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「家賃払えこの馬鹿!!!」


 ドスドスと今日も今日とて目覚ましがうるさい。目覚ましことデイナさんには早く帰ってもらいたいので、魔法の言葉を今日も今日とて投げかけようと思う。


「今度払います!!!」

「それ何回目だ!!!」


 わかんない。結構言ってる気がする。だって仕方ないじゃないか、一応オカルト相談所をカラスの跡をついで開いてみたものの全く客こないし。

 まぁ、普通に考えて見ればそりゃそうんだけどね。だってそもそも私にはカラスと違って霊能力もなにもないし、そもそも店主(私)の存在がオカルトだし。二十年以上前から見た目が変わってないオカルト野郎のとこになんかオカルト相談したくないよね、わかるー。そんなんだから私いつ魔物裁判にかけられてもおかしくないし。カヤコの娘のカヤコですっていう適当な嘘でなんとか逃れてきてるけど、周りには全く信用されてないし娘に自分と同じ名前つけるとかカヤコ(私)のカヤコお母さん(私)アホ過ぎって話だよね。適当に偽名名乗ればよかったクソウ。魔物裁判なんて制度の存在すっかり忘れてたわクソウ。


 ちなみに魔物裁判というのは中世ヨーロッパの魔女裁判みたいなものだ。でも、この世界では魔女も魔法使いも認められているので、裁かれるのは人間のふりをした魔物だ。魔物は不老でしかも異常なほどの長寿で、ほぼ確で魔法も使えて、さらに高確率で運動神経も抜群なチートな存在だ。これでなんの問題もなかったら人間も万々歳で受け入れるかもだが、デカすぎる問題が一つある。こいつら、人間を食うのだ。主食:人間。しかも高確率で食う前に人間を異常なまでにいたぶる。とんでもねぇドSで人喰い、こんな性癖人間世界ではなかなか受け入れられるわけない。いくら人間に化けられて大体全員とんでもない美形だとしても本性は化け物。ドSで人喰いな美人なお姉さんだったらオッケーな人もいるかもだが、さすがに化け物でドSで人喰いは設定を盛りすぎだし受け入れられる人は少ないだろう。ということで、魔物はこの世界では基本的に人間の敵、ゆえに魔物裁判というものが存在する。ま、魔物は知能が高いやつらばかりだからボロを出すやつなんてめったにいないし、もし本物だとしても裁判の途中で化け物姿に戻られて虐殺&逃亡という事態にになることの方が多いから、本当に魔物裁判で処分されてるのは人間なんだろうなぁと思う。そして私はその制度の被害者にいつなってもおかしくない恐怖。

 ま、それよりも前に今の私はこの妖怪デイナババアのドアドン攻撃をどうにかしないとなんだけどね。


「今日は相談者くるみたいな話あるんでー!帰ってくださいー!!」

「今度こそ本当だろうねぇ!!?嘘だったら許さないからね!!」


 その声とともにドスドスと人間が歩いているとは思えない足音が遠のいていった。…どうやら、デイナは帰ってくれたらしい。


 先ほどデイナへの言葉は当然真っ赤な嘘であるわけだが…あの二回目召喚から私はなんとか生活してきたが今現在本当に困っている。魔物裁判云々もめちゃくちゃ困ってるし、金もないし、家賃も払えないし、デイナばあさんもうるさいし、カラスもいない。前回は…カラスの力があったからなんとか元の世界へ戻るという希望を持ち続けられたし、実際に…帰れた。だけど今回はいないから収入源も帰る希望もなにもない。いるのは時々私のこの相談所を荒らそうとやってくる鳥の方のカラスぐらいしかいない。


「どーしよっかな…。デイナの家に強盗でもしてみようかなー…。」


 結構いい案かもしれない。実行する勇気はないけど。


 くだらないことを考えていると、こんこんと控えめに相談所のドアを叩く音が鳴った。

 おっ、これは…もしや相談者!!?特に私なにか解決できるとは思えないけど!!まぁ、いい!!金づるひゃっほい!

 うっきうきで覗き穴をのぞき込むと、ドアの前にはニット帽を深くかぶり大ぶりの色付き眼鏡をつけたかなり大柄な青年がいた。

 一応、警戒のためにチェーンをつけたまま鍵をあけてドアを開くと囁くような声で青年が話し始めた。


「あの…相談したいことがあるんですけど…。」

「そうぞ!入ってください!!」


 明らかに怪しい見た目だけど関係ない!相談者だったらもうなんでもいい!!金!!金!!いやぁ、金が金を背負って歩いてきたなぁ!!私のことを魔女だとずっと疑ってるあの馬鹿でかい刑事さんじゃなくてよかった!いつも勝手に入ってくるから迷惑だし怖いんだよアイツ!!

 チェーンを外して満面の笑みで迎え入れると、青年は安心したように口元に笑みを浮かべつつゆったりとした動作で部屋に入ってきた。


「ちょっとコーヒーとってくるんで!ごゆっくり!!」

「だいじょうぶだよ。」

「遠慮なんかなさらないでくださいよぉ!!」

「してないよ。君が自らここにいれてくれただけで僕はうれしいんだぁ。」


 ん?この声は…!?


「久しぶり!魔物さん!」


 後ろを振り向くと、ヤツが投げたであろう帽子と色つき眼鏡が顔面にダイレクトアタックしてきた。


「ヒィ!!でたぁ!!!」


 さりげなく痛かった眼鏡と帽子を振り払いつつ、招かれざる客に向き合う。

 最初から怪しいと思っていたんだ!!!別に依頼者とか本気で思ってたわけない!!ない!!!…期待してたんだけどな…。


「うれしいなぁ。君が自分で僕のことをお家にいれてくれるなんて!これって自分が魔物だって認めたってことだよね!」


 赤紫蘇みたいな色をした瞳をキラキラとさせつつ刑事は幼い少年がするようにぴょこぴょこと飛び跳ねる。本当の少年がやったら可愛いのだろうが、この身長190センチ余裕でオーバーな見た目の大の男がやったところでなに一つ可愛くない。むしろ狂気じみてるし、家が壊れないか大変心配だ。


「今日こそ君を逮捕して処刑しちゃうからねぇ。」

「証拠をみせてください!証拠!!」

「君、年とらないんでしょ?それに証拠もなにも、君が認めちゃえばそれでおわり!あはははは!!」


 高めの穏やかな笑い声が狂気をにじませ狭い部屋に響き渡る。

 この大男マジでどうにかして欲しい。通報したい。通報したらどうなるんだろう。こいつと一緒に「たいほー!!」って言い始めるのかな。怖すぎる。こいつのせいで私の警察に対する信用は0だ。0というかもうマイナスだ。おかげ様で今の私が警察と天ぷらを一緒に食べたらカロリーが0になるに違いない。


「帰ってください!!」

「やだー。」


 なにがやだーだ!!こっちがいやだわ。そのサラサラ白髪むしってやろうか。白髪って抜くと増えるんだからな!!…こいつにやってもただの増毛効果か…。

 

「どうしたの?僕の髪なんかみて。食べたいの?あげるよ。」


 そういうと刑事は自らのさらさらのマッシュヘアからブチィッと結構な本数の髪の毛を抜いた。

 もう狂気だ。狂気の沙汰。マジで怖い。こいつサイコパスだよ。しかも誰が他人の髪の毛食いたがるかよ。頭おかしいだろ。あ、それとも増毛効果狙ってる?


「ほら、はい。」


 そういって私の口に自らの髪を押し付けてこようとする大男。手と同時にとんでもない美貌を持ちつつも優し気な印象の顔もぐいっと近づく。これ絶対はたからみたら犯罪でしょ。それともイケメンだから許されるの?もうマジタスケテ。


「いらないです!」

「そういわずに。えっと…カレイちゃんだっけ?ほら美味しそうでしょ?」


 そんな魚みたいな名前じゃないし、カしかあってない!!名前も覚えてないような奴に無理やり髪の毛食わそうとすな!!そして私もこいつの名前を知らない!!一番この世界にいる人では会ってるのに!なんて世知辛い友好関係だ…!

 

「とにかく帰れぇ!!」


 扉を開けて近くにあった退魔のお札をとりあえず刑事の顔面に張り付けると、刑事は扉の外にまでふっとばされていった。どうやらあの退魔のお札は魔物だけでなく、もはや魔物レベルの頭のおかしい人間もふっとばすことができるらしい。有効活用していきたいと思う。活用できるレベルになったらもう私の人生終わりだと思うけど。狂人はあの男ぐらいで十分だ。


「いたーい…。」


 あの勢いだと下手したら死んだかもと思って扉は閉めずに外をみていたら、ふっとばされた直後にも関わらずに刑事はすくっと立ち上がってこちらに向かってきた。なにが「いたーい」だ!!!

 慌てて扉を閉じて鍵も閉めてチェーンもつける。マジであいつ人間じゃねぇ。


「あけてよぉー!」


 ドスドスという扉をとんでもない力で叩く音とガリガリとなにかをひっかくような音が聞こえてくるが無視だ無視。

 それにしても問題は退魔の札を使ってしまったことだ。これはカラスが作り置きしておいた分しかないのでかなり大事に使わないといけない。にも拘わらず、私はこんな超どうでもいいところで使ってしまった。いや、ある意味命の危機だった気がするけどうっかり人間に使ってしまったのだ。効かないと思ってたんだけどな。うーむ、これは今後の仕事に関わってくる…。仕事ないけど…。



 

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