75話 三角関係の始まり
今回も、いつも通り、未香子視点となります。
副タイトルには「三角関係」となっていますが、未香子からの観点から言えば、そうなると思います。
昨日は、夕月が私の自宅にお泊りして、朝食は私達家族と一緒に食べましたの。久しぶりに、一緒に朝食を食べることが出来て、嬉しかったですわ。うふふっ。
うちの父と母も、夕月のことを、自分の娘のように可愛がっておりますのよ。
この前の遊園地や水族館に出掛けた時のことなど、うちの母からは根掘り葉掘り、訊かれていまして、夕月にしては珍しく狼狽えていましたわね。うちの両親に色々と質問攻めにあり、夕月も困惑しておりましたのよ。流石の夕月も…うちの両親には、弱いようなのですわ。ふふっ。このような身近な夕月を見れるのも、幼馴染の特権なのですよね。
それから一度、夕月は隣の自宅に帰って、登校する用意を済ませてから、また私を迎えに来てくれて。本当に、夕月はよく気が付きますのよね。
そんな気持ちのいい朝でしたのに、学苑に通学する生徒が並んでいるバス停で、ばったりと萌々花さんと出会ってしまった。バス停では、萌々花さんの方が先に並んでいたのに、バスに乗り込んだ後、私達の座席の前に、態々…移動して来て。
私は…避けようとしましたのに。夕月が…折角避けてくれたというのに。
先程、バス停に着いた時点で、皆さんに「おはよう。」と挨拶もしていたのに。
どうしても…私達というか、夕月に…話し掛けたかったのでしょうね?
「おはよう!北岡君、九条さん。」
「おはよう、萌々。今朝は、いつもより少し遅いんだね。今日は朝練ないの?」
「…おはようございます。菅さん…。」
昨日の今日ですのに…然も早朝から、萌々花さんが、宣言通りに突撃して来ましたわね?…いつもでしたら「北岡君、おはよう。あっ、九条さんもおはよう。」と、私には序でいうか、今気づいたというか、といった感じですのに……。
流石に…朝からは会いたくなかった、というのが私の気持ちでしたの。挨拶されて無視する程、私も身勝手ではないから、表面上は何もない風を装っているけれど。
「そうなの。今日の朝練は、お休みなんだよ。授業後に体育祭の練習あるよね?北岡君、今日もよろしくね。」
「こちらこそ…って言っても良いけど、君とはチームが違うからね?」
「あっ、そうだった!…そう言えば、組んだチームは違っていたんだよね…。あっ、そう言えば、…九条さんは、何の種目に出るの?」
夕月が、萌々花さんの朝練がないことに、気が付いてからは、萌々花さんは応えるように話し出し、いつものように2人で盛り上がっている。…むむっ!私の目の前で、2人だけでの会話をしないでほしいわ…。その想いが通じたのか、萌々花さんが私の方を向き、私にも話し掛けて来たのだ。…うっ。…そういうことですのね?
…無理にでも、私に…話を振って来ましたわね。
「……私は…借り物競争に出場しますの。」
「へえ~。借り物競争かあ。面白そうだね?私は陸上部だからって、リレーに選ばれてしまったから、自分で競技が選べなかったんだよね~。一体、何のお題が出されるんだろう?」
「上級生に訊いた話だと、稀に、生徒が誰も借りられないような難題も、あるみたいだよ。」
「…えっ!?もし…そうなったら、どうするの?失格になったりするの?」
「…う~ん。よく分からないけど、そういう時は代替でもOKらしいよ。」
「?…代替?それって…、どういう意味?」
「私も、これ以上は詳しく聞いていないから、よく分からないんだよ。」
私が借り物競争に出場するとお話すれば、萌々花さんは興味津々な様子で、その借り物のお題が気になるようであった。夕月は先日、部活の先輩から教えてもらったばかりのお話を、彼女に教えている。しかし、代替でも可能という説明には、意味不明だというように、頭にクエスチョンマークがついた状態を、私が想像してしまいそうな表情で、彼女は首をしきりに捻っている。まあ、そうですわね。
私も初めてお聞きした時は、同じように首を傾げていましたもの。
先輩方は、何故か苦笑しながらも、これ以上は教えて下さらないのです。
担任の本田先生にもお伺いしたところ、「当日のお楽しみだ。」と仰って、教えて下さらなかったし……。「時には、何も知らない方が、より楽しめるわよ?」と、赤羽根部長も同じく。一体…何が用意されているのでしょう?…何だか不安が。
代替で良いとは、どういう意味なのでしょうね?…本当に意味不明です。
その程度は、どなたか教えてくださっても良いですのに…。
「それを説明してしまえば、勘が良い人ならバレてしまうのよね。」と、部長談なのですが、私は勘が良くないので、ヒントぐらいは教えてほしいのですわ…。
私は…とんでもない物を、選んでしまったのかしら?…嫌な予感がしてならない。私のこういう時の勘は……よく当たるのです。
もしかして…大好きな人とか、書いてあるのでしょうか?
それでしたら、私なら許容範囲なのですが。まあ…他の方には、キツイかも……。
恋人や婚約者がいる方は良しとして、片思いの方には、全校生徒の前で告白をしているようなものですね?もし、断られたらと思うと…困りますよね?
全校生徒に知れ渡ってしまいますもの。しかし、代替出来ませんよね?
…むむむっ。…やっぱり分かりませんわね。
ふと周りを見回すと、同じバスに乗っている生徒達が、チラチラとこちらを伺っていることに、私は気が付く。そうなのですわ。昨日訊いたお話の通り、私達はいつもより、注目されていますのね?
夕月は当然、気が付いていますわね?…全く気にしていないようですが。
萌々花さんは…きっと気が付いていないでしょうね。案外…鈍いみたいね。
夕月が、そそっかしい人だとは思っている通り、かなりマイペースな人である。
私は…こういう視線には敏感ですから、この鈍感さは…信じられませんわね。
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学苑に到着してからも、萌々花さんはずっと一緒で、校舎内でも目立ってしまっていた。いつもは私と夕月が、横に並んで登校しているのに、今のその私の位置には、萌々花さんが歩いている。私はと言えば、夕月の真後ろに隠れるように歩いていた。前方から来る生徒達は、夕月と萌々花さんの2人が並んで登校する姿に、怪訝な表情をしていた。夕月達とすれ違った後に、初めて私の姿が見えるようになって、私を見つけた途端に、ギョッとした顔をして見つめてくる。
…何でしょうか、この態度は?…私が居ないとでも、お思いなのかしら?
私が大人しく、夕月の後ろを歩いていることが、驚かれているのかしらね?
前を歩く2人は時折、私を気にしているというように振り返り、萌々花さんは私ともお話をしようとして、色々と話題を振って来たりして。そうは言っても、今の2人の話題は、体育祭の競技でのお話から、萌々花さんのバイト先でのお話に移っている。私にも共通する話題もあり、訊かれたことには一通り応えていた。
しかし、私には、彼女と会話する気がないこともあり、その後のお話が続かずに、結果的には、夕月と萌々花さんの2人で、会話しているようなものである。
ただ、その3人での会話が、短いものであったとしても、その状況に周りがギョッとしたり、ザワッとしたりするのは、どういうことなのかしらね?
3人で居ることが注目されるのは、仕方ない。しかし、これは…どういう状況なのでしょうか?訳が…分からない。
自分のクラスに行く萌々花さんと、やっと分かれられたと思いながら、夕月と2人で教室に入って行くと、一瞬だけザワッとした雰囲気が起こって…。
…あれっ?…Aクラスの生徒まで、様子がおかしいとは……。しかし、ケーちゃん達がいつものように、「おはよう!北岡君、未香子ちゃん。」と挨拶してくれた後は、クラスの雰囲気も、いつものように戻ったのであった。何だったのでしょう?
夕月は、何も気にしていない様子であった。夕月が、気にする素振りもないのでしたら、私も…気にしない方がいいですわね。私が…気にし過ぎなのかもしれませんが、…こういう時こそ、ケーちゃん達にコソッと訊ける勇気があれば、私も不安がなくなるのでしょうね?…何だか気分が…モヤっと致します。
萌々花さんは、一体、何をしたいのかしら?本当に、私とも本心から仲良くなろうと思っているのかしら?私が…夕月の身内ならば、仲良くする価値もあるでしょうに……。私は、ただの幼馴染ですのに。
夕月は、どちらか一方を優先するならば、私を優先することがあっても、萌々花さんを優先することは、ないでしょうね。私と夕月は、ある事件の後に、ある約束をしているのですもの。夕月は、何があっても、私を1番に守るという約束を。
絶対に…私との約束を違えることは、ないでしょう。
私と仲良くしたいならば、そういうことも受け入れなければならない。
萌々花さんが、それを受け入れられないのなら、夕月も、彼女を本気で受け止めることはない。私と夕月は、あの約束だけで縛られているのではなく、今までずっとお互いに、心が繋がる努力をして来たのです。ですから、特別大事な人=恋人、ではなくとも…。私と夕月との関係は…何があっても変わらない。
これは…例え、あなたが恋人の立場になったとしても、変わらない。……永遠に。
それでも…私と仲良くなりたいと思うのかしら?…ねえ、萌々花さん?
前回の後書きで、『三角関係以上』として記載してますが、未香子からは晶麻はライバルだと思われていない模様です。可哀そうに…。
ですから、三角関係の3人は、夕月、未香子、萌々花という女子ばかりですね。
男子諸君!もっと頑張って‼




