黙って失せろや。」
高ランクがなんだ。
身分がなんだ。
いつまでもぐだぐだぐだぐだうるせぇんだよ。
うるさいのがいるので、とりあえず威圧で黙らせる。
まぁ、失せろと言いつつも逃がす気は一切ないけど。
それからは、全員身も心もずたぼろにしてやりました。
え?
何をしたのかって?
双剣からインファンターグローブに変えて、屑坊ちゃんの両腕の骨を砕き、トンファーで頭を殴って意識を奪い、周囲で無駄にたむろってるおっさんたち30人は、ハンマーに変えてまとめて開いた扉(リンちゃんが空気を読んで開けてくれた)めがけて、全身の骨を砕きながらぶっとばし、
杖を構える後援タイプの連中は、かぎ爪に変えて杖と装備を刻んでそいつらの両足の腱を切り、棍で両腕を砕き
うろたえてる連中を、槍で両肩の腱を切って脚を砕き
逃げようとしてるやつは、弓矢で壁に貼り付けにして両腕両足の腱を切り
他人の振りをしているそいつらの仲間は、鉄扇で両腕の腱を切り、モーニングスターで殴り飛ばす。
ちなみにこれ、全部で10分かかってないです。
だって、こいつら雑魚なんだもん。
ついでに言うと、武器なしでの戦いの集大成でもあるスキル【体術】を私は持ってるわけだけど、私自身ファミリーのみんな以外にも、都人たちにもそれぞれの種族や地域に伝わっている様々な武術を習っているから武器なしでの戦闘パターンも結構多いんだよ?
合気道からカンフー、少林にボクシング(キック含む)、ジークンドー、サバット、CQCとか、一部異世界から伝わったモノも混ざってたり、同じ名前でも地域ごとにやり方が異なってたりと言う感じで武器なしだけで結構な種類を知ってるし覚えてます。
まぁ、そのどれも学んだせいで一通り覚えてるけど、どれがどの武術なのか区別が最終的につかなくなり、きれいに混ざってしまったけどね。
でも、無自覚にそれらのワザのいいとこ取りという感じで習得してるのでもーまんたい。
それとプラスしてありとあらゆる武器での戦法に魔法による遠距離と中距離、近距離のワザもあるし、肉弾戦からそのまま遠距離ワザとなる斬撃を飛ばしたり打撃を飛ばしたり、突貫に波状攻撃という衝撃波を接近戦に混ぜたやり方も混ぜるし、それに魔法も組み込むと更に数は増えます。
なので、戦術だけで言うと母様よりも数は多かったりします。
母様の場合は、魔法を使うという部分に特化しているので肉弾戦による武術系の系統はほとんど牽制程度にしかならないので合気道かそれに類似したモノしか覚えられないし。
母様は基本的に健康そのものだけど、あまり体は強い方ではないらしいし、幼い頃(見た目が幼女なのはスルー)は体が弱かったらしいし。
それもあって、周りは余計に母様に過保護で、その娘である私もその過保護対象として巻き込まれてます。
「私に文句があるならあの程度無傷でさばいてみろよ。まぁ、愚かなことをすれば私が動く前に母様がお前らの国を消滅させに行くから。私が言わなくても今回のことは必ず嗅ぎ付けるからね。」
たぶん、今回の件も報告しなくても母様はそいつの実家をつぶすために動いてると思う。
と言うより、私が報告する頃には事後報告という名の憂さ晴らしの結果を私に言ってくるだけだと思う。
「セニアの言うことは正しいよ。フリージア様の情報収集能力は群を抜いてるし、フリージア様を慕うメンバーもそれぞれの分野ですさまじい。正直さっきのセニアに僕とティアは普通に対抗出来るし、フリージア様率いるあの方々だったら、それぞれが片手間に僕たちをまとめて無力化してたよ。」
全員「・・・・」
「おびえて、その後の将来を待つんだな。」
とどめに、大鎌に変えてその場にいる連中をまとめて切り飛ばすように構え、目つきを鋭くし威圧を放つ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!」
そして、そいつらは全員逃げ帰りました・・・。
と、言いたいところだけど私が全員つぶして物理的に動けないから、偶然やってきた騎士さんに丸投げ。
騎士さんたちは満面の笑みでむしろ任せてくれと言う感じでやる気満々でそいつらを適当に手足とか襟首を無造作につかんで引きずっていきました。
騎士さんたちも身分とかはどうでも良いようです。
俺は貴族だーとか言ってたやつも同じように引きずってるし。
後にそいつらは、家から高そうな装備品すべてを没収してやっすい装備品だけを身につけさせて廃嫡して追放され、そいつらに良いようにされた連中に色々と狙われ、非常にスリルあふれる人生を歩むことになったりするのはここだけの話。
後、ついでとばかりに母様からなぜか白金貨が50枚届きました。
で、伝えられた伝言が。
よく頑張りました、これは、ゴミ掃除のお駄賃です。
だけでした。
どうやら、母様からすれば身分を盾にした傲慢でやりたい放題なダメな人ではなく、慈善活動をした良い子へのご褒美程度だった模様。
私が身分を利用して悪いことを含めてやりたい放題にしたとは全く思ってないようです。
まぁ、あり得ないけど。
今回はあっちが言いたい放題でやりたい放題だったからお仕置き代わりに現実を見せてやったんだけど。
どれだけ、圧力をかけて奪い尽くしたのか疑問ではあるけど深くは気にせずに3人でお金は分けました。
いやー、身分って手軽に相手の心をへし折れるから便利だね。
ちなみにここだけの話だが、その実家もそいつを追い出しただけ・・で、母様の憂さ晴らしが終わるはずもなく、所持金とか資産とかが賠償金という名の母様に対する献上品として捧げられ、黒字から赤字に変えることで見逃してもらえるようになったりする。
そして、その献上品はというと、母様は邪魔で鬱陶しく面倒なモノとしか認識してなかったらしく適当にあちこちに売り払い、そのお金が私たちの手元に届いたお金だったりする。
で
「さぁて、何の依頼を受けようかー」
「そうだねー、依頼を受ける前に全員が土下座してるこの光景をどうにかしないと落ち着かないし依頼は受けられないねー」
全員が、顔を真っ青にして土下座して額を地面にくっつけて全身を震わせてます。
どうやら、私から漏れた殺気の余波に当てられたらしい。
おかしいなぁ?
母様によって威圧とかの耐性はついてるからあの程度は問題ないと思ったんだけど。
「そうだなー・・・・はぁ・・・。セニアが動かなくても僕も正直キレる寸前だったから結果は同じだったんだろうけど。・・・どうしたもんかなぁ。」
「セニアが一言言えば?」
「まぁ、それしかないか。・・セニアよろしく。」
正直土下座されてるだけで視界に入れなければ静かで良いから放置しててもいい気がするけど、リンちゃんが気になるらしいししょうがないねー・・めんどくさっ。
はぁ、とりあえず、令嬢モードで元に戻しますか。
「う~い。・・・全員命令です。さっきのことはなかったことにしていつも通りの対応をしなさい。」
ほんのりと威圧・・と言うか、覇気?を放って命令口調で告げる。
母様から、こういうときは命令した方が手っ取り早いって聞いたから。
全員「かしこまりました!」
おぉ。
母様の言うとおり全員元に戻った。
すげぇ。
「で、ゴミ掃除は終わったのか?」
白髪のおじいちゃんだ。
あ、ギルマスさんか。
って、普通にやってきたけど周囲のメンツが全員土下座してたのは全く気にならないらしい。
「さっき終わりました。通りすがりの騎士さんが後片付けをしてくれるみたいだったので丸投げしましたけど。」
「構わん構わん。むしろ、任せてやった方が騎士連中も喜ぶ。」
適当に手をひらひらさせてそんなことを言うギルマス。
「そう言うものですか?」
「おう。お嬢ちゃんの母親も全く同じことをしてたからな。始末する内容もほぼ同じだ。」
「おぉ、さすが母様。」
私と同じことしてた。
「にしても、軽く見てたがお嬢ちゃんはフリージア様のように扱う武器は多いようだな。むしろ、体を動かして扱う分、あの子よりも強いとも言える。」
あぁ、母様は確かに扱う武器は多いけど、どれも影さん経由だった。
まぁ、やろうと思えば本人も出来るけど。
「母様の場合は、牽制と時間稼ぎでしか動きませんから。逆に私は、体も父様直々に鍛えてもらってるので。」
私の場合は、父様に鍛えてもらったから牽制ではなく、普通に接近戦として扱えます。
身体能力だけで言うと魔力で強化すれば我ながら、結構強いんですよ?
まぁ、基本スピード戦メインだから、一撃の重さよりもヒットアンドアウェイによる手数の多さで相手を仕留めるか、ラウさんに教わった相手の死角から弱点を一撃必殺するかのどっちかだけど。
「父親はたしか、死神だったか?」
「はい。」
魔力を使ったありとあらゆる戦い方は母様から。
肉弾戦による戦い方は父様から教わった。
その他の技術は、獣魔たちやラウさんたちと言った周囲の人たちに教わった。
「やはりそうだったか。さっきのキレ具合に口調まで死神に本当にそっくりだったぞ?」
「そうなんですか?自分のことを客観的に見たことがないのでよくわからなくて。」
「本当にそっくりだ。普段は母親そっくりだがな。その丁寧口調を含めてな」
ギルマスが言うとおり、私はどうやら基本的に顔立ちと雰囲気から性格まで母様そっくりと言われます。
けど、ぶち切れた時は、口調も含めて、雰囲気も父様そっくりに変化するんだそうです。
それは、都にいる人たちの多数が言います。
「それで、どうした?金は余裕があるんだろう?」
もしかして王様であるお兄様たちに換金をお願いした情報がギルマスだからと言うことで聞いてたっぽいです。
「なので、面白そうなのがないかなーと思って見に来ました。」
「つまりは、金のためではなく、経験か面白そうなのを受けたいという個人的欲求のためと。」
「です。」
「ふむ・・確か、お前さんは歌うのが上手かったな?」
「歌は好きですよ?って、アレ?私が歌うのが好きって知ってたんですか?」
「おう。この間外で歌ってただろう?度胸試しがどうとかで」
「しましたよ?」
「ちょうどそのときにその場に居合わせたんだ。きちんと見学料は払ったぞ。」
「あ、それはご丁寧にありがとうございます。」
「普通に上手かったし、感動したからな。おひねりは、どれだけ自分が感動したか見てわかりやすい評価したって証でもあるからな。もらったことに恐縮せずに渡してもらったことを誇りに思った方が良いぞ。」
「はい。」
そっか。
お金をくれるから申し訳ないって思ってたけど、お金をくれたんじゃなくて、それだけすごかったんだって気持ちを表すんだから渡して良かったって思えるように今後も頑張りますって思った方が良いのか。
「それで、なにかあるんです?」
「なんか、気持ちが落ち込みがちだから、思い切り心を揺さぶって欲しいっていろんな意味で面白いのが来てたからな。お前さんの腕前だったらいけるだろう?思わずわしも泣いたしな。感動で、泣いたのは何十年ぶりだ?って思うほどだったしぴったりだと思うぞ。」
「どうしてそんなにそんな人が多いんです?」
「なんか偶然が重なったらしいぞ?理由は人それぞれだが。」
「なるほど・・。私は受けようかなって思うけど、ティーちゃんとリンちゃんは?」
「ん?私は賛成。隣でセニアの歌を聞けて、ついでにお金をもらえるなら一石二鳥。」
「僕も賛成。セニアにだけ働かせる感じで申し訳ないが、初めての依頼でセニアぴったりのがあるならそれは運命だと思った方が面白いし。」
セイさんの娘だからなのか、母様という実績があるからか、リンちゃんの言葉はしっくりくる。
「じゃあ受けます。」
「そうか。って、金はどうでも良いとは言え、報酬額は聞かなくて良いのか?」
「良いですよ?少なからずもらえるわけですし、少なくても多くてもどうでも良いですし。・・父様のお駄賃が思った以上に高かったので・・」
趣味で少なからずお金がもらえるなら一石二鳥ってやつだもんね。
それに、白金貨を何枚も数日で消費するような生活は、逆にどうしたらそんなに減らせるのかこっちが聞きたい。
「あぁ・・・ブツがブツだったしそうもなるか。よし、じゃあわしおすすめだと一言添えておこう。30分後にここに書いてある建物に向かってくれ。そこにこの依頼の関係者が詰め込まれてる。」
「わかりました。じゃあ行ってきま~す」
「おう。途中でわしも聞きに行くから楽しみにしてるぞ。」
「は~い」
で、やってきたのは大きなドームのステージの上。
ここは、クラリティ王国内でも5年ほど前に出来た場所らしく、吟遊詩人がちょこちょこ集まる国のため、路上でやるだけでは、場所が足りず、大規模なモノとなると場所を取り過ぎて別の問題が出てくるため、対策としてこのドームが作られたそうです。
「わざわざ受けて下さりありがとうございます。」
「いえ・・大丈夫です?」
「お気遣い感謝します・・いつものことなのでお気になさらず。」
「は、はい・・」
いやぁ、今依頼主のおじさんと話してるんだけど、誰がどう見ても病人ですって感じで顔は青いし、よろよろしてるしで、見てるこっちが心配になってくる有様。
いや、ホントに何があったの?と言いたくなる。
その人の場合は、苦労を背負い込むタイプに加えて、体調もタイミング悪くよろしくなかったので偶然らしいけど・・。
で、とりあえず私の歌でどうにかなるなら喜んで協力しましょうということで歌いました。
依頼主のおじさんには、シャスティ団子を強制的に食べさせました。(あまりにもよろよろしてたから)
まぁ、会場に集まった人は男女も年齢もバラバラだったけど大半はおじさんおばさん以上の年齢ばかりでした。
どの人も疲弊してるというか、気分がどん底状態というか、色々とどんよりとした空気で満ちあふれてた。
だから、そんなネガティブな気持ちを忘れるようにいろんな歌を歌いました。
心が締め付けられるほど苦しいのにそれでも会いたいと思う切なくも健気な恋の物語
燃えるような恋の物語
死して尚、落ち込む親友を励まそうとする切ない物語
わくわくするような冒険の物語
幼い頃の気持ちを大人になって思い出すような懐かしき物語
会いたくても会えない、それでもその人を思い続ける物語
絶望の淵に立っても決して諦めない勇気ある物語
気持ちも全力で込めましたし、歌も全力で歌いました。
それぞれの物語を明確に、イメージしました。
何もかも全力で歌いました。
夢中で歌い続けたので、ちょっぴりのどがいがいがするけど、薬草茶を飲んだのでしっかり寝れば大丈夫。
我が都の薬草茶は、そういうのにも効果があるので一部では万能薬とか究極の健康アイテムとか呼ばれており戦いに行くときには、薬と薬草茶をセットで用意するパーティもいたりするほどだそうです。
他にも、けが人や病人を治したりする人も自身の魔法以外に調合薬と薬草茶を準備する人も徐々に増えているとか聞いてます。
で、心はとても晴れやかで、すごくすっきりした気持ちでいっぱいです。
最初の頃は、心の半分は場の空気のどんよりに流されて歌の気持ちとどんよりの気持ちで半々という感じだったけど最後には歌に対する気持ちに振り回されたおかげなのか、良い気分転換になれたようです。
なので、最後のシメに懐かしくも穏やかな気持ちになれる歌を歌って穏やかな感じで終わりました。
大好評でした。
まさしく大喝采という感じで、ものすごく大きな拍手をもらいました。
「いやぁ、本当にありがとうございました。おかげで私も生まれ変わったかのように感じるほどですよ!」
あのよろよろな病弱雰囲気のおじさんがなんか、悟りを開いたかのような穏やかな顔になってました。
「いえ。体調が優れないようですので私の故郷の薬草茶、飲んで下さい。」
一応、お茶っ葉の一袋をプレゼントしました。
いっぱいあります。
私のマジックバッグだけでキロ単位どころかトン単位であります。
むしろ、お茶っ葉だけ詰めたマジックバッグを私のマジックバッグに直してる有様です。
あ、お茶っ葉用だから私のよりも半分以下の容量しか納まんないよ?
ちなみに、一袋で1人で1ヶ月分くらいはある量です。
「これは・・ありがたくちょうだいいたします。」
どうやら、どこ産なのかわかったようです。
「お疲れさん。ものすごく大好評だったぞ。わしも楽しませてもらった。ほれ、報酬だ。」
まさかの金貨12枚と銀貨が372枚、銅貨が749枚でした。
「・・多くないです?」
おひねりって言うのは、1人で大体銅貨数枚だって聞いたんだけど?
だから、多くても銀貨数枚かと思ってたんだけど?
「どうも、依頼主だけで金貨を数枚だったそうだが、あの場にいた全員が嬉々として報酬の上乗せとしておひねり代わりに結構な額を出したらしくてな。ついでに言うと、途中見学も参加だったからな、立ち聞きでも聞いてた連中もおひねりを放り込んだ結果がそれだ。最後辺りは、あの場は隙間たる隙間にみっちみちに人が詰まってたぞ。」
思った以上に大好評だったらしい。
「それと、お前さん。二つ名が決まったぞ。」
私たち「え?」
「ちなみにどんな?」
「うむ。流転の歌姫だ。」
「流転の歌姫?」
「歌姫はわかるけど、流転はなぜ?」
「戦術がその場その場で変わることもそうだが、お主の歌でありとあらゆる連中が様々な気持ちになってしまうことから、そう言う名前になったようだ。かっこいいと思うぞ。」
「セニアらしい良い名前だと思う。」
「けど、正式にその名前になるかわからないんじゃ?」
「とりあえずギルドカード見たら?」
「だね」
えぇっと・・?
名前:セニア・クラリティ・エトワール
ランク:F(二つ名=流転の歌姫)
パーティ:ハリーファ
性別:♀
年齢:10
種族:聖狐族
身分:エトワール公爵家令嬢、癒しの都”ルナール”領主の娘
職業:魔戦士
副業:歌手
おぉ。
「その二つ名で決定したっぽいです。」
ついでに、副業として正式に歌を歌う人として認識されたっぽい。
「よかったな。人によっては微妙どころか頭を抱えたくなるようなひどいのをつけられることもあるからな。」
「あぁ・・」
しぶとく怪我をしてもボコられても立ち上がり、立ち向かうところからゾンビとかアンデッドマンとか言われた人も過去にいたらしい。
「とりあえずお疲れさん。」
「はぁい。」
さて、翠は大丈夫っていうけど入試で恥をかかないためにも勉強と母様の娘としてふさわしくあるために訓練もしないとね。
あ、冒険者としての依頼は趣味だよ?
遊びの反中です。
楽しくお金稼ぎして、経験も積める非常に都合のいい場所です。
ちなみに作者イメージの歌は、下記です。
Stary Star
魂の語りに導かれて
他はなんとなくなので、イメージなしです。