77話 体育祭前日
今回も、いつも通り、未香子視点となります。
今回は、体育祭前日のお話になっています。いつもより、ちょっと長めのお話になってしまいました。
学校によって、体育祭も異なっていると思いますが、この学苑らしい行事にしたいなあ、と思って書いています。
その後も、萌々花さんは何かと、私達に話し掛けて来る。猪突猛進ですね…。
周りの人達は、どこか興味津々という感じではあるけれど、見守ってはくれていた。萌々花さんは一応、北岡君の恩人でもあるということで、皆も無下な反応が出来ないところなのでしょう。
萌々花さんと特に仲が良い、郁さん達クラスメイトでさえ、何も話し掛けて来ないどころか、部活に顔を出しても、明らかにこの話を避けている節がある。
…う~む。私達は…、特に私は、どう思われているのかしら?郁さんに直接聞いてみたい気もするけれども、そんな勇気は…ないのよね…。
飛野君達も、一応は見守る様子である。飛野君自身も、私との話し合い(あれは、私を励ましてくれたの?)で納得出来た様子で、明らかに邪魔をする気はないようである。…そうだよね?まだ…肝心の萌々花さんが、どういう気持ちでいるのか、という本心が全く掴めていないのだから…。
要は、萌々花さん次第では、私も打つ手が変わってくるのである。
今日は、午後からは授業がない。と言っても、通常授業がないというお話で、簡単に説明をするならば、明日の体育祭の準備をする為の時間なのである。
以前から少しずつ準備を行っていたけれど、やはり前日にしか出来ないこともあったりで、今日の授業は午前中だけとなっていた。今日は競技の練習はなく、クラスの応援の為の小道具を用意したりで、皆がパタパタしている。
運動場では、体育委員や生徒会の生徒達が、司令塔とも言えるテントを組み立てたり、運動場にラインを引いたり、と忙しそうである。体育祭の準備側での参加となる部も、今は準備に追われている筈である。うちの部も同様なのですが、私達演技組の部員は、今回は出番がありませんわ。…というより、体育祭での活躍を記録される立場なのです。
プライベート的な部員の様子を撮る、という趣旨でしたから、明日は始終気を付けましょうか?…トンデモナイところを撮影されそうで、怖いです…。
何でも、観客たる生徒達から、そういうプライベートな部分も見たいと、多数の要望があったそうでして。…う~む。主に…北岡君のでしょうが…。
まあ…確かに、言いたいことは分かりますわ。クラスメイトならいざ知らず、クラスや学年が違えば、夕月に接点がない限りは、近寄ることも困難ですからね。
先日、ファンクラブ会長からお話を聞きましたが、本人公認のファンクラブということもあって、会員の人数が鰻上りなのですって。新たな会員の中には、外部生も含まれているようなのです。ふふっ。夕月の人気は、半端ではないですわね。
そして、今回、会長から初めて聞かされて知ったことなのですが、ファンクラブ会員の中には、『北岡君のお相手に相応しいのは誰か』と言う名目で、意見が対立しているらしく。ファンクラブ内にも、幾つかのグループに分かれているみたい。
まず、その相手で一番多いのが、九条派(つまり私ね)の派閥グループなのです。
…まあ!皆さんが、応援して下さっているのね?とっても嬉しいですわ。
皆さんに公認として頂けるとは、夢にも思ってませんでしたことよ?
感動して、つい…ウルウルしてしまいそうです…。
仕切り直しまして、次に多いお相手になるのが、何と飛野君の派閥グループでしたのよ!…彼を応援する女生徒も、多いのね…。まあ、あれだけ態度に出ていれば、皆さん…ご存じでしょうからね。多分、この学苑の女子生徒だけではなく、恋愛に鈍い男子生徒でさえ、ほぼ全員と言うくらい、理解しているのではないかしら?
知らぬは…本人ばかりなり……。同情票も…入っていそうですものね?
ワンコ系キャラとして、つい応援したくなるのかもしれませんね?
3番目と4番目の派閥グループは、ほぼ均等であるらしく、人数も変化するようです。これに該当するのが、木島君と新生・萌々花さんなのでして…。木島君は、婚約者も決まったお相手もいないから、理解出来ますわ。萌々花さんは最近、急激に支持者が増えて来た模様ですの。北岡君に相応しいという理由としては、単に、お相手として相応しいかどうかということ、その一択で選択されているようです。
そういう事でしたら、私も理解出来ますわ。確かに、単に横に並べば絵になりそうな人ばかり、選ばれていますもの。でも飛野君・木島君に関しては、本命にはなりそうもないですから、私も気楽にしていられるのですわ。飛野君は完全な片思い、木島君は夕月に恋していないようですし…。夕月の2人へのあの態度は、どちらかと言えば、男友達として扱っていますもの。あれは、男女を越えた友情というものでしょう。
そして最後の派閥グループは、北岡君が誰にも靡かないというもので、簡潔に言いますと、北岡君のお相手は誰も居ない、と考えなのです。つまりは、北岡君が誰とも恋仲になってほしくない、という自分達の意志が入っていますよね。…う~ん。このグループが一番、自分の本心に一途なんだと思います。…痛いほど分かりますわ、その気持ち…。私だって、彼女達の立場でしたら、そう思いますもの…。
かと言って、今の私は、夕月を諦めたりしませんので。
…ご期待には、添えそうにありませんわね?
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今現在、私達のクラスでは、応援用の旗を作ったり、お揃いのTシャツを用意したりと、小道具作りに励んでいる。多分、他のクラスでも同様でしょうね。
この学苑では、体育祭の当日は体操着ではなく、クラスで用意したTシャツを着用して、参加する。体操着は、制服と同じように凝ったデザインとなっており、素材も高級な生地を使用しているので、割と高価なのですわ。
練習時はそれほど汚れなくても、体育祭当日は白熱する為、球技大会よりも汚れてしまったり、あるいは破れてしまったりするらしい…。他所の高校で応援Tシャツを作成していると、外部生が提案したことで、何年か前からか、体育祭当日はそういう仕組みになっている。内部生は、また購入すればいいと思うかもしれないけれども、外部生には、あのお値段はキツイですよね?
では、体操服の着用はなしとしましょうと、生徒全員が自分達でTシャツを作ることとなったものの、市販の真っ白いTシャツに、自分達で絵柄や文字を描くだけ、という実に簡単な作製である。それでも、自分達でデザインするのも、案外楽しいと沸き立っていますわ。絵柄や文字には、各クラスの共通点を持たすこと、という唯一の条件を満たせば、何を描いても良いのです。
私達のクラスは、『Aクラス』の『A』が入っていればOK、という『A』の文字を使った絵柄にしようと、決定した。今は、各々が自分の好みに合わせた絵柄を、描いていた。『A』の文字に装飾したシンプルなデザイン、を描いた男子生徒もいれば、『A』と書かれた旗を持った人物のデザイン、など凝った絵柄を描いている、女子生徒もいたりする。
私は、絵は得意な方ですから、自分でも何とか上手く仕上がったと思いましてよ。描き終えた私は、こっそり夕月の作品を覗きに行く。夕月は、他の皆から少し離れた場所の壁際の片隅で、1人で真剣に描いていた。夕月は、何かに集中するタイプですから、こういう時は皆とは一線を画して、1人で作業することが多い。
その事をよく知っている内部生達は、誰も声を掛けないのであった。
でも、私は…別なのですわ。私が覗きに行っても、「仕方がないなぁ。」で終わるもの。私は、夕月の真後ろに立ち、そっと背後から覗き込んで…。夕月は『A』の文字を装飾させたシンプルなものに、その周りを綺麗なお花の絵柄で、丁寧に繊細な装飾を描いていた。
「…わあ~。…綺麗……。」
思わず…私の声が漏れてしまう。色遣いも絵柄も色取り取りで、女性が好む華やかなデザインが描かれていた。よく見れば、文字の装飾に、色や形の異なるお花だけではなく、小鳥の姿も描かれている。これは、遠くから見掛けても、夕月が居る、と一目で分かりそうな程の華美な作品であった。そうは言っても、決して派手なものではなく…。飽く迄も、人目を引くという華やかさなのである。
私の声が聞こえている筈なのに、夕月は全く手の動きを止めず、真剣に細かい装飾を施していく。もう殆ど完成していると言っても良いのに、まだ手を休めない。
あまりにも細かい細工に、私は暫く見とれていた。周りの女子生徒達も、私の声に気が付いているけれど、夕月が作製途中に覗かれるのを嫌がる為、聞き耳を立てているご様子でして…。皆さん、夕月の作品、気になりますよね?
「………。未香子は…仕方ない子だね?…もう少しだけ、待っていてくれる?」
「…ううん。私こそ…邪魔してごめんなさい…。」
私には物凄く甘い夕月は、まだ真剣に描きながらも、全く後ろを振り返らずに、話し掛けて来る。私が毎回、こうやって邪魔をしているというのに、その度に、後ろを振り返りはしないものの、必ず気遣ってくれている。これが他の生徒だったら、「出来上がるまで、誰にも見られたくないんだよね?…邪魔しないで…くれないかな?」と、静かな…お怒りモードへと変貌するのにね?
いつもは女子には優しい夕月ですが、この時ばかりは「私の後ろに立つな!私の邪魔をするな!」という雰囲気を出して、冷徹で手厳しい声が飛んで来るのです。
教師と言えども、後ろに立たれるとお怒りモードに…。ですから、美術教師でさえも完成するまでは、夕月には近づかないぐらいなのですよ…。
それなのに、私だけは毎回後ろから覗くものだから、当初は皆に驚かれたのよね。私は今まで、一度も起こられたことはない。…まあ、半分は呆れられてはいるみたいですが…。その程度かしら…。夕月がお怒りモードになった時は、私も驚きましてよ。夕月曰く、「未香子は、注意したって無駄だしね。」とのこと…。
一体…どういう意味なのかしらね?…もしかして…思いっきり、呆れられている?
「…ふう~。やっと完成した…。未香子、お待たせ。」
「…おおっ!スゲ~!まるで…芸術作品みたいだな…。」
「きゃあ!北岡君のTシャツ、とっても綺麗だわ!…もし…これが売り物ならば、私も…買いたいぐらいですわ~。」
夕月が完成したと話した途端に、クラスの生徒達全員がわらわらと集まって来る。
皆が口々に褒めちぎる中で、1人の女子生徒が「欲しい」と呟くと、他の生徒達も口々に欲しいと言い出した。何故か…男子達も。…う~ん。確かに女子でなくても、欲しくなるかも……。もう既に、唯のTシャツには…見えませんものね?
「…うん?…これは、私が着る為に力作したTシャツなんだけど…な。誰にも…あげられないよ?」
夕月は困ったような表情で、欲しいと言うクラスメイトの言葉に、首を傾げながらもそう答える。…いや、それよりも、終了した後だとしても、1枚しかないのだから、無理だよね!…その結果、クラス全員のTシャツに、皆の描いたデザイン画に夕月の絵を添える、という形で夕月が少し描き添えて、事なきを得たのでした。
勿論、私も描き添えてもらったわ。1番大きく描いてもらえたのよ。…うふふふ。
「未香子には特別に、大きく描き添えておくことにしたよ。その方が、どこに居たとしても(私が)、見つけやすいだろうからね。」
お話の内容的には、前回から数日経っている設定です。
萌々香のアタック攻撃は、毎日のように続いているようです。
ファンクラブの会員の件は、今は5つのグループに分かれていますが、今後変化があるかもしれませんね。
クラスTシャツに、自分で絵や文字を描くという設定にしました。(特別なインクを使用しています。お金持ち学校なので、そういう備品は学苑側が用意します。)
結局は、夕月が、皆にワンポイントを1つずつ、描き添えることになりました。
モテる人は、本当に大変ですよね?