第12話 魔法少女隊・朱(バーミリオン)結成!
自分勝手に喋りまくっている三人の女子。『女三人寄れば姦しい』とはよく言ったものだ。教室内では比較的大人しいように見える黒田星子や綾川知子もこういう風に煩くなるのだと改めて理解した。有原羽里に関しては常に喧しいので、この娘が起爆点になっているのだと思う。
「いい加減にしろ」
穏やかだが威厳のある声。
子供の声なのだが、それに重なっている霊格の高さを感じる。この厳かな雰囲気から、京が人を超越している存在なのだと確信する。そんな一言だった。
三人は一斉に京を見つめる。この三人も京の威厳の高さを感じたのだろう。先ほどまでとは打って変って真剣な眼差しであった。
(貴様の生体エネルギーを借りるぞ。少し疲れるだろうが大事は無い)
(わかりました)
何で俺の生体エネルギーが必要なんだ? と疑問を持つ。京はお構いなく三人の娘に向かって話し始めた。
「我は神である。名は京。訳あってこのような姿で実体化しているが、本来は肉体を持たぬ存在である」
三人共京を見つめ頷いている。
京は俺の膝の上にいる為、俺が見つめられているような気恥しさがあるのだが、これは我慢せねばならない。
「我の役目は邪なるものの駆逐と封印である。これは大地の女神クレド様より我が授かっているものである」
三人の娘は、それこそ食い入るように京を見つめる。この話の流れこそ、彼女たちの知りたい事そのものなのだろう。
「昨日の豪雨で朱人の実家周辺が被災した。その際、我を祭ってある祠も流されてしまった。その時同時に邪なるものの封が解かれ、また我は我の体、すなわち御神体を失った。これは我の法力が実質的に失われた事を意味する」
「それでミミ先生が魔法少女になったんですね」
「その通りだ」
「あの大ムカデや学校で出てきた化け物は邪なるものなのですね」
「間違いない」
知子の問いに京が答える。三人の娘は納得して頷いている。
「付け加えるなら、我がこの世で実体化し法力を発揮するためには、法力を蓄え放出する器、すなわち依り代が必要となる。その依り代に最適なのがこの朱人なのだ」
三人の視線が俺の顔に集中する。
正直、物凄く恥ずかしいのだが、何とか耐えて平静を装う。
突然、有原羽里が右手を上げ発言した。
「質問です。私がミミ先生とエッチしたら、私は魔法少女になれます……よね!?」
質問というよりは自分の望む結論を求めている。京は苦笑いをしながら返事をした。
「なれない。残念だがお前はその器ではない」
京にきっぱりと否定された羽里は悔しそうに歯ぎしりをしていた。
「ミミ先生の童貞を奪えば、その魔法使いの能力が処女に移転すると思ったんだけどな」
「お前、そんなこと考えてたのか。しかし、羽里がミミ先生とエッチしちゃったらもう処女じゃないから、その理屈はおかしいぞ」
と、知子に突っ込まれる。しかし、羽里は笑いながら切り返す。
「私の中ではミミ先生の中の魔法の精が、私の中に浸透してそれが能力の移転になるってイメージだったんだけどな」
「ないない。星子の妄想よりも非現実的だ」
知子に一蹴される。京も笑いながら頷いている。そして、少し頬を膨らませて星子が言う。
「やっぱり羽里ちゃんはそんな事考えてたんだ。だから私も決死の覚悟で下着付けずに誘惑してみたんだ。こればっかりは羽里ちゃんの好きにさせられない」
それだけ言って下を向く星子。本当に恥ずかしかったようで、顔を赤らめている。
「まあそんな事だろうと思ったよ。泊まるって話になった時にはな。でさ。お前ら二人の恰好を見て確信したんだよ。羽里が何をしようが勝手だけど、星子の胸は私が絶対に死守するんだからな」
また訳の分からない流れになって来た。
羽里が俺を誘惑して星子がそれを阻止して、知子は星子を死守するのか??
Jkの思考は一筋縄ではいかない。世間で言われている可愛いか可愛くないかの二択でないことだけは確かなのだろう。
「ふん。やはり朱人の教え子だな。その馬鹿っぷりは酷似しているぞ」
ケラケラ笑っている京。その姿を見て安堵しているのは知子。星子と羽里は恥ずかしそうに下を向いている。
「魔法少女に関しては私の趣味的傾向だと言っておく。衣装や容姿の事だ。朱人はむしろ迷惑そうにしておるからな。それと童貞とか処女は関係がない。本人の格、すなわち霊格というものが必須なのだ。私と霊的に一体化して戦うのだから、生半可な格では務まらない」
京にピシャリと言われて俯く三人。羽里は率直に魔法少女になりたいと言っていたが、他の二人もそういった願望が少なからずあったのだろう。それを全否定されたのだから当然の反応だと思う。しかし、星子そっくりの姿だったことに関しては京がうまく誤魔化してくれた。
京は自身の正面で両手を合わせ合掌する。そしてゆっくりと掌を放し
ていく。そこには光の玉が形成されており、その光は眩い白色から薄い紫の光へと変化していく。
その光は三つの大きな宝石へと姿を変え、その宝石も小さくなっていき小型のネックレスへと変化した。ネックレスのトップは小さなサファイアが輝いていた。そのネックレスは空中を漂い星子、羽里、知子の首へと移動した。
美しい紫色の光を放つ小さなサファイア。それは内から、弱い光であるが本当に光を放っていた。
「綺麗」
「すごいよ」
「これは?」
三人共、自身の胸元に輝くその宝石に目を奪われていた。
京が徐に話はじめる。
「お前たちが魔法少女となることは無理だ。しかし私に協力し、魔法少女の力の一端となることはできるだろう。その宝石は私とつながっている。お前たちが見て感じた事はすべて私に伝わる。魔法少女の眼となり耳となれ。我らが力を合わせ邪なるものを倒すのだ」
その言葉に頷く三人の娘。皆、右手で光る宝石をしっかりと握りしめている。
「ここに魔法少女隊『朱』を結成する。隊長は朱人だ。各員一層励め。以上だ」
「はい」
「了解。大佐殿」
「わかりました」
知子、星子、羽里の三人が元気よく返事をする。星子は敬礼しているし大佐って誰だとも思うのだが、これが彼女の平常運転である。
「私は常に朱人の傍にいる。通常は目に見えず声も聞こえないが心配するな。すまないがそろそろ力が尽きたようだ」
俺の膝の上で京の姿が消えていく。
三人の娘もその様子と黙って見つめていた。
今回は意外と長く、そう、30分くらいは実体化していた気がする。そう言えば、俺の生体エネルギーがどうのこうのと言っていたが、それは何だったのだろうか。
(京様、巧く部下を増やした格好になりましたね)
(そんな単純な話ではないぞ。あの連中を味方に引き入れ、情報を共有する事でお前の秘密を守る。そして、邪なるものの襲撃からも守りやすくなる。場合によっては足手まといになる可能性はあるが、総合的にこの方法が最も効率が良いと判断したのだ)
(なるほど。ところで俺の生体エネルギーがどうのこうのと言ってませんでしたか?)
(そうだ。通常よりも長い時間実体化したし、三人の娘にも宝珠を与えた。その為のエネルギーを貴様から借りたのだ。少し眠くなるだろうが我慢しろ)
眠くなる?
その一言を聞いた途端に、本当に眠くなった。
俺は瞬間的に意識を失い、泥のように眠ってしまった。