73話 あの時の真実
いつも通り、未香子視点となります。
今後、どうしようかと悩んだ結果、こういう流れになりました。
夕月が部室に現れてから、30分ほどで部活は終了となる。元々、体育祭の練習の為に、部活の時間が短くなっていた。あの後、夕月の許には、飛野君が突進して来て、「今まで、何してたんだよ!」と…物凄い剣幕でした。そんなに…心配されたのですか?
木島君と田尾君も苦笑して、飛野君を宥めに近づいて来る。
「まあまあ」とか「どうどう」とか、かなり適当に扱われてますが。
そして夕月には、「いつでも、相談しろよ。」と、木島君が話し掛ければ、「何かあれば、言ってくれ。力になる。」と、田尾君も話し掛けている。
それに対し、夕月は「ありがとう。心配掛けたみたいだね。」と、軽い感じで返答しつつ、飛野君の頭を撫でている。彼は…、お顔がうっとりと溶ろけるような表情になっておりますが、それって多分…ペット扱いされていますわね…。
今の状態の彼は、宛ら、猫みたいでして。木島君も田尾君も…呆れ果てていますわよ?…飛野君って、本当に分かりやす過ぎ…。
他の部員達も、夕月が遅れて来たのを不思議には思うものの、誰も何も訊いては来なかった。後片付けを終えた者から解散となり、私は夕月と一緒に部室を出る。
競技の練習後の夕月の行動を、夕月が何をしていたのかを、訊きたいと思った。
私には…訊く権利がありますわよね?
しかし、私達の後からすぐ、イケメン3人が一緒に部室から出て来て、後ろをピッタリくっ付いて歩いて来るのである。これには私も、少々イラっとしていた。
少しでも早く、夕月に問い質したいのに……。もう!何なのよ!邪魔しないで!
夕月も、飛野君達が、私達の後を付いて来ていることに、疾っくの昔に知っている癖に…。私のイライラが加速するのを見て、フッと笑って。
もう!私の気持ちにも、気付いているでしょう?何とかしてよ!夕月のバカ!
⦅…ウソ、ウソ!そんな風に思っていないわ!⦆
「何か…用?未香子の機嫌が悪くなるから、付いてくるのは、止めてくれる?」
「いや…北岡。…お前、今日、明らかにおかしいだろ?今まで部活に遅れることもなかったのに、何であんなに遅れたんだ?」
「そうだな。あの場では、納得した言葉を言うしかなかったからな。」
「そうだよ!俺、心配したんだぞ!話聞くまで、帰らないからな!」
夕月はピタリと立ち止まり、後ろを振り返らずに彼らに話し掛ける。…はあ?!
ちょっと待って…夕月。私の機嫌が悪くなるって…何?確かに…少しピリピリしていますが、私をダシにしないで!本当に…もう…!
私は、ぷくっと頬を膨らませている。その傍らで、木島君が、夕月に直接的な疑問をぶつけて、田尾君も納得していないことを、強調する。飛野君は、話聞くまで帰らないって、…まるで幼い子供みたいですわね?
まあ、私も、人のことは言えない立場なのですが…。
夕月は肩を竦めるようにして、ふうっと息を吐いてから、後ろを振り返る。
私も、同じく振り返って3人を見ると、3人の視線は、夕月の方を向いていた。
…う~ん。私の存在を忘れていませんか?
「…そんなに訊きたいのなら、話しても良いよ。中途半端な気持ちならば、訊かない方がいい。」
「…分かった。じゃあ、俺の知っている店にでも、行こうか?…晶麻、光輝も、それでいいよな?」
「…ああ。僕はそれでいいよ。」
「俺も…いいよ。出来れば…甘味がある店がいい……。」
夕月と3人は…見つめ合うというより、お互いに牽制している雰囲気だった。
漸く夕月がフッと苦笑して、覚悟があるなら話す、という姿勢を見せて。
それに3人が応じて、木島君が、場所の提供をしてくれることになった。
彼自身や家族の行付けのお店のようである。
田尾君も飛野君も了承したのはいいのですが…。飛野君は、このような時にも食べ物の要求ですの?然も…甘味とは……。木島君も、目が半眼になっていますわね?しかし…。私には…誰も訊いてくださらないのね?…悲しいわ。
この中で、夕月だけが、私の方を振り返って訊いてくれる。
「未香子も…いいかな?帰るのが、少し遅くなるけど。」
「…うん。大丈夫。」
私も…出来れば、2人でお話したかったのよ。私側のお話も、聞いて欲しかった。まだ私が、保健室に行った話も報告していないもの…。
流石に彼らが居る場所では、私の話はしたくない。彼らに…私の気持ちを知られるのは、嫌なのです。
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私達はあの後、木島君が呼んだ乗用車に、5人一緒に乗り込んでいた。
木島家の専用運転手が、迎えに来てくれたので、木島君が助手席に、後ろ2列に、私と夕月、飛野君と田尾君の2名ずつに分かれて、座っている。これから、木島君お薦めの、落ち着いて内緒の話が出来るお店に、行くことになっていた。
学苑側も、生徒側に何か事情がある時には、車で帰宅することには、目を瞑ってくれている。それに一々監視している訳でもないので、偶にならば、大っぴらにしなければバレないのもある。それに、夕月がああいう言い方をした時は、重大な話という意味も含んでいるから、信頼の置けるかどうか、ハッキリ分かるお店でなければ、いけなかったのである。
私達はまだ学生なので、密談可能なそういうお店は、行き慣れてない。
夕月のお宅では特に、表向き一般人ですからね。普段は絶対利用しないだろう。
私は…両親にも兄にも、まだ早いと普段から利用することは、反対されておりますので、自分1人では利用不可能なのですわ。
木島君がお店を提案するなんて、以外でしたわ。彼のお宅は確か…ご両親が社長とか実業者ではなかった、と思っていましたが……。案外とお父様が、大会社にお勤めで、上役などの役職付きなのでしょうか?それいうことでしたら、こういうお店を知っていても、理解可能な範囲内ですわね。
そのお店は、そう堅苦しくない雰囲気の軽食店であった。本格的な料亭とかでなくて、ホッとする。それでも、既に予約してあるようで、奥の扉の先にあった、特別と思われる個室に通された。うん…十分特別扱いですわね。
私達5人はその個室に入り、先ずはメニュー表を見ながら、飲み物だけを注文することに。飛野君だけは、ちゃっかり甘味の食べ物を、注文していたわね…。
店員が出て行ってすぐにでも、話し始めるのかと思いましたが、何故か、体育祭の競技の話題になっている。自分は何の競技に参加するとか、今日の練習はきつかったとか、エトセトラ……。
その話題が終わる頃、先程の店員さんが、飲み物などを運んで来る。私達の前に配膳すると、店員は扉を閉めて戻って行き…。待っていましたとばかりに、夕月が唐突に、今日の競技練習中のお話から、語り始める。
同じ競技だった萌々花さんが、話し掛けて来てからのことを……。
時々、相槌を打つぐらいで、彼らも黙々と聞いている。私は途中からは、顔から血の気が引いていた。まさか…萌々花さんが虐めに遭うかもしれない、という内容になるとは…思っておらず……。真っ先に、中等部時代のことを、…酷い虐めを受けていた女子生徒のことを、思い出してしまう。
しかし、話が進むうちに、何だか…何かが違う感覚を感じていた。今、夕月が語っている萌々花さんの描写に、違和感を覚えていたので。それは、男子達も同じように受け止めているらしく、若干微妙な表情になっている。そして私は…夕月が語った内容に、衝撃を受けることになる。
「…それでね、萌々は…私とも未香子とも、仲良しになりたいそうだよ。」
「「「「………。」」」」
…はい?…何ですって?!…私とも仲良しになりたい?…私、耳がおかしくなったのかしら?…しかし、無情にも事実らしくて…。私に…ライバル宣言する気なの?夕月に気があるかもしれない女子と、本気で…私が仲良く出来るとお思いなの?!それとも…自覚していらっしゃらないの?!
男子3人が私の方に向き、何とも言えない表情を浮かべている。…止めて!
そのお顔は…絶対に同情してますわね?…同情は要りません!…特に…飛野君!
あなた、先程から、この深刻なお話の中で、1人だけ甘味を食べていた癖に、食べかけの状態のまま、私を見ないでくださる?!…彼には…同情されたくない。
まさか…夕月は、萌々花さんと仲良くしようとか、言いませんわよね?
私は、絶対に願い下げで・す・わ・よ。そういう意味を込めて、夕月を横からジッと見つめて。私の視線に気が付いた夕月は、くつくつ笑い出して…。
「…ふっははは。大丈夫。未香子が仲良く出来ないのは、分かっているからね。でも、それを萌々に説明しても、あの子は理解しないと思うよ。多分、彼女の中では、使命感みたいなものが、あるんじゃないかな?それに…自分が未香子と友達になれば、虐めもない筈という感じだったよ?まあ…元から、未香子とも仲良くなりたいと、思っていたみたいなんだよね。」
「…くくっ。随分と彼女は、前向きなんだね?真面目と言うか、馬鹿正直と言うか…。…北岡が、気に入っている筈だ。」
「…そうだな。まあ…これは、俺達じゃあ、逆に何も協力出来そうにないな。」
「うんにゃあ(=うん、そうだな)。それよりさあ、…萌々って…誰?」
夕月は、私が萌々花さんと仲良く出来ないことは、よ~く理解しているみたい。
木島君は反対に面白がり、田尾君は苦笑気味で、飛野君は…まだ食べていた。
萌々花さん。私、あなたの使命感は要りません!私とあなたが敵になるのは、分かり切っていますもの。夕月のライバルは、葉月だけで…結構でしてよ。
その葉月が…1番強敵なのですが……。
ところで…飛野君。…今頃ですか?もう何度かお会いして、名前も名乗った後なのですが…?…あなたはもう少し、視野を広げるべきだと思いますわよ?
恋のライバルは、自分と同性だけとは限りませんのよ?…お分かりになりまして?
前回までで終わったはずでしたが。同一日の話が続いています。多分、次回は続かない筈…。
心配したイケメン3人が、夕月に真実を迫り、未香子も真実を知ることとなりました。
未香子には内緒の話にしようと、思った時もあったのですが、結局この流れになってしまいました。
飛野君、マイペースです。ちょっと、天然入ってそうです。萌々花のこと、以前にお互いに紹介しているのに、忘れています。
多分、夕月以外は、全く目に入っていないのでしょう。筆者も、割と、お気に入りのキャラです。
※飛野君の最後のセリフは、食べながら話しています。はっきり喋れなかったとお考え下さい。




