78話 体育祭の始まり
今回は、体育祭当日のお話となっていまして、いつも通りの未香子視点です。
体育祭とかに、クラスTシャツを使用して、応援した経験がある人もいますよね?
Tシャツは、クラス毎に色別の無地とし、後は自分達で作品を描くということにして、背中のゼッケンは使用しない形式にしました。お金持ち学校の生徒に、ゼッケンはダサそうでしたので。
本日は、朝からとても良い晴天となりました。愈々、今日は、名栄森学苑の体育祭当日である。体育祭としては、良いお天気なのでしょうけれど、私には地獄のような1日の始まり…でもありますの。…はあ。憂鬱…過ぎますわ……。
それでも…唯一のお楽しみが、夕月の活躍ぶりでしょうか?
小学部・中等部の運動会・体育大会などでは、夕月が居るクラスが、毎年必ず学年優勝するほどの活躍ぶりでした。私は、夕月とずっと同じクラスですから、いつも優勝したクラスの生徒でもあります。私の後始末を、夕月がしてくれているようなものでして…。ごめんね、夕月。私が足引っ張っている分、頑張らせているかも。
学苑長の挨拶が終了し、3年生の選手宣誓が終われば、愈々体育祭の開始である。
各クラスでそれぞれデザインした、クラスTシャツを着用して整列する。
選手宣誓は、毎年3年の体育委員長が行っているようであった。
その後は、全生徒は、各学年の各クラスの座席に着席する。今年の1番始めの競技は、1年の徒競走から開始となっていた。私達1学年全員は座席には移動せずに、入場門に集まっている。
今から行う徒競走は、リレーとは異なり、自分の順位がそのままの結果となる競技なので、運動音痴な私には、頑張って走っても…クラスの足を引っ張りますわね。それでも、この競技は生徒全員参加なのですから、3年間逃れられないのである。私はいつも最後(ビリとも言う)なので、半分諦めているけれど……。
しかし、今年は外部生が居る為、8人で一斉に走るらしいので、同じ最後でも…今までとは、同じ最後でも意味が違ってきますわね…。
せめてもの救いが、陸上部の萌々花さんとは、別の組み合わせになったことでしょうね?私と一緒に走る人達の中には、見たところには、要注意人物は居ないようですので、ラッキーなのかもしれない。若しくは…外れかもしれない。この人選で最後になった時には、私…立ち直れなくなりそうな予感が…。…はあ。不安です…。
先ず、男子から走り始めて行き、時が刻々と経っていく。そして到頭、私の番となりました。パンと鳴らす音が聞こえ、私達走者は一斉に走り出して行く。
私は一生懸命に手足を動かして、何も考えずにゴール目掛けて走っていく。
今、自分が何位なのかなんて、横を見る余裕も考える余裕もなかったけれど…。
ただただ……只管に走っていたのです。
やっとゴールに辿り着き、倒れ込むようにしてその場に座り込み、ハアハアと息を吐いていると、既に走り終えたクラスメイトが近づいて来た。何とか顔を上げてよく見れば、それは…よっちゃんで、私に肩を貸してくれるようにして、立たせてくれた。そして、私に肩を貸しながら共に歩いて、自分達の座るべき場所に連れて行ってくれたのです。……ありがとう、よっちゃん。お世話になります…。
走り終えた生徒から、到着順に1位ならば1番の旗の列に座る、という風にして、自分の順位と同じ番号の旗に、順に並んで座って行く。よっちゃんが私を連れて来た場所は、何と6番の旗の列であった。驚きすぎた私は、目が飛び出しそうなぐらいに驚き、元気を取り戻したかの如く、大きな声が出てしまいましたわ。
「……えっ!! 」
「そうだよ。6位だったんだよ。よく頑張ったよね、未香子ちゃん。」
「…えっ、私……。本当に……6位…?」
「うん。クラスの皆も応援していたからね。本当だよ。」
「そうそう。私達も応援していましたわ。とっても頑張りましたよね!」
未だに呆然としている私に、よっちゃんが満面の笑顔で褒めてくれている。
それでも…このようなことは初めてで、自分でも信じられなくて。喜びよりも驚きの方が勝っていた。自分が6位?と呟く私に、よっちゃんもクラスメイトの女子生徒達も、応援していたと言ってくれて。そこでハッとした私は、7番と8番の列をチラッと振り返り、見覚えのない生徒2人が既に座っているのを、確認する。
見覚えのない生徒だということは、外部生ということよね?……なるほど…ね。
偶々…外部生の中に、私より遅い生徒がいたのですね?…万年最後の私に負けるとは、何だかお気の毒のような、悪い事をしたような、そんな気分にもなる。
これは決して私が頑張った、というだけではなさそうで。ですから、この場ではクラスの皆さんには、「応援ありがとう。」と言うだけに留めましたのよ。
私が走った後、暫くして萌々花さんが走っていた。陸上部である彼女は、当然とでも言う雰囲気で、断トツの1位であった。夕月と同じ組み合わせになっていましたら、どちらが勝ったかしら?と思うぐらいには、彼女は速かった。それでも、私は夕月がどれだけ速いのか、身をもって知っているのです。いくら萌々花さんが陸上部現役だとしましても、夕月には勝てないと思いましてよ。
その肝心の夕月の番が、やって参りました。今までクラスメイトしか応援していなかった女子達も、一斉に「北岡く~ん!頑張って!」と応援し出している。
…う~ん。夕月と一緒に走るメンバーは、お気の毒ですわね……。本来ならば、クラスメイトから応援してもらえる筈でしたのに、夕月と一緒に走るという弊害で、女子達のクラスメイトの応援が、二の次になっているのであった。
パンと音が鳴り響き、夕月達走者が一斉に走り出した。最終走者でもある為、応援にも熱気が混ざっている。但し、夕月を応援している人が、圧倒的ですけれど…。
夕月は、あっという間に1位に躍り出て、ぶっちぎりの速さでもって、2位との差をドンドンと広げて行く。私とは…雲泥の差よね。比べる事態がおかしいけれど。
夕月の後を追っている現在2位の女子は、確かこの学苑には運動部への推薦入学をしたという外部生であり、運動が得意の女子生徒らしかった。中等部までは一度も誰かに負けたことがなかった、というお話を、萌々花さんから先日聞いたばかりである。その彼女は、陸上部ではなく他の運動部所属で、他の部の助っ人として陸上の大会にも、よく出場していたらしくて、萌々花さんとお互いに顔見知りだった、と萌々花さん本人から聞いている。
そういう経歴の彼女も、簡単に差を広げられて行き、結局夕月が1位でゴールしている。お陰様で、他の女子生徒達は大盛り上がりであった。もう、あちらこちらから「きゃあきゃあ」と、大騒ぎする声が聞こえてくるほどに…。今走ったばかりの夕月は、全く息も乱さず涼し気な表情であった。ふと萌々花さんに目を遣ると、彼女は目をキラキラ輝かせていて、夕月を一心に見つめていたのだ。ちょっと怖い。
「凄い!めちゃ、速!陸上部に欲しい。」と、ぶつぶつ呟いていて。
そうですよね。陸上部でもないのに、あんなにも速いのは…反則ですわよね。
陸上部に迎えたくなるその気持ち…分かります。それでも、何故か今までに、運動部から夕月がオファーを受けたことは、ないと思う。多分…それには、夕月の男装を見たいという…複雑な心理が、含まれている気が致します……。女子が男装の麗人に憧れるのは、当然ですもの。その男装の麗人が、男子より半端なくカッコイイとなれば、余計にですわよね?
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例の外部生は3位を引き離していたので、間違いなく速いと思う。「中々いい勝負だったよ。」と、夕月が彼女を褒め称えるように、右手を出す。自分より速い女子が居たことに、純粋に驚いていた様子の彼女も、同じく右手を出し、「完敗でした。」と言って握手する。この様子を見ていた生徒達が拍手をすれば、運動場の席にいる生徒達全員も、拍手喝采であった。お見事でした。夕月に認められたのですから、あなたは十分速いのですよ。
その後、自分の出番が来るまでは、自分達のクラス席での応援となっている。
ブラスバンドなど部活の活動がある生徒は、席を外したりしていた。
隣のクラス席は1年Bクラスで、「俺も1位だったんだぜ。」と、飛野君が夕月に話し掛けている。…ドン引き。毎年、運動会の度に同じセリフとは…情けない。
萌々花さんのクラスとは離れている為、態々Aクラス席まで来てまで、彼女は話し掛けては来ない。しかし、後ろ側を歩いて行く序でにと、夕月を背後から眺めて行く、女子生徒達はいた。学年問わずに、中には男子生徒も混じっていたし…。
このような機会でもなければ、上級生が1年生徒に近づく機会もないだろうし…。
クラスTシャツのお陰もあって、私達のクラスも勿論、特に夕月は目立っているであろう。あれほど芸術作品的なTシャツは、他には…見掛けない。1年の他のクラスTシャツは、シンプルなものが多かった。初めてで分からなかったのか、クラス名と苗字がデカデカと記載されただけの、所謂ゼッケン風Tシャツのクラスもあったわね。私達のクラスTシャツを見て、相当驚いていましたわね…。
夕月のTシャツを見た途端、「ええ!凄い。ああいう作品もOKなんだね。」と、目を皿のようにして見つめていた。夕月のあれは…例外です…。ああいうものは、普通の素人では描けない作品である。美術部員でさえ、あの絵を見て感心していましたもの。しかし、私達のクラスだけは、どこに居ても目立ってくれるので、応援し甲斐もありますし、合流しやすくて便利ですわね。
クラス全員のTシャツに描き添える作業には、当人はハードでしたでしょうが…。
…ふふふ。応援する為だったと思えば、結果オーライだったと思いましてよ。
体育祭の当日のお話です。時期的には9月末~10月初め頃でしょうか?
筆者的には、一応9月末として考えて作成しています。(時期は明確にしない。)
その方が、お祭りとか色々な行事と区別して書けて、楽しいかと。
体育祭のお話は、暫く続く予定です。




