番外 友達を守るために
以前の後書きでの予告通り、今回のお話は番外編です。前半・後半共に、とある人物視点となります。
内容的には、65話~70話の間の話になっています。要は、同一日です。
例の彼女達の集まる教室は、普段は使用されていない空き教室である。
いつもそこで活動しているのは、知っていた。だから、私は今、その空き教室に向かっている。彼女達の遣りそうなことは、大体は理解していた。
後は…私が許せる範囲の問題か、許せない範囲の問題か…であろう。
今の私は、少々気が立っているものだから、許せる範囲だと助かるが…。
今日は、体育祭の初の練習であった。私は、学年別リレーに出場することになったので、その集合場所に来ていた。因みに未香子は、借り物競争に出場することになり、すぐ隣の練習場所に居た。その場所から、未香子は私を睨みつけてくる。
…ふふふっ。未香子は、昔から運動会が大嫌いだったからなぁ。
当然、その練習も嫌っていたよね?
私が思わず、思い出し笑いをしてしまうものだから、未香子は拗ねたように顔を背ける。ふふっ…本当に可愛いったら。くすくす笑っていると、「あれ?北岡君も、学年別リレーに出場するの?」と、すぐ目の前から声を掛けられた。
誰かと思って顔を上げると、萌々であった。
萌々は嬉しそうに微笑んで、私の隣に腰を下ろす。本当はクラス別に座る筈だけど…、まあ、いいか。彼女とは気が合うし、話をしていても楽しいと思うから。
そのまま、2人で話し込んでいた。練習が始まるまで。時々、未香子に目を遣ったら、目を逸らされてしまったけどね…。もしかして、怒っているのかな?
…う~ん。何で怒っているか分からないけど、後でご機嫌を取っておこう。
練習が終了し、隣の練習場所を見ると、誰も居ない。いつもだったら、未香子は先に終わっていても、同じ場所で待っている筈なのに…。まだ…怒っているのかな?
少し前に片づけをしていたから、もしかしたら体育館倉庫の方かもしれないと思って、すぐにそちらに向かうことにした。
倉庫に行く途中で、1人の男子が突っ立っているのを見かけた。彼は…確かH組の外部生で、同じ映像部員だったっけ…。名前は…そう、箕村君だったな。
何をしているのかと思ったら、1人でブツブツと何かを呟いている。
その呟く内容に、私は、通り過ぎようとしていた足を止めて、立ち止まる。
「君…。何してるの、こんな場所で?君って、確か同じ部の箕村君だったよね?内部生が…どうかしたの?」
「…ああ。俺は、体育館倉庫に競技の道具を、返しに来たんだけど…。倉庫から出た丁度この場所に、数人の女子が集まっていて…。徒ならぬ雰囲気だったから、校舎の壁に隠れて聞いていたんだ。そしたら、…何だか物騒な事を話していたから、さ…。どうしようかと思って…。」
『物騒な事』という言葉で、私には思い当たることがあった。だから、彼から詳しく訊き出すことにしたのだ。彼の話では、外部生の誰かが呼びだされるかもしれない、という内容のようであった。それにも…バッチリと思い当たることがある。
今さっきの、萌々とのことだ。実は、周りの好奇な視線は、何となく感じていた。
だけど、萌々は、中等部の時代のあの子とは、性格が違っている。あの子はとても大人しく、自分が虐めを受けても、我慢するような少女であった。
それに対し、萌々は、自分の意見はきちんと話し、人の意見に左右されない意志の強い少女だと、私は思っている。
まだ短い付き合いではあるけれど、私は、こういう前向きで一生懸命な努力家の性格の人物に、惹かれてしまうようである。勿論、お友達としてではあるが。
萌々も、友達として好意を持ってくれていると思うのだけど、そうだよね?
でも、間違いなく目を付けられたのは、萌々であり、呼び出したのは、私のファンクラブ会員の生徒達であろう。まあ、彼女達なら、中等部の嫌な事件を覚えている筈である。あの首謀者達みたいな二の舞な事だけは、しないだろうと思うけど。
それでも…用心するに越したことはない。
空き教室には、まだ誰も居なかった。取り敢えずは、間に合ったようである。
様子を見る為、空き教室の隣の部屋に潜り込む。この部屋は、教室で使うものなどを仕舞って置く、書庫のような部屋だ。この部屋には、普段鍵が掛かっている。
でも、私には、何かの避難時に使用せよと、理事長自ら、鍵を手渡されていた。
これもそれも全て、私と未香子の為でもある。
私は、鍵を使って開錠し、この部屋の中に隠れていた。中からも鍵を閉めることが出来るので、当分は気付かれないだろう。実は、他にもこういう部屋が、幾つかあるんだよね。鍵を持てるのは、一部の教師と私だけで、異例の秘密事項である。
おっと…如何やら、待ち人が来たようだな。数人の足音が聞こえて来る。
その足音は、隣の教室の前で止まったようだ。隣の教室がこの校舎の一番端である為、間違いないだろう。私は扉に片耳を当て、耳を澄ませていた。
女子生徒らしき声が、微かに聞こえてくる。教室の戸が、ガラガラっと音を立てて開かれ、数秒後に締まる音がする。流石に、この部屋にこのまま居ても、隣の部屋までは声が聞こえて来ない為、部屋の外に出て鍵を再び閉めてから、隣の教室の前に移動する。そおっと近づき、戸をほんの少し開けて、声が漏れるようにする。
…これって、結構コツがいるんだよね。
後は彼女達に気が付かれないよう、中からも姿形が見えないように、窓の下に座り込んで聞くことにした。お陰で…彼女達の話は、全て聞くことが出来た。
どうやら、箕村君の勘違いというより、彼女達の言葉選びが悪かったのだろう、と思うのだが。…う~ん。あれでは…勘違いするかもね?
物騒な話は、その場限りの出来事で…良かったよ。
*************************
もう、大丈夫だな。そろそろ話が終わりそうなので、戸をそおっと全開していく。彼女達は私に全く気が付かず、まだ話を続けていた。そうして、戸を全開して凭れ掛かった時に、ふと聞こえた内容に…、私は思わず吹き出してしまった。
笑う筈ではなかったのに…。余りにも見当違いな、萌々の言葉に。
…予想外だったよ。萌々は…本当に面白いね?
「…ふっはははは。」
気が付いたら、私は大爆笑していた。お陰で彼女達は、漸く私の存在に気が付いたようだけど。いや…可笑し過ぎる。ファンクラブの会長と萌々の意見も、どこか噛み合ってないし…。萌々も、トンデモナイ事を言い出すし…。未香子と友達になるとか、簡単に言ってくれるし、で……。いや~…久しぶりに大笑いしたよ。
余りにも面白過ぎて、腹の皮が…捩れそうなんだけど、さあ………。
ファンクラブ会員達と萌々は、予期せぬ私の登場に、目が飛び出すかの如く面食らっていた。私側の事情が分かると、後は私に任せてくれることになり、彼女達は先に去って行った。その後は暫く、萌々と2人で話していると、窓の外に誰かがいるのに私は気が付いた。誰かと思ってそれとなく見れば、先程の事情を教えてくれることになった、箕村君であった。
私は、萌々との話を中断し、窓に近づいて話し掛ける。彼に、一瞬ビクッとされたのだが、まるで…私を怖がるような素振りである。…随分と……失礼だな!
か弱い女子に対して!…な~んてね。まぁ…先程の私の無表情な顔を、見られたのだろうな。それなら、仕方がない。あの顔は、未香子も怖がるほどだしね。
以前、葉月にも言われたことがあるからね。自分では違いが分からないんだが…。
兎に角、箕村君には口止めをする。昔の事件よりも今の事件の方が、誰でも興味津々だろうからね。萌々は大丈夫だとは思うけど、一応は保護をしないとね。
男子よりも女子の方が、悪質な虐めになりやすいのもあるからね。
萌々のヒーローになったかもしれない彼には、ちょっぴり酷な話だと思うけど。
まぁ…肝心の彼は、その事に気が付いてないようなのだが……。…鈍いね?
萌々も、お礼を言った方がいいのかと悩んでいたので、一応は知らないフリを勧めておいた。萌々も、箕村君の存在には、そんなに興味がないみたいなのかな?
…これは、私が完全に邪魔をしてしまった…かな?
まぁ、済んでしまったことは仕方がない。箕村君には、今後、自分の力で頑張ってもらうとしよう。
陸上部の野神部長が厳しいのは、中等部から有名な話であるし、私とも知り合いであったりする。実は…誰にも話していないのだが、彼とは遠縁に当たる関係だ。
苗字も異なるので、担任と同様に、誰にも気が付かれていない。
彼としても、私と親戚だと知られたくないようで、隠すのに必死である。
当然だが、彼も、私の担任とも親戚であり、北城家の一族でもある。
そんな理由で、説明も頼みごとをするのも、顔が利く相手でもあり、私には非常に便利な存在で、気楽な仲であるのだ。ただ…今日も会った瞬間は、嫌そうな顔はされるけどね。それでも説明をすれば、すぐに了解してくれた。
「お前も大変だな。」って言われても、彼が思っている程ではないんだよね。
私自身は、別に…そう大変だとは思っていない。
私が一緒に現れることで、違う意味で目立つのは分かっていたから、一計を案じていただけなんだよ。後は、彼が協力してくれれば完璧だ。
「私が、何かトラブルに巻き込まれて、そこに丁度通り掛かった菅さんが、助けてくれた、という話にしてほしい。」
「了解。うちの部員にはそう話しておくよ。そうすれば、お前の思惑通り、菅は北岡の恩人となる。今後は、お前と話していても、余り悪く見られないだろうな。相変わらず…良い知恵も悪知恵も、冴え渡っているよな。」
これは、彼流の最上の褒め言葉でもある。うん。君は相変わらず、私にとって最も顔の利く相手だからね。心から親戚で良かった、と思っているんだよ。
以前、夕月側からも書きたいとしていた、番外編です。
65話~70話の間と同一の話の為、視点が萌々花とも大夢ともダブります。
同じ内容の部分がありますが、為るべくダブらないよう割愛しています。
また、若干ニュアンスが異なっています。
あの時、夕月はどうしていたのかが、よく分かります。また、夕月しか知らない事情も出て来ていますので、同じ内容の話でも楽しんでもらえるかと思います。
夕月には、未香子でさえ知らない秘密が、色々とありますので、番外編では少しずつその秘密をバラしていけたら、と思っている次第です。




