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なろう作家のみんな! 眠っている執筆中小説を蔵出ししよう!

作者: パン大好き

・・・・・・・・蔵01・・・・・・・・・


 #美竹さん

 平成30年5月12日夜11時32分

 刺さるフレーズ


・・・・・・・・蔵02・・・・・・・・・


 私は「擬人化」が苦手だ。

 ギジンカというのは、物を人のように例える修辞法、らしい。

 

 俺は酒を飲む。(原文)

 酒は俺に飲まれる。(受け身形)

 あいつは酒の俺を飲む。(擬人化!)

 

 むむ?

  

 「俺の酒」とは違い「酒の俺」。I am 酒。俺自身は I love 酒 だが。

 

 この例は分かりにくいし、ちょっと違うかな?

 むむむ、なにが擬人法なのか分からん!


 酒を飲んでも、飲まれるな。

 飲まれても、あいつを飲むな。


・・・・・・・・・蔵03・・・・・・・・・・


 最近なんかだるいのよね、何て言ってるあなた。

 さあ一緒に、やる気を出しましょう。


 なんだか公私ともに疲れ気味、閉塞気味なので、それを打開するべくパン大好きは動きます。現代社会はストレスフルではありますが、ネットを使って家に居ながら情報が手に入れられるのもゲンダイならではの利点。これを活用しない手はありません。


 なお、家に居ながらなのは、外に出る元気がでないからです。ははは。


 では、早速グーグル先生に登場いただきましょう。


 っと、その前にネット記事の引用について問題があると面倒なので、その辺りの「片づけ」をしておきましょう。科学技術振興機構が2011年に発行した小冊子に準拠いたします(文献1)。


 ポイントは掲載アドレスとアクセス時間を明記することです。もちろん著作権法に基づく「引用」の範囲はしっかり守りましょう。


 それでは、本題に戻りましょう。「元気が出る 文章」でgoogle検索(文献2)をぽちっとな。


 格言集が多いですね。イチローの言葉や松下幸之助、マザー・テレサらの名言がずらりと並んでいます。とはいえ、これらは二重引用になってややこしそうなのでパス。となると……ありました。気になるタイトルです。


「手紙の達人コラム 元気が出る言葉、励ましの手紙-手紙の書き方」(文献3)。


<落ち込んでいる人を励まし、まわりの人のやる気を引き出す言葉を心がけると、知らず知らずのうちに、自分も元気になります。(文献3)>


 確かに、人にエールを送ると自分も元気になります。


 運動会なんかでフレーフレー、がんばれーって大声で叫んでいるときに、内心落ち込んでいるような記憶はありません。


 自分が元気になるために、周りの人も励ます。そうすると、その元気が自分にも跳ね返ってくる。こんなあったかい循環がおきたら、みんなハッピーですね。


 さらに、「手紙の達人コラム」では手書きの有効性を強調しています。手で書いたものには、心のこもったメッセージを感じさせますものね。


<相手の気持ちを想像しながら、文字をしたためましょう。その際、相手の趣味や好きな話題にふれて、「また一緒に○○に行きたいですね」「一緒に○○できる日を楽しみにしています」などと書くと、明るい印象になり、元気を出してもらえそうです。>


 なるほどなるほど。


 辛い時、元気が出ない時に寄り添ってくれる人がいるというのは、いや、ただ「一緒に」いてくれる人がいるだけで心強くなります。


 元気が出る文章のポイントは、

  ①エールを送る

  ②手書き

  ③あなたと一緒に

 となりました。


 なんだか、ハウツー本のような内容になりましたが、書いているうちに、不思議と元気が湧いてくるようでした。


 さて、では手紙でも書きましょうか。

 ここまでお付き合いいただいた、あなたに……


【文献1】

科学技術振興機構(JST).“参考文献の役割と書き方:科学技術情報流通技術基準(SIST)の活用”.科学技術振興機構.2011-03.https://jipsti.jst.go.jp/sist/pdf/SIST_booklet2011.pdf,(accessed2018-10-10).


【文献2】

Google.“トップページ.https://www.google.co.jp/”.(accessed2018-10-10)


【文献3】

株式会社デザインフィル.“手紙の達人コラム 元気が出る言葉、励ましの手紙-手紙の書き方”.https://www.midori-japan.co.jp/letter/column/280.(accessed2018-10-10).


※参考文献の引用について※

【文献●】

著者名.“ウェブページの題名”.ウェブサイトの名称.更新日付.入手先,(入手日付).


・・・・・・・・・蔵04・・・・・・・・・・


 俺は山本哲郎。

 冴えないごく普通の高校生だ。

 人からは、よく「静かでおとなしいね」って言われる。

 けれど、それは人の輪に入るのが怖くて、引っ込み思案なだけのこと。


 ホントは、ずっと友達と一緒にいたくて。

 でも、それを言い出す勇気がなくって。


 小さいときからずっとそんな調子だった。

 だから、小学校でも中学校でも。

 休み時間になると、自然と図書館に逃げ込んでいた。


 成績は中の下。

 これも進学校なら自慢になるんだろうけど。

 顔は……自己申告だからどうかと思うけど、中の上、と言っておこう。

 実際、クラスの女子たちがどう思っているのかは知らないけれど。

 一度だった「噂」にさえなったことがないことからして。

 恐らく、僕の成績と同じくらいパッとしないものなんだろうな、きっと。


 そう、あれは中2の夏だった。

 僕の中学校は、当時の公立校には珍しく全館、冷房がきいていた。


 けれど、それも授業がある時間だけのこと。

 放課後になって、剣道部の練習を終えた僕は忘れ物を取りに教室に戻ったんだ。


 下校時刻をとっくに過ぎた廊下は人気ひとけがまったくなかった。

 激しい夏の午後を過ぎたとはいえ。

 温室を超えて加熱されたコンクリートの空間は独特の蒸された埃っぽさに満ちていた。

 トイレから漂ういい臭気が、むしろ熱気から正気を呼び覚ましてくれているような気がした。


 がらがらがら。

 静かに教室のドアを引いたつもりなのだが、意外と音が響いた。

 教室はまだ西日を迎えていない光を、まぶしいくらいに湛えていた。


 そして、僕の目に異質なものが飛び込んできた。

 誰もいない夏のあふれる教室の中心に存在する、一つの白い物体。

 ありえないことだけれど、最初はそれが自ら光を発しているのかと勘違いした。

 

 よく目を凝らすと、その物体には長い髪があり、目があり、鼻があった。

 つまりは、女の子だった。 

 

 僕の二つのまなこと彼女の二つの瞳が交わった、まま。 

 じっとりと、お互いに無言な時間が、しばし続いた。


 ひとりえっちをしていて、突然、母親が部屋に入って来た感じ。


 ……なんて書けば、すべてがぶち壊しのような気がするけれども。

 まったくもって、僕も、そして彼女も、そんな表情をしていた。

 もちろん、そんな行為をしていた訳じゃないことは、彼女の名誉のために断っておきたい。

  

「白岩さん?」


 間違いもなく、白岩さんは僕の憧れの女子だった。

 毅然とした内面を表しているかのような、さらさらストレートの黒髪。

 真っ白なブラウスとのコントラストが神々しくて直視できないくらい。


 極度の緊張でこわばった顔つきが、徐々に穏やかになってゆく。

 それでも、きりりとした端正な顔立ちであることには変わりなかったが。


 いまだ硬さを残した唇がほどけた。


「山本、くん?」


・・・・・・・・蔵05・・・・・・・・・


「好きです。付き合ってくださいっ」


「はい……私でよろしければ、喜んで」


「ハイ!?」


 差し出した俺の右手を、いつの間にか女の子が掴んでいた。

 だっ、誰? 誰なんだ!?


 夏の夕暮れ。学校帰りの道路わき。

 その娘は夕陽を背にちょうど逆光になってしまって姿がよく見えない。けれども、可愛い瞳がまっすぐ俺を見つめているのだけは、間違いなく分かった。


「私、公太さんのことずっと、ずっと見ていました」


 緊張しているのか上ずった声。

 いいっ! かわいい!

 何だか胸の底がむずむずとこそばゆく感じる。


「ずっと見ていた、っていつから?」


「物心ついたときから……」

「物心ついたときから?」


 いかん。テンション上がりすぎてる。

 パニック状態で、言葉をオウム返しに質問しちまった。


 落ち着け、俺。


 うう、何か気のきいたことを言わなきゃ。

 でも、いきなり女の子で、こんなシチュエーションで何を言ったらいいんだよ……

 

「私じゃ、だめですか……」

 

 あたふたした俺が下を向いて逡巡しているうちに、彼女の声のトーンが一気に下がる。


 これは、アカンヤツと言われる流れだ……

 でもその時、俺は気が付いたんだ。

 彼女の手が小刻みに震えているってことに。


 俺はバクバクの心臓が今にも飛び出そうな位に動転していた。

 けれど、彼女も俺以上に緊張に耐えて、踏ん張っているんだ。


 顔はよく分からないけれど、澄んだ瞳と声の女の子。

 頑張ってる女の子を悲しませるようなことはしたくは、ない。


 そうなれば、答はひとつ。

 男、公太。思っきり行きます!


「誰がだめって言ったんだい?」


 彼女の瞳がまっすぐに向けられる。

 揺れていた視線は、どこまでも透き通った、陰りのない光を宿して俺に集束する。

 思わず吸い込まれるような心地よさを感じるのは、きっと、彼女の心が澄んでいるからなのだろう。

 

 何だか無性に守ってあげたい存在--

 一目見た時から、答えはすでに決まっていたのかも知れない。


「これからは僕が君を見守る番じゃないか」

 

 しばしの静寂。

 言い終わってから、どんどん恥ずかしさが込み上げてくる。

 うわ。何言ってるんだ俺。よりによってキザすぎたか? これじゃ彼女も引いちゃうよ……


 しかし、彼女の一言で俺の心配は一気に吹き飛んだ。


「公太さん、私、私……嬉しい! ありがとう!」


 彼女はそう言って、思い切り俺を抱き寄せた。


 グイッと引き寄せられ、彼女は背中に手を回す。

 いきなり合わさる胸と胸。

 ちょっと強引だけれど、ああ……これが女の子の柔らかさ……俺にもやっと春が来たのか……


 木漏れ日を含んだみずみずしい森のような爽やかさと甘さが混じった香りに包まれる。


 女の子って、何でこんなにいい匂い何だろう?


 誰とも分からない女の子との夢見心地に浸る公太の耳元で、突然、硬質な音声が流れた。

 それは、安っぽいスピーカーから流されるAMラジオのような、ガサツいた音だった。


 ケイヤク ガ セイリツシマシタ

 ジョウコウ ダイ 41コウ テキヨウイタシマス


 うん? いまの音はなんだ?

 契約? 条項? 41?


 思わず我に帰った俺は、目の前にあるはずの彼女の顔を覗き込んだ。

 

「えっ? 忍者?」


「では、公太さん。行きましょう!」


 顔が触れるくらいの位置になってようやく気が付いた。

 彼女の違和感の正体に。


 最初、夕陽を背にした逆光で彼女は現れた。

 だから、彼女の姿が黒く影になって見えにくいと思っていたんだ。

 けれど……


「この黒装束は、にっ、忍者? まじで?」


「さあ、行きまますよ! 公太さん」


「イクって、どこへイっ……イイッ!?」


 息がかかりそうな近さで彼女はそう言うと、さらに強い力で俺の身体を抱き絞めた。

 布越しに女の子の柔らかさにうっとりとしていた俺は、ぐいと思わぬ強い力で締め付けられる。

 胸の空気が一気に押し出されそうになるのを必死に堪えた。


「ちょっと痛いかも知れませんが、我慢してください!」


「きつい、きついですよ、忍者さん!」


 必死に抗議しても、背中でロックされた彼女の両腕を外すことはできない。

 震えるほどに力んだ彼女の全身からは汗が流れ出して、密着した俺の身体をむわりと蒸らす。

 死ぬほど苦しいが、何たるエロス! ああエロスの神よ! 幸あれ!

 

「いっ、行きますっ!」


「どこへ! どこへイッちゃうんですか?」


 半ば朦朧とした意識の中で、俺は的外れのようで、案外ウマいことを言ったような気がした。


 不安を含んだ俺の声を無視して、彼女は勢いをつけてジャンプした。

 そして、俺の身体もろとも頭から地面へとダイブした。


 夏の午後を含んだ生ぬるいアスファルトに俺と彼女の頭が激突する。

 激突--するかと思われたとき、俺自身の影が黒いクッションのようにぶわりと厚みを増した。


「うわ、死、死ぬ!!」


 ずぶ。

 ずぶずぶずぶ。

 

 何も音がしなかったと思うのだが、敢えて表現するとすれば「ずぶずぶ」だ。

 俺と彼女は強く抱き合ったまま、ずぶずぶと影の世界に入っていった。


 ✳ ✳


 影の中に飛び込んだ先は……どうやら、あの世ではないようだ。

 けれど、なんだかとても暗い。

 真っ暗ではないのだけれど、よく目を凝らしても見通しが数十メートルしかない薄暗い街だった。


 彼女はまだ俺の手をしっかりと握っていた。

 お互い正座したまま向き合った。

 

 暗がりの世界で真っ黒な忍者装束な彼女は、コホンとひとつ咳払いした。


「えっと、自己紹介がまだでしたね。私は伊織いおりといいます」


 よろしくお願いします、続けて、頭をぺこりと下げたので、俺もつられて頭を下げた。


「ははっ。名前よりも告白の方が先になっちゃったね。僕は公太こうた。伊織、さんだったっけ」


「伊織って呼び捨てでいいですよ、公太さん」


「いや、君がさん付けで僕のことを呼んでいるんだから、そこは公平にいかないと、ね」


 かすかに伊織の両肩が揺れ、目尻が下がった。

 黒い布の下に、はにかんだ素顔が見てとれた。

 

 彼女の次の言葉を待たずに、俺は続ける。


「初対面で名前をどう呼び合うかってのは、結構大事なことだと思うんだ。後から呼び方を変えるってのもの案外むつかしいしね」


「ふふふ。公太さんらしい考えかたですね」


「俺らしい、かな?」


「はい。名は体を表すっていうじゃないですか。公太さんは公正・公平なことを大事にされるかたですから」


 なぜ彼女はそこまで俺のことを知っているのだろう。

 

「お名前どうしましょうか?」


 自分で言っておいてなんなんだが、名前の呼び方って難しいよな。

 まして、初めて会った女の子だし。

 伊織から提案してくれた方が嬉しかったのだけれど……


 女の子が急に表れて、彼女になって、影に飛び込んで……あまりにも現実離れした展開が続いているけれど、公太はこのシチュエーションを楽しもうとしていた。


 公太は楽天的な性格だった。


 困難な課題に直面すると、逆にそれを攻略することにワクワクするような、冒険家体質とでもいうのだろうか。半ばゲームや映画の主人公のようになったような錯覚さえ感じていた。


 こうなりゃ、あまり深く考えずに、行けるところまでとことん楽しもう。

 人生、きっとなるようになるさ。


「伊織、って呼び捨てはちょと抵抗あるよね」


「下の名前で呼び捨てですか、抵抗なんてないです。むしろ、そう呼んでほしいような……」


 何気ない一言に、すげえドキドキする。おお、呼び捨てで呼んでみてぇ。


「いっ、いっ、いお……り、さん」

 だめだ。恥ずかしくて言えないよ、絶対に無理ムリ。


「う~ん、ここは一つニックネームで。伊織なので……イオって、どうかな」


「それじゃあ、私は……公ちゃん、いっいえ、コウって呼んでもいいですか」


「イオ…」

「コウ…」

 ……気まずい沈黙が二人の間を流れる。

 相変わらず手を握り締めて、じっと俺を見上げるうるんだ瞳。


 次が続かねえ。だっ誰か救いの手を!

 奇妙でこそばゆい沈黙に耐えきれなくなった俺は、素朴な疑問を口に出した。


「で、イオはやっぱり忍者なの?」


 タイトな黒装束に目の部分だけが出た姿のイオに問い掛けると彼女は首を小さく横に振った。

 

「忍者っていうのは、合っているようで、違うような……」


 ヒュン。

 ヒュンヒュン。


 突然、右手の方向から風切り音がした。

 金属的な輝きと重量感を持った何かが、頬すれすれの空間を切り裂く。


「コウ、伏せて!」

 

 手裏剣? いやあれはクナイだ。

 目を凝らせば、それほど離れていない物陰にかすかに人影が見えた。あれが敵?なのか。


 次のクナイが迫りくる。イオに強く頭を押さえつけられたと同時に、殺気をはらんだクナイに後頭部の髪を幾分か刈り取られた。


 ヒュン。ヒュン。直撃すれば間違いなく死に至るだろう。

 凶暴な風切り音が屈んだ頭上を飛び抜ける。

 おいおい、さっきまで頭のあった場所だぞ、やばいって。


「あっ、危ねぇ。俺を殺す気かっ!」


「どうやらそのようね。でもコウ、大丈夫よ。心配しないで」


 二度目の襲撃が止んだタイミングを見計らって、俺たちは目の前のビルの陰に全力で走り寄り、身をひそめた。


 周囲の街を見回すと、黒い霧がかかったように薄暗い以外はいたって普通の、現代日本の街だった。

 イオも敵の奴らも忍者の姿をしているから、勝手に江戸時代的な町並みを想像していたのでなんだか肩透かしを食ってしまった。


「待たせたな」


 野太い声が俺とイオの背後から掛けられた。

 その声のイメージからゴツい顔をした筋肉質なオッサンと思いきや、細身の色白なインテリ青年のような黒装束が現れた。


 忍者で黒縁メガネですか。

 たぶん、それってウイークポイントだよね。忍者として大丈夫なのかな?

 俺の心配をよそに、さらにもう一人の黒装束が現れた。


「何カッコつけてんだよ」


 いつの間にか、俺の真横に男が立っている。

 いま全く気配を見せなかったよね。

 まさにニンジャ、という鋭い目つきをした青年が風とともにやってきた。けれども汗臭い。気配はないのだけれども。


 カッ、ガキン。


 一切の無駄な動きなくインテリ忍者が飛んで来るクナイを叩き落とす。

 そして、彼の背後からすざまじい殺気が放たれる。

 もう一人のキツネ目の忍者が思わず腰が砕けそうな、強者が纏う圧倒的プレッシャーを放つ。やはりというか、汗も匂いたつ。

 

 敵の攻撃がピタリとやんだ。

 彼が放つ重圧が効いているのだろう。

 

 覚えていろ~と叫んで逃げ去る悪党たちのように、纏めて数本のクナイを餞別代りに投げ寄越したのを最後にして、ヤツらは逃げ去った。


 ✳ ✳


「トキ、ありがと。幻術、いつものキレだね」


 伊織が褒めるとキツネ目の忍者男は「ふんっ」と言葉なのか、吐息なのか分からない返事を返した。

 ってか、彼から放たれていた赤子ですら殺めてしまいそうな禍々しさって、幻術で生み出されたものだったのか? あのかぐわしさも……


「いや、今回ばかりはヤバかったかもしれぬ」

 低太いダミ声で、インテリやさ男忍者が言う。


「スバニイもありがと。おかげで助かったわ」


 イオが礼を言うと、スバニイと呼ばれた男はメガネの縁をクイと持ちあげて笑顔を返した。


 ここが何処なのかとか、あなたたちは一体誰?とか、色んな疑問はあるのだけれど、彼らの振る舞いを見ていると、俺に危害を加える存在でないことだけは、嫌というほど伝わってきた。


「二人とも、ほんとにいいタイミングだったわ!」


 むむ? トキってのは何となくて分かるけど、その後のスバニイ?ってどんな名前なの?


 <ちょっとした分からないことでも自分で確かめることが大事>

 って森先生が言ってたな。

 

 こんな時に小4年の遠足での出来事がよみがえってくる。

 集団からはぐれて迷子になってしまった俺を探す森先生。

 ひょんなことからできた、憧れの森先生との2人だけの時間。

 <先生が言った通りに自分でバッタを調べたかったんです……>

 俺はイケナイとは分かっていたのだが、自分を正当化した。

 <ケガが無かったから良かったけれど……ルールは守りなさい! 公太君!>

 森先生はキツク俺を叱った。

 そして、ぎゅっと、俺を抱きしめた。

 <公太君、無事でよかった……あと、先生の言葉覚えてくれていて嬉しいです……>

 ワルイことをしたボクが全部悪いんだ。

 だけど、この瞬間、みんなの先生を特別に独り占めできたよう気がして……

 みんなが待つバスに帰る時に握った先生の手は、やっぱり柔らかかった。

 そして、俺の胸の奥の方にも、やっぱり柔らかなものが、ぽっと灯された。

 あれが初恋だったのだろう。


 緊急事態に限って、どうでもいい回想にふけってしまうのは悪い癖だ。

 とにかく、今はスバニイ問題を解決せねばならないのだ。

 森先生の教え通り、分からないことは聞いてみよう。


「あの、お二人の名前を聞いてもいいですか?」


 俺にしては、珍しく最上級の丁寧語だった。

 目の前にいるのは、最低限の動きでクナイを叩き落とした忍者とアンサツシャ眼光を持つ汗臭い忍者。

 下手な聞き方をすると、こっちの身がやばい。


「拙者はすばる。横にいるのが弟の朱鷺ときでございます」


 漢字の説明も、あわせてしてもらった。

 わお、拙者が一人称の人に初めて会ったよ!

 なんて思っていると、朱鷺は名を呼ばれたのと同時にちょこんと頭を下げた。


「俺は伊織の一つ上だ、です。お前さまのお護衛をしてやる、じゃなくて、えっと、いたします、です」

 

 朱鷺の眼つきは相変わらず厳しいが、一言一言を刻み込むような言葉が印象に残った。

 うん。こいつはきっといいヤツだ。

 何も根拠はないけれど。

 心にしっかりとすわった太くて温かい芯のようなものを感じとることができた。


「詳しいことは、玄爺げんじいの所で話ましょう」


 伊織がぐいっと公太の手を引っ張った。そして2歩ほど駆け出してから、彼女は急停止した。

 コントのように伊織の背中にぶつかる男3人。


「ごめんなさい。大切なことを言い忘れていたわ。公太さん、私の手を絶対に離さないでください。手を離した瞬間、現実世界のあなたの肉体は消え去ってしまいます」


 ニクタイが消えるって、つまり?


「要するに死んでしまいます」


 死んでしまいます。死んで……俺は怖くなって思い切りイオの手を握り締めた。やっぱり、こんなところに来るんじゃなかったかも……


「大丈夫ですよ、コウ。私が絶対に離しませんから。さあ、玄爺のところに向かいましょう!」


 落ち込んでいたって、現状はなにも変わらない。

 イオの言葉を信じよう。


 公太と3人は一斉に駆け出した。

 気のせいか、いつもより早く走れているような感じがする。

 こんなに全速力で走っているのに、息も切れないし……


「その理由は玄爺さまの所についてからお話します」

 

 聞いてもいないのに、スバニイが低い声で話し掛けてきた。

 怖っ。読心の術でもあるのか?

 俺の心の中の叫びに、スバニイが黒縁眼鏡をクイっとしながらクールな笑みを返してきた。


 イオと手を繋いだまま駆け抜けること1時間。

 ようやく大きな門構えの住宅に到着した。

 入母屋いりもや造りの旧家で、これこそ忍者の世界観とマッチしていていた。


「帰りました!」


 大声で叫んだ朱トキが門を開ける。

 庭を進むと腕を組んで白髪、白髭の老人が仁王立ちしていた。


「ワシが玄爺じゃ。よくぞ来られた」


 来られたっていうか、来ざるを得なかったんだけどね。

 これっ恐れ多いぞ、とスバニイが放つ鋭い目線ビームはこの際、無視だ。


「手短に話そう。そもそもこの翳界かげかいというのは、公太殿の住んでいる世界とはまったく別の世界だと思ってくれればいい。別といってもまったく繋がっていない訳でもなく、裏側の世界とでもいうのか」


「ちょっと玄爺。こんな所で立ったままで話なんてできないわ。公太さんだって、ほら」


 俺の口はすでに半開きとなっていた。幸いヨダレは垂らしていなかったようだけど。漫画的な表現だと「ぽかーん」状態だった。


「こりゃあ、すまぬ。この玄爺としたことが」


 ガッハッハ、豪快な笑い声とともに俺に向き直り、玄爺は厳かに頭を下げた。

「どうぞ。狭いところですがお入りくだされ」


 イオの手を握ったまま、板の間で俺は玄爺に向き合った。玄爺は「ガッハッハ~」との豪快な笑い声と「ワシが宇田島玄八郎である」とこれまた豪快な名乗りを交えながら、この世界、翳界のことについて俺に語ってくれた。


 玄爺と伊織たち3兄弟妹の話をまとめると、次のようになる。


・ここは翳界という

・俺のいる世界(現実世界とする)とは「影」でつながっている

・翳界のエネルギー源である「善玉」は現実世界での善き行いである

・つまり俺が現実世界で「善い事」をすると、翳界で「善玉」というエネルギーが生じるらしい

・玄爺の家系の生業はその善玉を集めること

・問題なのは、最近、翳界の転覆を狙う反乱分子が台頭しはじめたこと

・反乱分子は善玉を自らの目的、つまり、翳界の破壊工作に使っていること

・伊織たちは、反乱分子と戦いつつ、善玉を集め続けていること


 ふえ~。纏めるだけでも一苦労だね。これを読まされる人はもっと大変だ、って俺は誰に向かって言ってるんだろう。


「大切なのは、ね。ここからなの」


 イオは手を繋ぎながらぐっと顔を寄せて話掛けてきた。彼女は俺をどう思っているのだろう? きりりとした眼差しからは、私情を押し殺したかのような真剣さがビシビシと伝わってくるのだが、その奥にちらつく幾分かしっとりとしたものを含んだ何かが、俺の胸の奥をチクチクと突き刺す。この感覚は……


「公太さん、ねえ、聞いてます?」

「ああ、ごめん。一度にこんなにたくさんの情報が詰め込まれると、頭が処理しきれないよ」

「公太さんなら大丈夫です」


 イオに断言されると、そんな気がした公太だったが、なんだか騙されたような気分でもあった。


「えっと、大切なことなんですが、この手を決して離さないでください」

「その先を聞きたくはないんだけど、もし手を離しちゃったらどうなるの?」

「さっきも言いましたけれど、現実世界の公太さんの命が失われます」

「……っ!」


 厳密には肌と肌が触れていればいいらしい。

 くっついている間は、お互いが存在している世界(今ならば翳界)の時間は進むけれど、反対側の現実世界の時は停止しているとのことらしい。手と手が離れてしまうと、翳界と現実世界のリンクが切れて、魂を失ったまま動き出した現実世界の肉体は瞬時にデットエンド……となるらしい。

 ひえ~、絶対に試したくはない、それだけは。


「いっ痛い。公太さん、そんなに強く握らないでください」

「ごめん。その話を聞いて、つい力が入ってしまって」


 それにしてもこのシステム、なんだか気になるな。俺は疑問点をイオに率直にぶつけた。


「メリットは? 翳界にとって人間の力が必要なのはわかるけどさ。人間にとってのメリットって、一体何なの?」


 イオは即座に聞き返した。それも、悲しげな顔をして。


「メリット、か。考えたこともなかったけど。でもね、コウ。例えば、人は牛を食べるじゃない。そう、牛の命をいただいて、いや、もっと端的にいえば牛を殺して食べているわけよね」


 なるほど……そういうことか。イオの話の結末が見えたと同時に、彼女の表情が曇った訳が理解できた。


「人間にとってメリットがあったとして、牛にとってのメリットって何なのかしら?」


「うん。イオの言う通りだね。そもそも『メリット』何て考え自体がまちがってた。食べる者と食べられる者。生きる、ということの大きなみなもとのような……」


 イオは、俺の言葉にうなづく代わりにくるりと背を向けた。俺の背中とイオの背中がピタリとくっつく。熱いくらいにイオの体温が伝わってくる。


「人も動物もとても大きな輪の中にいて、命と命が共に生きながら、共に殺して。そこには美しさと汚さがあって、そして美しさも汚さもなくて……ああ、うまく言えないんだけど、ね」


 背中越しにイオが天井を見上げたのが分かった。そして、小刻みに震えているいることも。


「イオ、泣いてるの?」

「ううん。泣いてなんか、ないよ」


 そんな言葉が嘘だっていうことは分かっていた。

 俺の頬を、イオの頬を、命の滴が二筋、流れ落ちた。 


「コウと出会えて、本当によかったな、って……」

「僕もだよ、イオ……」


 俺にもたれ掛かるような形で、イオの頭が俺の肩に乗った。

 後ろ髪の感触が首筋にこそばゆい。

 つないでいない方の手でイオの髪をそっと撫でおろし、掻きあげる。

 

 こんな時間が、ずっと続けばいい。


「すまぬが……拙者たちもまだおるんだがのぅ……」

 

 放置プレイを食らった玄爺、スバニイ、トキは感涙の2人にジト目を送りながらも、ほんのりとした温かさに包まれていた。


・・・・・・・・蔵END・・・・・・・・・


 蔵出しは一部ですが、これで打ち止めとします。

 それにしても、一体俺は何を書こうとしていたのだろう? 黒歴史?

 冒頭の暗号のようなメモは……?

 読み返すと結構おもしろいものもあるけれど(自賛)、これ以上は書けなかったモノばかり。

 数年の穴倉生活。

「一人にでもお目にとどまれば嬉しいです」と蔵入り作たちが申しております。


 さあ、みなさんも続けっ!


 パン大好き

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― 新着の感想 ―
[一言] いやいやいや、凄いです。続け! との勢いに乗りたいのはやまやま、でもこれは凄い。発明した方のものであって、とても真似はできない。物語だけど、詩のように自由で、いい発明でした。気持ちがスッキリ…
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