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「…い!?…かい!?おい!!!」


 眠い…。果てしなく眠い。ついでに頭も痛い…。なんで今日は土日じゃないんだ…。毎日土日になれ。とりあえず、あともうちょっと寝よう…。普段家を出る五分前に起きることにしよう…。いけるいける、前できたし…。


「…しろ!!!おい!!!」


 それにしても今日はなんだかいつもより目覚ましがうるさい。いつもだったら無視してそのまま寝るところだが、これは寝れそうにもない。仕方ない、止めよう。


「お前さん!!!」


 なんだかいつもより冷えた腕を高く持ち上げて、目覚まし時計の頭を叩いて音を止める。

 それにしても今日はなんだか本当に肌寒い。布団が手元にないけど蹴ったのかな。とりあえずおやすm


「っ…!!?この馬鹿!!!」


 ゴツン、と頭にとんでもない衝撃が走った。まさか目覚ましの逆襲か!?許せねぇ!!目覚ましめ!!復讐してやる!!覚えてろよ!!!

 目覚ましにガチギレしながらももう一度目覚ましを殴るために起き上がると、目の前にちょっと臭い口があった。


「うわぁ…!!くs……フローラル…。」


 目の前にいたちょっと臭い口の持ち主であろう知らないおばさまの憤怒の形相を目撃してしまった私は余計なことを言いそうになった口を慌てて閉じて、対照的な場所に位置してる感じの言葉に咄嗟に口内を入れ替えた。ついでにいうとこのおばさまの口内の空気の入れ替えも行って欲しいが、それは無理というやつだろう。


「…よくも殴って…いや、まずそれはいい。お前さん、いったいこんなとこでなんてたって寝てるんだい?」

「え?」


 そりゃあここが私のベッドだからですよという言葉を飲み込んで、あたりを改めて見回す。

 石畳が広がるクリーム色の地面に歴史を感じさせるレンガ造りの優雅な建物、花壇に咲き乱れる真っ赤な薔薇たち。雰囲気としては、ヨーロッパのちょっと田舎のあたりというのがぴったりだろう。

 まぁ、この風景の時点で明らかだがここは私のベッドではない。私のベッドはまさかの石畳とかそういうなんともキツイ生活をしているわけでもないし、そもそも私の家の中にヨーロッパの田舎は広がっていない。結構絶望的な状況に感じられるが、勝手に家に知らないおばさんが侵入して私を起こしてた、なんていう怖すぎる状況じゃなかっただけマシなのかもしれない。マシ…なのか?


「…迷子かい?」

「…いいえ。


 …それに幸い私にはこの景色に見覚えがある。


「あの、オカルト相談所はまだありますか?」


 なんたってここに、この場所に、まさにこの道に召喚されるのは二回目なのだ。



  *  *  *  *


 

 ここは私の記憶が正しければこの世界は魔法が少数の人のみに使え、しかもその魔法もかなり限定的というイマイチ盛り上がらない世界だ。そしてここはロジェ王国というスチームパンクな発展を遂げた国で、中途半端な技術力と中途半端な魔法の力があるなにもかもが中途半端な国の王都ロンド…からちょっとはずれた閑静な街、ブッヂだ。ちなみに王様も貴族もいるけどイマイチ影が薄い。そんなとこも中途半端。


「…いったい地面で寝てた馬鹿がここになんのようだい?」


 さきほどからしきりに相談所のほこりをすくっては顏をしかめていたおばさんが私のモノローグをぶった切って尋ねる。

 なんで私たちが仲良く相談所で二人してお話しているかというと、おばさんは先ほどの質問に対して行けばわかるとのみ答えたので、その結果二人でこのオカルト相談所にひょこひょこと向かうことになりこういう風な感じになった。なぜかおばさんは鍵を持ってたので相談所には入れた。

 どうでもいいけど、このオカルト相談所は本当に相も変わらず汚すぎる。前はまだここまでほこりは積もってなかったが悪化した。おばさんが顔をしかめる気持ちもわかる。


「ここでカラス先生の助手をしていたものなのですが、先生がなくなったとのお話を聞き遺品、遺産の整理をしに参りました。しばらくカラス先生のもとから離れた私が参るのもおこがましいことかと思いしばらく時間が空いてしまったのですが、なんというか…それらを整理できるような者がいないとのお話を聞きまして…。」


 勢いよくちょっとありえそうな感じの嘘八百をつらつらと並びたてた。確かカラスは完全に親戚と縁を切ってるっていってたから、遺品整理する人がいないことはほぼ確だし。まぁ、多少変なところがあってもこのスピードではイマイチ聞き取れなかっただろう。あれ?それだとそれっぽい嘘をついた意味がない?まぁ、いっか。

 そんな私をおばさんはじっと見て、しばらくして深い深いため息をついた。その深い深いため息が尽きた後、おばさんはやっと口を開いた。


「…カラスが死んだっていったい何十年前の話だよ。しばらくどころの話じゃないだろ。」

「え…?」


 カラスが死んだのは大体ざっくり四年前のはず。何十年といわれるほどではないだろう。

 …いや、待て。私は前回の召喚のときにここで二年間カラスの助手として過ごした。にもかかわらず、現実…いや私にとってはどちらも現実なのだが、現代日本では四か月しかたっていなかった。こっちとあちらの時間の流れが違うということは…普通にありえるだろう。


「あ…えっと…


 どうしよう。どうやってこの嘘を誤魔化そう。もうちょっとちゃんと状況を把握してから嘘をつくべきだった。慣れた場所だからと油断しすぎたかもしれない。


「…適当な嘘はもういいよ。」


 終わった。このリアクションは完全に終わった。絶対ポリスメンに差し出される。ちなみにこの世界は異世界だけどちゃんと警察組織がある。本当は警察って名前じゃなくてなんかややこしい固有名詞があるけど、私の脳内では警察と意訳されているので警察でいいと思う。それにしても前回かけてもらった言語翻訳の魔法の力が残っていて本当によかった。神の恵みに感謝だ。この世界ってマジで素敵。今すぐ歌いだしたい。お誕生日ケーキたべたい。そういえばむかし、権三郎がケーキに顔面をろうそくの代わりに突き刺したことが…


「…おい、


 ああ、ケーキとか権三郎とか現実逃避してる場合じゃなかった。どうしよう、やっぱりケーキ食べようかな。そういえば昔、権三郎が実は俺ケーキのイチゴなんだって言い出したことが…

 

「変な質問かもしれないけど…あんた、カヤコかい?」


 そういえばこの前、権三郎が…ケーキと佳也子って……カヤコ?なんで知ってるんだ?私にこんな口の臭いおばさんの知り合いはいない。四年間のラグがあるから知り合いじゃなくなったなんていうそういう詭弁でもなくて普通にいない。え、このおばさん怖い。

 おばさんは私が警戒していることに気が付いたのか、慌てたように口を開く。口臭いからあんま開かないで欲しいな。ちゃんと歯磨きしてる?


「私、デイナっていうんだけど。」

「デイナ!!?」


 デイナとはこの世界に来てちょっとお世話になってたお姉さんだ。ちなみにこの相談所兼私とカラスの家の大家さんでもあった。

 同姓同名の別人かとも思ったが、ここまで口の臭い人間は彼女ぐらいしか見たことがないし顔もだいぶ面影がある。ちなみにデイナはこれまで歯を磨いたことがないが一回も虫歯になったことがないことが自慢の驚異の歯の持ち主だ。その神経もだいぶ驚異だし、口臭はもはや脅威だけど。…てへっ、うまいこといっちゃった☆


「ひ、久しぶりです…。おっしゃる通り私はカヤコっす…。」


 怖い。デイナ一気に老けすぎだろ。


「だろうね。…それにしてもあんた、どこにいってたんだい。一瞬あんたの体をのっとった悪霊かなにかかと思って焦ったよ。見た目も変わらないし…。」


 いや、私としてはデイナの見た目の変化の方が…。

 …待てよ待てよ。さっきカラスが死んでから何十年とかいってたし、時間のずれがあることもなんとなくわかってる。これはこっちで何年たってるのか確認した方がいいのでは?たぶんこれは私のほうがだいぶ異常な感じなんだと思うけど。


「えっと…ちょっと異世界に行ってたんだけど…私がいなくなってから何年ぐらいたってる感じ?」

「異世界?なにいってんだい。あんたは昔から変なことばっかいうね。…えっとね、あんたが消えてからは…二十年ちょっとかな?」

「二十年ちょっと!!!?」


 これはヤバイ。これは私は完全に浦島太郎状態じゃないか。きっと私が可愛いねぇ!とかいってた少年少女たちも私より年上ってことじゃないか!!かわいかったアイツら返せ!!


「声がでかい。」

「ごめんなさい。」


 ごめんなさい。


「えっと…カラスとかの遺産って…

「相変わらずクズだなお前。」


 だって仕方ないじゃないか。カラスの遺産と遺物に私のこれからの生活がかかってる。別に私がお金大好きとかそういうわけじゃない。べ、べつにお金のことなんか好きじゃないんだからね!!


「ここにあるものと…私に預けていた金ぐらいだ。ここにどれぐらい金があるのかは調べてないから知らん。私に預けていた金は…まぁ、あと今月分ぐらいか?」


 ん?待てよこのババア。もしかしてこのババア私もカラスも住んでないのにカラスから金を預けられてることをいいことに家賃徴収してたのか?

 …ムカつくが、生活の場をキープしてくれといたと考えれば…いや、だめだろ。でも…うーん…。わからん。とりあえず、このデイナババアの機嫌を損ねてもいいことはないだろう。


「…無一文なんだけど、ここにまた住んでもいい?」

「どーしよっかねぇ。」

「…家賃とってたんでしょ?」

「…まぁね。」

 

 やっぱそうじゃん!そういうことじゃん!!


「もちろんこれからも家賃はとるから、払えなくなったらおさらばだよ。」


 このばあさん意地汚い。そしてこれまで勝手に家賃徴収してたことに対して罪悪感のカケラも抱いてない。


「…勝手に家賃徴収してたくせに…。」

「なんのことだい?」


 とぼけやがって…。


「じゃ、ここに関しては勝手にしな。私は仕事があるからそろそろ行くよ。」


 そういうと、デイナは肉々しい豊満な肉体をどすどすと鳴らしながら部屋から立ち去っていった。

 逃げやがったなあいつ…。



 

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