76話 意外な援護射撃
今回も、いつも通り、未香子視点となります。
但し、最後の3人のセリフの部分のみは、第三者視点となっていますが。
彼女が話を聞いていなかった、という設定なので…。
朝の通学時は、萌々花さんに、何かと振り回された感が否めなかったのですが、その後は普段通りに過ごしていた、私達である。今日も授業終了後に、競技の練習があり、夕月と萌々花さんは、別のチームで練習をしていたので、今日は殆どお話が出来なかったに違いない。
「昨日、北岡君に何か問題が起こって…悩んでいたそうですわね?それをEクラスの菅さんが、手助けされたそうなのよ。…私もお助けしたかったわ。」
「私もその話、聞いたわ。それで、あんなに急接近されましたのね。羨ましいお話ですこと……。」
「でも、北岡君に…何か問題が起こったなんて……。心配ですわよね…?もう…大丈夫なのかしら?」
「本当に……。お気の毒だわ、…北岡君。」
「悩ましげな北岡君…。私も……手助けしたかったわ~。」
…はあぁ~。そう言っては一斉に、溜息を吐く女子生徒達。昨日の部活後から今日の午前中には、全校生徒が知る勢いで、あっという間に広まっていた。
もう既に…このお話を知らない生徒は、誰1人として居ないのではないかしら…?
私も…溜息を吐きたい気分である。…う~ん。夕月が助けた事実よりも、夕月を助けたという事実の方が、生徒達の印象がいいと踏んだのでしょうけれど……。
私の気持ちとしては、微妙であった。完璧無双の夕月が、何か悩んでいたというところまでは、いいのよ。いや、悩んでいるのは…良くないのですけれど。
…悩みがあるのならば、私に話してほしいの。……って、これも違いましてよ。
今は…そういうお話ではなくて。
つまり、何が言いたいのかと言えば、何でも出来る夕月が、人に助けてもらうなどとは…有り得ないことですのよ!助けたのが萌々花さんというのも、正直言って、無理があるお話だと思いますのよ?私も人のことは言えない立場ですが、萌々香さんって案外、ドジっ子なんですもの…。
でも皆さん、事実を知らない生徒達は、疑問にも思っていないようですのね?
部活に行った時も、部員の皆さんまで信じていたくらいでして。…う~ん。
それでも…私は、複雑な心境なのよね。生徒の皆さんの夕月に対するイメージが、崩れそうな感じで…。まあ、実際には、人間味を感じられていましたが……。
…どちらかと言えば、夕月でも片づけられない悩みを、萌々花さんが簡単に解決したというのも、私には気に入らない訳なのですが…。誰でも、夕月の悩みが解決出来そうだと思われては、心外なのです!実際に、そう思う女子が多数いましたし。
単に…悩ましげな夕月の姿が、見たかっただけではないかしら?好きな人の弱っている姿は、女子には大好物ですものね?…私が守ってあげたいって、思ってしまう憧れのシチュエーションなのですもの。
実際の夕月には、悩む様子は見せてもらえないのですが、シュンと落ち込んだ表情をされたりすると、胸がキュンと疼いたりしますのよ。それが、私が関係していると思うと、不謹慎ですけれど、私の為にと考えてしまい、何処かで気分が高揚している自分がいたりする。…ふふふふっ。
好きな人が、自分のことで心が絞められている様子に、悪いと思いながらも逆に、嬉しくも思っているのよね?……ふふふっ。女心は複雑なのですわ。
女心と秋の空…と言った感じでしょうね?
兎に角、夕月の思惑通りに、萌々花さんへの批判する気持ちは、すっかり消えたようですわね?…その代わりに、萌々花さんを羨ましがる内容となっていた。
皆さん、本当に北岡君の悩みの内容に、御執心なのですわね?もしかして…こうなることを、狙っていたのでしょうか?…まあ、夕月でしたら、有り得ますわね?
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部室でいつも通り、舞台用のお芝居の練習をして、夕月が部長に呼ばれて奥の部屋に行った隙に、飛野君が何故か私にこっそりと手招きして来た。……珍しい。
夕月が居ない時には、声を掛けて来ないのに。況してや、私を呼び寄せるような態度を取るなんて……。不思議に感じながらも、飛野君の近くに寄って行くと、飛野君が意外なことを話して来たのである。
「…九条、あのさ…。…もしかして、あの女に…北岡を盗られたりした?」
「……はあ!?………あの女…?」
…あの女って、誰のことだろうか?…夕月を盗られたとは…どういう意味なの?!
私は…飛野君の真意が分からず、飛野君を睨み付けるかの如く、凝視し続けた。
対して飛野君は、ふざけた様子は一切なく、真剣な表情である。寧ろ、真剣過ぎて、怒りのオーラの雰囲気を纏っている?……はて?何を言いたいのでしょう?
「…あの女だよ!今朝、北岡の横に、引っ付いていた女のことだよ!」
「……晶麻。彼女は…あの女じゃなくて、菅さん、だろ?この前、北岡から紹介されたよね?」
「……だから!…紹介されたことは、覚えてるけどさ!名前までは…一々覚えてないんだよ!」
飛野君が普段より低めの声で、なるべく声を押さえているからか、唸るような声で激高しているかのように言い放つ。…あの女って、もしかして…萌々花さん?
そう言おうとして口を開き掛けて…。近くで聞いていたのか、木島君が横入りするように、飛野君に話し掛けて来た。……やっぱり…飛野君…。あなた、萌々花さんの名前を、多分…顔も…憶えていないのね…。成績は…それほど悪くないのにね?
「……でっ!どうなんだ、九条?やっぱり、菅って女子に盗られたのか?」
「… ‼ …人聞きの悪いことを…言わないでくださる?…何故…そういう発想になったのか、知りませんけれども……。夕月は元々、誰のものでもないですわよ?
少なくとも…夕月は、私との約束を違えることは、絶対にないのですわ!私にしても、菅さんの思い通りに動くつもりなど、これっぽっちもありませんのよ。」
飛野君が不吉過ぎる内容を、改めて私に問い質して来たので、私もすっぱりと言い切ることにした。私は、萌々花さんに盗られた訳でもないし、盗られるつもりもないということを、はっきりと………。夕月にしても、今のところは静観していると思うし、菅さんに悪意が感じられない以上、急に態度を変えることは、優しい夕月には無理でしょうね。
夕月は今、私と菅さんとの板挟みにもなる、微妙な立場に立っている。他の女子生徒にも優しい夕月ならば、私達のどちらの見方をしたとしても、浮気したとか気が変わったとか、絶対に思われないだろう。けれども、私か萌々花さんか…どちらか一方が優位になれば、私と萌々花さんに関しては、悪女扱いされるかもね?
「…そうか。…そうだよな。俺…さあ。朝の通学時に…見掛けて、…北岡とあのお…菅…が、歩いているところを見たんだよな?…あまりにも楽しそうに、会話してたもんだから…さ、てっきり…そうなのかと思ったんだよ……。あいつが…九条を放って置く訳ないのに…、ちょっと心配になったんだよな……。」
「……。飛野君は…どうして…?あなたには…あまり関係ないことだと、思うのですが……?」
「…いや……だってさ。…今までは、九条がライバ……いや、……兎に角…やっぱり、北岡の隣は…九条の方がいい、と改めて思ったんだよ。今更…他のヤツがライ…になるなんて、嫌だしな……。」
「……はぁ??」
私の強い否定の言葉に、飛野君は何故か安心したようでして。私のことを、心配してくれていた様なのですが…。私を心配する理由が分からない。不思議に思いながらも、彼に理由を訊ねれば、これまた意外な返答が返って来て。
時々、何か誤魔化して話されても、…私、あなたの気持ちを知っていますからね?
…え~と、私をライバルとして見ていたから、夕月の隣に居るのは、改めて私がいいと思った、ということですか?……ごめんなさいね、飛野君。私…貴方のことは、ライバルとして、あまり意識していなかったみたいなの。抑々…夕月が、関心なさそうなのですもの……。夕月が本気で相手にしていないのならば、私もライバル視する必要はないか、って……。…飛野君って、案外良い人だったのね?
でも…あなたは、私をライバルの1人だと見ていたのね。軽く見ていて…ごめんなさい…。心の中で…謝って置きましょう。正直にお話すれば、飛野君のショックが大きいでしょうし…。自分がライバル視している相手から、ライバルだとも思われなかったとは…。然も、恋する相手からも、歯牙にも掛けていないと知れば…。
私は…立ち直れない。飛野君も…そうでしょうね…?
今更、他の奴がどうのこうの、という部分は…何だったのかしら?…嫌だとか言っていたけれども、どういう意味なのかしら…?その辺りは、はっきり聞こえなかったのよね?…何のことなのかよく分からないけれど、下手に訊き返さない方が良いわよね?首を傾げて考え込んでいた私は、男子3人がすぐ傍で話している会話を、全く聞いていなかった。何か話しているぐらいの認識である。
光輝 「…晶麻…お前。九条を励まそうとして、お前の方が同情されていたぞ。」
晶麻 「…えっ!?……はあ?!…何でだよ!」
柊弥 「…くくっ。そうだよな?お前の態度は、分かりやす過ぎるからなあ。」
晶麻 「…なっ!……何がだよ?!……柊弥…笑うな!」
光輝 「まあ、まあ…落ち着け。…これにめげずに、頑張れよ…晶麻。」
柊弥 「そうそう…。望みは捨てない限り、希望はあるからさ。」
晶麻 「……お前ら。ぜって~に、俺を揶揄っている…だけだろ…!」
今回は前回の内容と続きとなり、同じ日の出来事となります。
早速、萌々花のお友達攻撃が始まっており、未香子だけではなく、イケメン3人組(特に晶麻)も戸惑っている状況です。
男子3人の会話は、オマケ要素で作製しました。いつも一緒に登場する光輝の出番がなかった為、こういう場面があったとして、追加した次第です。
この会話でも、不憫な晶麻君ということで…。




