83話 私の嘘
今回は、体育祭の当日の帰宅後から、お話が始まっています。
いつも通りの未香子視点です。
未香子と萌々花の対立の続きとなり、萌々花と再度対立?するかも。
あの後、今日のお夕飯は、久しぶりに夕月も一緒に食べることになった。
夕月も、私ともう少し話がしたかったようで、丁度よかったみたい。夕食後にお風呂に入ってから、今日は夕月と一緒に、私の部屋に行く。暫くどうでもいいような雑談をした後、夕月が本題に入るとばかりに、顔を真剣な表情に戻してから、話し出したのである。
「それで、何が、どうして、あんな話になったの?…萌々の方が、未香子を追いかけて行った、と聞いてるけど…。一体、何を言われたわけ?」
…ああ。そうなのね。夕月は途中から来たみたいですし、私や萌々花さんの…告白は、聞いていないようね?よかった…。聞かれていなくて…本当によかった…。
それならば、彼女の告白の内容だけは…隠すべきよね?…私から言う事ではないのですし、夕月には…まだ知られたくないもの…。
ごめんね、夕月。私…あなたに、嘘を吐きますわ。(勿論、告白の話だけよ。)
「…あのね。今日の借り物競争で、お題が『ライバル』と書かれていて、内容は何でも良かったのですけれど、その…萌々花さん以外に、私…思いつかなくて…。それで、萌々花さんに頼みましたのに、あの時の萌々花さんは、私と仲良くなれたと思ったみたいで…。紙に書かれた文字を、見られてしまって…。どうやら…それが、彼女にはショックだったらしく、私を追いかけて来たみたいなの…。」
私は、ここまでを一気に話す。ここからが肝心なお話になる。私は、大きく息を吸い込んだ。夕月は相槌を打つぐらいで、今は黙って私のお話を聞いてくれている。
「私は疲れていたから、後ろを振り向けなかった。そうしましたら、萌々花さんが私の行く手を阻んで来て、『ライバル』の意味を訊かれて。それで、私ははっきり宣言したのよ。あなたとは、仲良しのお友達になれないって。でも、萌々花さんは色々と食い下がって来て…。そのうち、私が我が儘だとか言い出すものだから、私も…何が何だか、分からなくなってしまったのよ…。」
「そうなんだ…。そういうことか…。『ライバル』ねぇ。赤羽根部長達が話していたことは、これだったのか…。だとしたら、未香子は全く悪くないよ。確かに、そのお題では、萌々が理由を知りたくは、なるのかな。…だとしても、約束の反故の件は…、明らかに、萌々の方が言い過ぎだと思うよ。」
私は簡潔に、そして詳しく事情を語った。それまで黙って聞いていた夕月は、何度も納得するように頷きながら、私が悪くないことを証明するかのように、話し掛けてくれる。…嬉しい。夕月が、私を全面的に認めてくれたのですもの。私だって、あの場合は仕方なかったと思うわ。萌々花さんだけを責める訳では、ないのよ?
「彼女は外部生で、色々と知らなかった事情もあるけど…。彼女なら何とかなるとは思うけど…。未香子は明日以降も、今まで通りの態度で良いと思う。」
「うん。ありがとう。私も誤解していたし、今回はお互い様ってことで、私は…水に流します。但し、萌々花さんが怒っていたら、どうしましょう…。」
「う~ん。それは、大丈夫だと思うけど。彼女は体育会系のノリだから、今頃は自分も言い過ぎたと、反省しているかもしれない。面倒な事は…あるかもしれないけど。」
萌々花さんと会っても、私はいつも通りで良いと、夕月は言ってくれるけれど。
それも…彼女次第かと…。彼女が怒っていたり、私の事を誇張したり、誰かに訴えたり、そういう人ではないとは、思っておりますけれど…。私を悪く思うのは勝手ですが、夕月のことは悪く思われたくないのですのよ。確かに…彼女は、怒っていないかもしれない。それでも、彼女の見ていたお友達には、どう思われたのでしょうか?…私だけ連れ出した夕月を、悪く思っていなければ、良いのですが…。
夕月が悪者になるくらいなら、私が悪者になった方が、ずっとマシですもの。
萌々花さんのお友達って、確か鳴美さんと郁さんだったわね。郁さんは、う~ん、どう思うかが元々よく分からない人なので、深く考えないようにしましょう。
問題は、鳴美さんですわ。彼女とは、殆どお話したことがないのです。
そう言えば、郁さんの突っ込みを唯一止められる人だと、ツカちゃん先輩からお聞きしましたわ。そのコツを教えてもらった、のだと。
ですから、そんなに悪い人ではないと思います。どちらかと言えば、面倒見の良い人のような感じがしますし…。私達と会っても、いつも控えめな感じで、自分からは余り話し掛けて来なくて。あの時も…校外学習のお菓子交換だって、夕月に欲しいと強請ったりは、しなかったようですし。萌々花さんの味方だからと言って、即イコール、私の敵ということでは、ないかもしれないのです。
ただ、夕月の勘は、よく当たりますのよ。萌々花さんの性格云々は、兎も角としましても。夕月が言う『面倒な事』って、何でしょうか?…とても気になります。
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「萌々やその友達が怒ったりしたら、私も一緒に説得するよ。心配しないで。」
昨夜は、夕月がそう言ってくれたお陰で、私は安心することが出来た。
「萌々花さんを全面的に味方したら、どうしよう。」と少し恐ろしかったけれど、夕月はきちんと私を見てくれて、私の味方をしてくれた。ケーちゃんにも、今日は改めて、お礼を伝えなければいけないですわね。
中等部の頃は、他の女子生徒のやっかみも酷くて、私も夕月も、特定の女子とは仲良く出来なかったのです。ケーちゃんとは、その頃から同じ演劇部員ですけれど、そういう理由もありまして、殆どお話はできませんでしたわ。それでも時々、彼女から話し掛けてくれまして。あの時から、本当はとても嬉しかったのですのよ。
中等部の頃は、それが…途轍もなく、辛く感じておりましたのに、今ではそういう出来事さえも、思い出として心の中に残っていますのよ。
今朝は早くから、夕月が迎えに来てくれた。萌々花さんと会わないように、時間をずらそうとしまして。今朝は特に電車の中でも、私が気分が悪くないか、気を遣ってくれている。昨日の事で、私が悩んでないか、心配してくれているのだろう。
今朝は、陸上部も朝練がない筈ですから、萌々花さんには会う可能性が高い。
それでも早く出たお陰で、何もないまま学苑に到着した。その後も今日は、萌々花さんとは会わなくて、私は昨日の事をすっかり忘れておりましたのよ。
朝の登校後、ケーちゃんには改めてお礼を伝えましたの。よっちゃんやせっちんには、私が気分が悪くなって保健室に行った、とお話されておりました。お陰で、とても心配をお掛けしたみたいです…。お2人共…ごめんなさい…。まだお2人とは付き合いが短いですが、こんなにも心配してくれて、詳しい事情が話せなくて、本当に申し訳なく感じて。事実を知れば余計に、お2人に気を遣わせるからと、敢えてお教えしなかったと。こういう事には、ケーちゃんはとても口が堅くて、よく気が利く人なのですね?…本当にありがとう。
朝以降は然程は気にせずに過ごし、部活もいつも通りに過ごして。郁さんに会った時は、身構えてしまいましたが、「昨日はお2人共活躍が、凄かったですねぇ。私、とぉってもワクワクしました!」と、何やら訳が分からないお話でした。
夕月は兎も角、私が凄かったとは…何がでしょう?…それより、郁さんは…何も知らないのかしら?…帰る時も、夕月と一緒に学苑のバスに乗って、バスから降りるまでは、頭の中からすっかり消えていて。
バス停を降りると、何と…萌々花さんが、私達を待ち伏せしていたのです。
バス停から少し離れた所に、立っていた萌々花さん。私達がバスから降りると、目がバッチリ合いまして。夕月が、私にだけ聞こえるような小さな声で、「大丈夫。私も居るから。」と、言ってくれなければ、私は緊張で…その場に、立ち竦んでいたかもしれませんね。意を決して…私達の方から、萌々花さんに近づいて行く。
数歩離れた所で止まるまで、彼女はただ黙ったまま、私達を見つめていた。
「お2人に…お話があります。ここでは無理なので…他の場所で、落ち着いてからお話したいので…。私に付いて来てもらっても…良いですか?」
「…こちらも話がしたいから、丁度良い。場所は…任せるよ。」
私達が近づいた途端、待ってましたとばかりに、萌々花さんが口を開く。そして、話があるからと切り出して来て。私はもう、心臓が飛び出しそうなほどにドキドキして、夕月が了承するのを横で聞きながら、ただ頷いていただけでしたの。
…ううっ。私、肝心な時に…役に立ちません…。
暫く歩いてから、萌々花さんはあるお店の前で止まった。そこは、とても風変わりな?それとも古風な?といった雰囲気のお店で、店の外観も内装も家具とかも、全てアンティーク調であった。思わず、萌々花さんに呼び止められた理由を忘れて、店内をキョロキョロと見回してしまう。テーブルや椅子も本物のアンティーク物だと眺めていたら、夕月が一言「これ、レプリカだね?よく出来ているね?本物そっくりだよ。」と、言い切って。…ええっ!…これ、レプリカなの?嘘でしょう?
「よく本物じゃないって、分かったわねえ。そうなの。このお店の家具や小物類は、全てレプリカなのよ。今風の流行ではないけど、こういう古風なお店もあったらいいかな、と思って改装したのよ。」
「そうなんですね。とても…落ち着くお店だと思います。」
「私も…そう思いますわ。凄く素敵なロマンチックなお店ですわ。」
「良かった~。私…前々から2人に、このお店を紹介したかったんだよ!絶対に気に入ってもらえると、思ってたんだよね!…でも、昨日気まずくなっちゃって、気に入ってもらえなかったら…どうしよう、って不安になっっちゃった……。」
レプリカだと見破った夕月に、厨房の方からお店の女主人らしき人が出て来られて、私達の接客をしながら、お店の説明をしてくれた。夕月がお店を褒め、また私も絶賛しまして。このようなお店には初来店ですが、とてもワクワクしています。
傍らで私達の評価を聞いていた萌々花さんは、今日初めての満面の笑みで話し出して来て。先程までは丁寧な口調で、他人行儀な言葉使いでしたのに、今は…いつもの萌々花さんに、戻ったご様子です…。
…あれ?…萌々花さんペース、いつの間にか…ご復活されたのですか?
本当に…怒っていらっしゃらないのね…。…私の悩みは、何だったのかしら…ね?
体育祭当日の帰宅後から翌日のお話となっています。
未香子と萌々花に夕月も加わり、話し合いが始まります。
今回で終わらなかったので、次回は本格的に話し合いとなりそうです。




