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1‐3

「開けてくれ!!!おい!!!頼む!!!!」


 刑事を相談所から追い出してから大体ざっくり二時間後、女児失踪のニュースをラジオでぼんやりと聞いていた私の耳に絶叫とも助けを求める声ともとれる声が飛び込んできた。とんでもないスピードで扉をノックしているがこれ扉壊れないだろうか。

 ちっ、刑事め…ドアの前から三十分前にはいなくなったと思ったのに。まだいたのか。一時間前ぐらいに音が聞こえなくなったと思ってドアスコープから外覗いたらアイツの赤紫色の目がこっちをじぃーっとのぞき込んでて心臓吐き出すかと思ったわ。マジアイツ許さん。もうあれ完全ホラーだよ。たしかそういう怖い話あったよね?


「本当に!!!頼む!!相談所なんだろう!!金だったらいくらでもだす!!!僕を助けてくれ!!!」


 え、お金?いくらでも…?いやいや、これはあの刑事かもしれない男で…いや、でももしかしたら違うのかもしれない。あの刑事がお金をいくらでもくれるなんていってくれるいい人だとはとても思えない。よし、もう一度勇気を出してドアスコープを覗いてみよう!おめめがないことを信じて!


「頼む!!早く!!!」


 ドアスコープの向こう側ではブロンドの髪をオールバックにした端正な顔立ちの青年が真っ青な顔をしながら扉をドンドンと叩いていた。

 …これは恐らく刑事とは別人ではないだろうか?あいつがズラを持ち歩いているとは思えないし、それに持ってたとしても一回目で使ってるだろう。別に高そうなスーツを着てるからそう信じたいというわけではない。


「どう、


 ガチャ!!!バタン!!!ガチャッ!!!


 私が鍵を開けた瞬間、青年はすごい勢いで扉を開けて部屋に入ってきた。そしてすごい勢いで扉をしめて鍵をしめた。

 え、大丈夫だよね?これで刑事だったら私助け呼べなくない?


「えっと…

「助かった…!感謝する…!!!本当に、本当に…」


 青年はそのままバタンと気絶した。…気絶した。

 …え、いやこれどうすればいいの?マジで困る。なんとなく直接肌にふれるのは嫌なので爽やかな色をした薄い水色のジャケットの袖をつんつんと引っ張る。…反応はない。仕方ないので改めて男を観察してみる。

 ジャケットとお揃いの色のズボンにベスト、ネクタイはオリーブ色、靴はピカピカで時計もかなりいいものだろうし体からは仄かに白檀の香りが漂ってくる。なにからなにまでお洒落に気を使ってることが明らかにわかるし、どれもこれもかなり高価なものだろう。これが普通だったらかなり嫌味な感じになるのだろうが、この男のまるで人形のように一寸の狂いもない整った顔がそれを許さない。あの刑事もだいぶ整った顔をしているが、傾向の違う感じで…なんというかこちらは油断のない顔立ちをしている。

 というか、全身でエリートを主張する男がこんなこのいかにも怪しげなオカルト相談所になんの用だろう。…右目に眼帯つけてるし、なんか彼の中の中学二年生が目覚めちゃったりしたのかな?さっきは助けてくれとかいってたし、そこから考えるとなにかから逃げてたって考えるのが妥当だとおもうけどなぁ…と思いつつドアを開けてみても外にはなにもいない。さっき青年が逃げてきたときにもなにかが後ろにいるような気配もなにもなく、青年以外で相談所の家の前の道を歩いている人たちは特に焦っている様子も青年の後ろにいるものに関して反応する様子はなかった。しいて言えば尋常でない怯え方をしている青年に怯えているという感じだった。

 …まぁ、うだうだ考えていてもよくわからないし、とりあえず彼が目をさますまでなんか他のことしてよう。



  *  *  *  *

 


「なんて汚いんだ…!」


 遠くで誰かがキレている声が聞こえる…。なんかあったのかな…。大変そうだけど頑張って…。逆切れだったら知らん…。


「君もさっさと起きて手伝え。」

「ぎゃっ!!!」


 頬にとんでもない衝撃を感じて急激に脳が覚めてく。いつの間に寝てたのか私。どうやら、カラスの残した怪しげな本たちを読んでいるうちに眠ってしまっていたらしい。部屋に知らん男がいたのによく寝られたな私。これで刑事だったらどうするつもりだったんだ。

 …というか、私今平手打ちされてなかったか?されたよね?だってめっちゃ頬じんじんするもん。めっちゃ痛い。なんなんだこいつ許せねぇ。


「なんなんですか!!」

「それはこちらが聞きたい。この部屋の汚さはなんなんだ。」


 こちらをちらりとも見ずに男はパタパタと何かを振っている。…はたき?よくよく見るとどうやらこいつはこの相談室を勝手に掃除しているらしい。…どういうこっちゃね!?というかかなり片付いてないか?ちゃんと地面が見えるし、本がちゃんと本棚にあって書類もきちんとまとめられている。これはすごい…!いやいやいや待て待て待て。感動してる場合じゃない。


「なに勝手に掃除してるんですか!!」

「汚いのがいけない。」

 

 まぁ、たしかに…いやそうじゃないだろ!!!汚いからって勝手にそうじするってどんな理論だよ!そんなことしてエロ本とか見つけちゃったら気まずいだろ!持ってないけどさ!

 さりげなくベッドの方に移動してベッドの下のブツがまだ見つかっていなかったことを確認し落ち着いたあとに、相変わらず掃除をしている青年の方に向き直る。


「…で、ご依頼は?なにかから逃げてたみたいですけど。」

「…それは…


 そういうと青年は一度本棚をはたくのをやめて視線を床にそらした。そしてさらりと自らのオールバックの髪を撫でるとゆっくりと口を開いた。


「信じてくれるかわからないのだが…僕は…幽霊を見ることができる。」


 そういって青年は彼の黒い瞳をこちらへ向けた。


「…信じますよ。」


 なんたってここはオカルト相談室だ。そういった類のことを信じなくてどうする。それに…あんまり嘘だとは思えない。

 というか、依頼があってよかったという思いが強すぎて信じる信じないのレベルじゃない。最悪依頼とかなくてただ逃げるための手段として使われたのかと思ってたし。


「…こういう嘘をつく輩、よくいるんじゃないのか。」

「いますね。」


 私もカラスの依頼についていったとき何人か会った。依頼者の中にもそういうやつはいたし、まぁ大体そういうヤツの言葉を信じると痛い目にあった。この世界には魔法使いは少数ではあるがいるし存在も認められているが、幽霊の存在は認められていないしそれを感知する霊感の持ち主も当然認められていない。特にカラスなどのような霊能力者といった類の人間は本当に稀だ。しかも、数が少なく国による正式な調査が行われていないため偽りやすいと思われるのか霊能力者を名乗る偽霊能力者や自称霊感の持ち主は多く、なかなか信じられる言葉ではない。私も普通だったら信じない。あともう少し私の困窮度が低いか、もう一つの要因がなければ信じずにトラブルに巻き込まれたくないと追い返しただろう。

 

「だったらなぜ?もっと…本当に見えているのか試したりした方がいいんじゃないのか?」

「…黒い目です。」


 そう、彼の瞳は黒なのだ。右目は眼帯によって隠れており色はわからないが、彼の左目は間違いなく黒色をしている。彼の金髪にはかなり浮く黒色の瞳。この世界で瞳や髪の色が黒なのはかなり珍しい。そして、私はこの世界で黒い髪か瞳を持つ人間を一人しか見たことがない。そしてその人間は間違いなく本物の霊能力者で、私はその人以外に本物を見たことがない。


「先代であるカラス先生は黒髪と黒目の持ち主でした。そして…あなたは黒い瞳を持っている。たぶん…本当なんじゃないかと。」

「それだけの理由で?」

「はい。」


 はたから見たらそれだけの理由かもしれない。でも私にとってはかなり大きな理由になる。それに先ほど慌て具合もなにか私には見えないものに追われていたと考えれば納得できる。彼が逃げこんできたときの彼のあの恐怖は決して演技ではなかった。


「で、

「…僕の名前はデミアン…デミアン・ミーティアだ。よろしく。」

「あっ、はい…。」


 依頼を聞こうとした私の言葉を遮って自己紹介をされた。あ、これ私も名乗った方がいいやつ?そういえば、家とか勝手に掃除するレベルの仲良しさん(笑)なのにお互いの名前知らなかったね。


「私はカヤコ・ヤタです。」


 ヤタというのは私の本当の苗字ではないが、現在カラスの親戚のカヤコさんの娘さんのカヤコさんという設定でやっているのでカラスの苗字を使わせてもらっている。ちなみに私の本当の苗字は佐藤だ。地味。


「それで、依頼の内容は…?」


 まだコイツに霊感があることと名前しかよくわかってないんだけど。もしかして「霊感があるんだけど…」ってことを自慢しにきただけだったりする?それだったらもう真偽は関係なく、強制的に偽物扱いすることになるけどそれでいいかな?


「今、僕の周りに付きまとっている幽霊をどうにかして欲しい。」

「え、でも…」

「たしかに見るのは慣れてないけど慣れてる。でも、今回は実害があってだな…。」

「実害…。」


 見えるだけでも普通の人にとってはだいぶ実害だろうが…こういうということはそういうレベルではないのだろう。なるほど、これは私たちの…いや私の出番かもしれない。


「詳しく話していただけ


 ぐぅー


「…ますか?」

「…腹が減っているのか?」


 これは恥ずかしい。誤魔化そうとしたにも関わらず、聞かなかったことにしてくれないとはコイツ性格が悪い。


「キッチンはあそこだな?先ほど助けてもらったお礼になにか作ろう。依頼内容は食べながら話す。」


 青年…えっとミーなんちゃらさんは私の答えを聞くことなく、さっさとキッチンへと入っていった。

 こいつ掃除のあとはキッチンとは。なんと図々しい。でも、正直なにか作ってもらうのはありがたい。最近まともなものを少しも食べていないのだ。なんてたって私はまともな料理がつくれない。あっちの世界ではごはん炊いたりインスタントみそ汁つくったりマーボー豆腐つくるぐらいはできたが、こっちにはインスタント食品も食材のもとみたいなやつもなにもないので食事に関してはかなり絶望的なのだ。そしてそもそもお金がないからなにも食材が買えない。ちなみに昨日と今日はなにも食べてないし、一昨昨日はパン屋さんに無料で分けてもらったパンの耳を食べただけだ。…ん?なんか今大事なことを思い出したような…。


「ない。」

「どうしました?」


 ミーなんちゃらさんは眉を顰めて冷蔵庫…まぁ正確にいうと冷蔵庫じゃなくて魔法で動く云々なんだけど…の前に立ち尽くしていた。もうあの人の名前ミーちゃんとかでいいかな?猫みたいでいい気がする。あの人の名前長くてよく覚えられない。なんで外国の人ってみんな名前長いんだろ。

「…食材がない。」

「…あー。」


 そっかーそうだよなー食材ないからこの二日間私なにも食べてないんだった―…。そして一昨昨日はパンの耳食べてたんだった。


「ちょっと私、貧乏でしてねー…。」


 まぁ、ちょっとどころじゃないけど。家賃払えなくて困ってるけど。食事ないけど。ちなみにお風呂も…おっとなんでもない。町はずれの森の中にある川に二日に一回ぐらいのペースでダイブしてるから許して欲しいとだけいっておく。

 

「みればわかるが…。」


 そういってミーちゃんは私の姿をジロジロと見た。キャッ!照れる!

 …まぁ、正直このいかにもボンボンな感じの青年からすれば貧乏の権化レベルの見た目を私はしているだろう。適当に結ばれたぼさぼさの髪にまさかの真っ赤なジャージ。だって楽だから…。この世界にジャージがあって本当によかったと思う。


「…わかった。食品も僕が調達しよう。」


 なんだろう、すごい哀れみの目を向けられた気がする。すごい敗北感。でもおごってくれるんだったらなんでもいい。それぐらいに私は腹ペコだ。きっとこのままだと私は道端のウシガエルとかを食べ始めてしまう。うげぇ、嫌なこと妄想しちゃった。

 そんなことを思っていると、ミーちゃんはスマホを取り出した。…スマホ!!?


「え、それ、えっと…

「どうした?買わない方がいいのか?」

「や、あの…それって…?」

「タブレット端末だが?」


 そういって再びミーちゃんは私に「貧乏人が…。」みたいな哀れみの目を向けた後にスマホに目線を戻した。

 ほ、ほえー…。開発されてんだ…。私があっちの世界に戻ってる二十うん年の間に…。まぁ、どうせ魔法の力を借りたエセ科学の産物だろうけど。前からなんとなく思ってたけどさ、私みたいにあっちの世界からこの世界に召喚されてる人って一定数いると思うんだよね。そうじゃなきゃ似たようなものは開発されてもここまでフォルムが同じものはできないだろう。もしかしたら利便性を追求した形がこのタブレットのフォルムだとか冷蔵庫のフォルムとかなのかもだけど。


「なにを買えばいい?」

「お任せで。」


 もう食べられればそれでいいよという境地だ。でもドレッシングは嫌なのでやめてほしい。あと、最近葉っぱ系は山に生えてたやつとか食べてたので葉っぱ系というか主に山菜系はちょっとやめて欲しい。


「…面倒になってきたし、君も早く食べたいだろうから…デリバリーでいいか?」

「いいですよ。」


 デリバリーとかあったんだと思いつつ、私は首を全力で縦にふる。マジでなんでもいいから早く食べたい。そろそろ気絶する気がする。


「じゃあ、パス

「ごはんとステーキにしましょう。」

「…わかった。」


 日本人なら黙って米だ。正直米が食べたくてしょうがない。さっきはなんでもいいとかいったけど、いざとなるとやっぱ米と肉だ。小麦の塊なんか食ってられるか!!…パスタ好きだけどさ。




  *  *  *  *




 その後、私たちは相談スペースという他のスペースから区切られたソファと机があるところで、届いたステーキとご飯をムシャムシャと食した。午後六時半というちょっと早めの夕食となったがまぁいいだろう。ミーちゃんは綺麗な食べ方をしていたがやたらゆっくり食べるのでなんなんだこいつと思った。お前はフランス人なのか!!?

 もちろん、私たちは食事だけでなく依頼内容についてもがっつり話した。久しぶりの食事がおいしすぎてあんま聞いてなかったとかは別にない。あんまりない。


「それにしても周りの人間バタバタと倒れて自分もなんか幽霊に襲われるって…大変ですね。」

 

 まぁ、ざっくり彼の依頼はさきほど彼が言った通り今彼に付きまとっている幽霊をどうにかして欲しいということだった。それで私が欲しかった彼のいう『実害』の内容なのだが、周りの人が原因不明のなにかでバタバタ倒れてしかも彼もなんかヤバそうとからしい。そのヤバそうな理由というのも、現在彼につきまとっている幽霊ちゃん(仮)はこれまで倒れた人が倒れる前に必ず背中にひっつけてたものらしいのだ。で、昨日ついに彼の周りの席の人が全員倒れ次は自分疑惑と幽霊こっちガン見してるから絶対自分じゃん疑惑を感じたためそういった類のことを相談できるような所を探していたらしい。そしたら、前回の人が倒れてからこれまで距離をおいて自分を見ていたはずの幽霊がいきなり距離をつめて襲ってきたため慌ててたまたま近くにあったここに逃げ込んだらしい。こわっ!


「大変なんてもんじゃない…。さっきはもう死ぬかと思った…。」


 かわいそうに。追いかけまわされてここに…ん?待て待て、まさか幽霊をつれこんでないよね?私が次に倒れる人じゃないよね?


「えっと、幽霊って…?まさかここには…」

「ここにはなにもいないし、僕にくっついているアレもここには入ってこれないらしい。…わざとそうしているわけじゃなかったのか?」

「えっ、まぁ…そんな感じですね…。」


 そうだったのか!!ここ、幽霊とか入れないようになってんのか!!道理でカラスに変なところとか連れまわされてもここでだけはなにも起こらないと思ったわ!便利!!


「待ってください。つまり今ここでドア開けたら、玄関開けたら幽霊登場とかになるってことですか!?」

「たぶん大丈夫だろう。デリバリーのときにはもういなかった。」


 もしかして、あの時私にデリバリー受け取らせたのって幽霊さんいる可能性を考慮して生贄に差し出してた感じ?こいつ…。


「さっきから気になっていたんだが…君はもしかしてアイツらのことを見えてないのか?」

「えっ、エート…


 見えてないよ!見えてたらもっと前から仕事あったよ!!いや、でも正直にいうわけには…


「ほら、あそこにすすり泣く女の霊が…


 そういってミーちゃんは私の背後を指さし…


「ぎえええええええええっ!!!お許しを!!!南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏!!!」


 ミーちゃんを盾にしつつ狂ったようにお経を唱える。

 成仏してくれ!!!頼む!!私はなにも悪いことをしていない!!!


「…やっぱり見えてないんだな。」

「見えてますよ!!あそこに恨めしそうに私を睨む女の霊が…!!!」

「いない。」

「…はい?」

「そんなものは最初からいない。…さっきいっただろう。ここにはなにもいないし、入れないようだ…と。」


 …あーそんなこといってたねー…。すっかり忘れてたよ…。つまり、今のはがっつり嘘だったわけで…。これはもしかして、無職リターンズのフラグ?


「見えないのだったらこれを解決するのは難しいだろう。…じゃあ、今日は世話になった。」

「え、なに依頼はしないみたいな流れになってるんですか?さっきの話を聞いた時点でもう依頼したことになってますよ金請求しますよ。」


 ニガサナイ…ニガサナイゾ…今の私の依頼への執着心は幽霊の現世への執着以上だ。もう一回ここにきたからには逃がさない。というか仕事はしなくても金だけはもらう。


「は?なにいってるんだ君。食事をおごったんだからもう十分だろう。…おい、なにジャケット掴んでるんだ!」


 私にはコイツのスーツのジャケットを離さない強い意志がある。


「金出してくれるんだったら永遠とここにいてもいいですから!!ね!!!行かないでください!!ここにいれば安泰でしょう!!幽霊きませんよ!!?」

「こんなところに永遠に引きこもってたまるか!はなせ!この馬鹿!」


 ミーちゃんの怒号とともに目の前にお星さまが散り、それと同時に脳天に凄まじい痛みが走った。


「いっつー…!!!!」

「…警察を呼ばれなかっただけありがたいと思え。じゃあな。」


 私が掴んでいたことになってしわくちゃになったジャケットを軽く撫でつつ、ミーちゃんは玄関に向かっていく。…どうやら私はミーちゃんに頭をぶん殴られたらしい。くそっ!あいつ!!もうミーちゃんなんて呼んでやらねぇ!!アイツはただの馬鹿野郎だ!!訴えてやる!!警察!…警察…。どうせあいつが来て私が逮捕されるんだろうな…。


「ぎゃあああああああ!!!!!!!!!」


 玄関を開けて出ていく馬鹿野郎を恨めし気にみていると、馬鹿野郎は突然叫んで倒れた。…倒れた!!!?


「だ、大丈夫ですか!!?」


 慌てて玄関の開きかけた扉に挟まっている馬鹿野郎に駆け寄ると、馬鹿野郎は白目を剥いてぶっ倒れていた。…息は…ある。どうやらただ気絶しただけら…


「jw;;っびあああああああ!!!!みつ…みつ…みつ…わわwjhぶwkldjj;!!!}


 私の目の前には血まみれの女がいた。目は瞳孔とか関係なくすべて真っ白で髪は血まみれでもはや色の判別はつかない。そんな彼女はわけのわからないことを叫びながらこちらを睨みつけている。これは…これは幽霊だ…。カラスと一緒に色々やっていたときにも何回か見たことがある…。強い霊感を持つ人間と長時間ともにいたり幽霊の思いが強い場合、私のような一般人にも見えることがある…とカラスはいっていた。これは…どちらなのかよくわからないが…


「ぎええええええええええええええ!!!!!!!!」


 とりあえず足元にあった盛り塩をふりかけてみたが逃げる様子もなにもない。えっ、普通幽霊塩効くじゃん!?カラスも効くっていってたし、これまで効力実感し続けてきたよ!!?この人普通の幽霊じゃないの!!?パニックになり、ドアを必死に閉じようとするがまったくもってドアは閉まらない。なぜだ!!?どうしてだ!!なぜなんだ!!!?


「…いたい!!…はっ、僕は…!…ぎゃあああああああああああ!!!!!おばけえええええ!!!」


 足元でなにかが起き上がったと思ったらとてつもない大音量を発したあと、再びもとの定位置に戻った。よかった!!なにが!!?よくわからん!!つーか足元のこれなに!?なんでドアしまらないの?馬鹿!!…そうだ馬鹿野郎だ!!馬鹿野郎がいるせいでしまらないんだ!!外にほっぽりだそう!!ちょうど目の前の幽霊さんも馬鹿野郎の足をひっぱって協力しようとしてくれている!!優しい!!えっ!!?


「ひええええええええええ!!!!」


 私はもうわけもわからないまま馬鹿野郎の腕を引っ張ってなんとかこちら側にいれたあと、バタンと扉を閉じて鍵も閉めた。幽霊さんの抵抗も色々あった気がするけど火事場の馬鹿力というやつだ。もうなんか幽霊さんも叫んでたし私も叫んでたしもうカオスだった。


「はぁ…はぁ…はぁ……。」


 …こえー幽霊こえー…。こんな仕事してたくねー…。なんでこの仕事選んだんだ私…。パン屋とかしたかったよ…。そういえば権三郎も将来の夢はケーキ屋だっていってたな…。私パン屋なんかやめてケーキ屋はじめるわ…。



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