表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/49

「姫様のお相手は、萌黄郷の当主の弟君だとさ」


 由ノ進に打ち明けてからも、ユキの頭はあの神秘的な瞳のことでいっぱいだった。頭の中から追い払おうとしても、姫君の話題でもちきりの郷守連中の中にいては、どだい無理な話である。


 萌黄郷は、夕月郷と川を挟んで反対側にある同盟郷である。夕月郷には同盟郷が複数あるが、その中でも最も結びつきの強い郷が萌黄郷だ。それには萌黄郷の成り立ちが大きく関わっている。


 その昔、月守家当主四代目の治世、“郷の花” を狙う不届き者が現れた。その者は自らを「黒夜叉」と名乗り、郷を枯らして夕月郷の領地を奪おうとしたが、当時の刀守随一の剣豪によって討たれた。


 その戦いで功績を収めた刀守に褒美として川向こうの領地を分け、その地を萌黄郷と名付けた。さらに、この時助けられた姫と刀守が結婚し、冬守(とうもり)という名を与えられた。これが萌黄郷当主、冬守家の始まりとされている。


冬守(とうもり)の若ってことは、年の頃は確か姫様より五つほど上だったはずだ」

「あそこは祖が刀守だからな、武芸に秀でたお方だろうな」

「それなら、我らが姫様のお相手として申し分ないな!」

 見ず知らずの未来の婿君を、あれやこれやと好き勝手言い放題だ。相も変わらず、鍛錬よりおしゃべりに熱心な郷守たちである。


「まったく、あいつら何をやってるんだか。おいユキ、打ち込みやるぞ」

 珍しく稽古に熱心な平七と共に、ユキも頭の中を真っ白にすべく竹刀を振るう。何故か平七は、結構面倒見が良く、武術の心得がないユキに対し手取り足取り教えてくれる。平七が屋敷の外の見回り番でいない時は、由ノ進が剣術を指南してくれた。その甲斐あって、郷守になりたての頃と比べると、ユキの腕前はずいぶん上達した。

「アニキ、おいらやっぱり弓より剣の方が好きだな」

「けっ、すこうし腕が立つようになったからって調子に乗るなよ」


 鍛錬と、見回りと、時々おしゃべり。小さな村で家族と暮らしていた頃に比べると、ユキの日常は随分変わってしまったが、気の良い兄貴分たちに囲まれたこの生活を、ユキはそれなりに気に入っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ